「ヒッキー・ソトニデテミターノ」を見る
ハイバイ「ヒッキー・ソトニデテミターノ」
作・演出 岩井秀人
出演 岩井秀人/平原テツ/田村健太郎
チャン・リーメイ/能島瑞穂/高橋周平
藤谷理子/猪股俊明/古舘寛治
観劇日 2018年2月17日(土曜日)午後2時開演
劇場 東京芸術劇場シアターイースト
上演時間 2時間
料金 4000円
ロビーでは、パンフレットやTシャツ、戯曲や手ぬぐいなどが販売されていたようだった。
ネタバレありの感想は以下に。
久々に見る「ハイバイ」である。
舞台を広く使う感じ、舞台が空間に浮いている感じなのは、数少ないこれまで見た作品に共通していると思う。舞台をぐるっと一回りできる感じで、かつ、舞台と客席の間に溝がある感じといえばいいんだろうか。
開演直前に主催の岩井秀人が素の感じで出てきて、注意事項をしゃべるのも同じだ。
特に飴のくだりが毎回可笑しい。毎回言っても(特にこれからは花粉症の季節だし)、飴の袋をゆっくりチリチリと開ける人がいるってことなんだと思う。
ハイバイの代表作とも、岩井秀人の代表作とも言っていいのだろう「ヒッキー・カンクーントルネード」を見たことがないし、この芝居の初演も見ていないので、「噂だけは聞いていた芝居(映画)の続編を、何の予備知識もなく見に来ちゃいました」という感じで見始めた。
10年くらい引きこもっている青年の両親の物語から始まる。
両親の思いだったり日常だったりは語られるけれど、そこに突然に暴君として登場する息子は、何というか全く闖入者、破壊者として描かれているように思う。
そして、その両親がどこかの団体に相談し、担当者が「元はひきこもりだった」という岩井秀人自身をモデルとしているらしい登美男青年とともに話し、家に行き、彼を引っ張り出すために兵糧攻めにする。
彼ら二人は、28年引きこもっているという50歳近い男性のところにも出向いて行く。
論理的であろうとするしゃべり方をするその男性の、「外に出て**というシチュエーションに出会った場合はどう対応するのが正しいのか」というシュミレーションに延々と付き合う。
しかし、そこには暴力や怯えの気配はない。
その男性と、すでに定年退職している父親との関係を描いているとき、その視点は「担当者」の二人だ。
今は外に出ている登美男自身が引きこもっていた頃の話も、これは登美男の記憶を見ている感じなのか、ときどき挿入される。現在の登美男にとって、この舞台の中で時間はちゃんと時系列で流れているけれど、引きこもっていた頃の登美男の話は時系列が混乱している。やっぱりここは、現在の登美男が思い出している自身の記憶を見ている、のかも知れない。
だから、引きこもっていたころの登美男の話は、第三者的に表現されつつ、やはり、登美男自身の視点の話なんだろうという感じがする。
黒木さん(だったと思う、登美男と組んでいる女性スタッフ)の存在が不思議な感じだった。
ひきこもっている人たちを引っ張り出し、寮生活を送り、いわば社会に再び送り出す。確信を持った自信に満ちた話し方、引きこもっている人に話しかけているときの口調、引きこもっている青年の両親への対応、個人的なことを話している人たちを観察するような視線等々、全く知らない私が「それっぽい」と感じるような立ち居振る舞いをしている。
彼女の確信や存在は、このお芝居のキーポイントだろうと思うのだけれど、そこが解説されたり語られたりする様子はない。むしろ「私だって分からない」と彼女自身が語っている。
彼女が分かればこのお芝居が分かるような気がして、後半は「引きこもっているときと、外に出た後」の両方を知っている登美男よりもむしろ彼女の方が気になってしまった。
青年はコンピュータ関係が得意なようで、ネットで求人に応募して採用され、寮を早々に出て行くことになる。
青年の攻撃的な物言いが変わった訳ではなく、技術はともかく「社会人」として集団の中に入ってやって行くことが本当に可能なのか、一人暮らしが可能なのか、かなり心配になるけれど、本人は自信満々だ。
心配になるというよりも、ものすごく感じが悪いし、むしろ上手く順応できなかったという結果になる方がしっくりくる、みたいな意地の悪いことを考えてしまう。
男性は、そうした青年に煽られつつも、「近所のお弁当屋さんの奥さんが自分を見るときの目が濡れている」と主張し、その奥さんから声をかけられてお弁当やさんでのアルバイトを始めることになる。
こちらはこちらで、この男性の主張が事実であっても事実でなかったとしても、やはり成り行きが心配である。
そして、送別会(壮行会)の翌日、二人は揃って寮を出て行き、駅で別れた後、男性は車に飛び込んで亡くなってしまう。
黒木と登美男は二人でお葬式に参列し、男性の父親と話をし、そこで幕である。
「理由」が語られることはない。多分、分からないからだ。
知らずに固唾をのみ、集中を求められるお芝居だった。
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