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2018.03.04

「岸 リトラル」を見る

「岸 リトラル」
作 ワジディ・ムワワド
翻訳 藤井慎太郎
演出 上村聡史
出演 岡本健一/亀田佳明/栗田桃子/小柳友
    鈴木勝大/佐川和正/大谷亮介/中嶋朋子
観劇日 2018年3月3日(土曜日)午後1時開演
劇場 シアタートラム
上演時間 3時間30分(15分の休憩あり)
料金 6800円
 
 パンフレットが販売されていたとおもうのだけれど、何故か見事にロビーの記憶がない。

 ネタバレありの感想は以下に。

 世田谷パブリックシアターの公式WEBサイト内、「岸 リトラル」のページはこちら。

 劇作家がレバノンの人だということは、この戯曲も中東が舞台なんだと思う。
 主人公のお父さんの名前がイスマイルだしと思うけれど、女性はジャンヌだったりジョゼフィーヌだったり、ヨーロッパ風の名前が多い。よく分からない。
 多いといえば、女性の役は他にもシモーヌとか、「ヌ」で終わる名前が多かった。何か意味があるのかも知れないと思う。

 とにかくどこだか分からない国で、亀田佳明演じるウィルフリードという若者が、(多分)行きずりの女の子とベッドにいるときに、「あなたのお父様が亡くなりました」という電話を受けるところからこの芝居は始まる。
 始まるのだけれど、割と時間を行き来していて、呼び出されて役所に行った場面、自分が生まれたときに亡くなった母親の兄弟が集まった場面、父親の埋葬をするために父の生まれ故郷の国に行こうと裁判所の許可を求める場面などが時系列でなく語られ、しかもこういった場面のすべてが「映画で撮影中のシーン」になったりならなかったりするし、場所もあっちこっちに飛ぶので、慣れるまでは付いて行くのが大変だ。

 だからという訳ではないけれど、しばらくは映画監督を演じている役者さんが誰だか分からず、でも絶対にこの声としゃべり方は知っていると考え続け、「大谷亮平だ」と分かるまで悶々としてしまった。
 やっぱり役者さんは声だよ、白髪とかマスクとかキャップとかで見た目は変えられても、声を変えるのは一苦労だもんなぁと思ったりした。
 相変わらず、私は役者さんの声に惹かれるし拘っている。

 一幕の終わり頃、ウィルフリードの周りには、亡くなった父親の亡霊っぽい存在や、「父親がいたら父親が聞かせてくれただろう」とウィルフリードが信じている物語の主人公である騎士らが「普通」に登場し、でもウィルフリードにしか見えないし会話もできないという設定になっているおかげで、ますますややこしく、そして現実感を失って行く。
 ウィルフリードの母親であるジャンヌと、ウィルフリードが父の故郷で出会った歌い手のシモーヌを中島朋子が演じていて、シモーヌが出てきた辺りから、何だかこの舞台は寓話っぽくなって行ったように思う。

 一人何役も演じているこの舞台で、どの役とどの役を同じ役者さんに演じさせるかということは多分大きな意味を持っていて、でも、「どんな意味か」ということはよく分からなかった。
 母親にそっくりな(ということは、舞台上では全く語られないけれど、客席から見れば同じ役者さんが演じているのだからそっくりに決まっている)シモーヌと恋に落ちるのかと思ったウィルフリードが、彼女ではなく、父を埋葬する場所を探す旅の最後に出会ったジョゼフィーヌに惹かれたらしいところで、何となくほっとしたりした。
 我ながら変なところでほっとするものである。

 父の生まれ故郷の国に行けば父は快く埋葬してもらえると思っていたウィルフリードは、「母を殺したのは父だ」と思い込みたがっている母の兄弟達とは別の困難に出会うことになる。
 父の生まれ故郷は長い戦乱の中にあって、もはや「亡くなった人を葬る土地もない」状況だったのだ。
 そして、旅の途中に出会い仲間になって行く人々は、みな「父親がいない」。
 殺したのかも知れないし、殺されたのかも知れないし、最初からいなかったのかも知れない。
 とにかく、父親がいない子供達だ。

 その父親がいない子供達は、それぞれの「父親がいない」という自身の物語を語りながら、旅を続ける。
 そうして行くうちに、イスマイルの遺体はどんどん腐って行く。
 ある意味でおとぎ話的な衣装と、その衣装を着た彼らの語る言葉のギャップにどんどんこちらの混乱は深まって行く。
 途中から、台詞を聞くことを私の頭が拒否し始めたくらいだ。台詞は聞かず、頭の中にはただ「よく分からないけど、辛い舞台だ」という言葉だけがぐるぐると回る。

 ウィルフリードは父親を埋葬すべき場所は海だと決め、遺体を埋めるのではなく、海に流そうと決める。
 そうして父親の遺体を洗い清めるうちに、イスマイルは父親を亡くした子供達全員の「父親」として、彼らと最後に語り合う。
 ウィルフリードは、父親を海に帰すと決めたのと同時に、物語の登場人物である騎士との別れも決める。「今日で僕の子供時代は終わりだ」と、父親の体と同時に自分の子供時代とも別れを告げ、一人で何ごとかと向き合って行くことを決める。

 そこまで持ってくるのにしつこいくらいにあの手この手を使った割に、幕切れからカーテンコールまでは酷くあっさりしていた。
 もう少し余韻を持って、暗くなった舞台をキープしても良かったんじゃなかろうかと思ったくらいだ。あんなに短くては、こちらに現実世界に戻ってくる準備ができていない。

 とにかく辛い内容の舞台だった。

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コメント

 みき様、コメントありがとうございます。

 そして、同じ公演をご覧になっていたのですね。どこかでニアミスしていたかも知れませんね。ふふふ。

 おっしゃる通り、中嶋朋子の歌声は、流石、役者さんという感じでした。
 発声ができていると歌も上手いんだなぁと思いました。

 そして、絵の具を塗るシーン、そういえば、このお芝居はウィルフリードに白い絵の具を塗りたくるシーンで始まり、イスマイルに青っぽい絵の具を塗って行くシーンで終わるんですね。
 みきさんのコメントを見て、そうかぁ、絵の具のシーンを最初と最後に持ってきて、舞台全体を挟んでいたのだなぁと思い至りました。
 ありがとうございます。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2018.03.04 18:02

こんにちは。同じ時間に見ていました!前作は映画(映画の題は「灼熱の魂」)も舞台も見ていて、今作はどうしようかと迷っていたら、姫林檎さまがチケットを取ったことをこのブログで知り、チケット取りました。影響されやすいタイプなのです(笑)なので土曜日だし、もしやいらっしゃるのでは?とキョロキョロしていました。
内容は・・・すべてが映画の撮影でした、というオチになるのかと思っていたら、そうでもなさそうなあいまいさで、少々消化不良気味でした。
一番印象に残っているのは中嶋朋子の歌声です。あの細い体からあの声が出るなんて、やっぱり役者さんはすごいな~と思いました。それから絵の具?を塗っていくところなど舞台ならではの演出は楽しめました。

投稿: みき | 2018.03.04 08:32

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