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2018.03.21

「赤道の下のマクベス」を見る

「赤道の下のマクベス」
作・演出 鄭義信
出演 池内博之/浅野雅博/尾上寛之/丸山厚人
    木津誠之/チョウヨンホ/岩男海史/平田満
観劇日 2018年3月21日(水曜日)午後1時開演
劇場 新国立劇場小劇場
上演時間 2時間45分(15分の休憩あり)
料金 6480円 
 
 ロビーでパンフレット(800円、だったと思う)などが販売されていた。
 ネタバレありの感想は以下に。

 新国立劇場の公式Webサイト内、「赤道の下のマクベス」のページはこちら。

 舞台はシンガポールのチャンギ刑務所である。
 というか、多分、劇中では「シンガポール」とは1回も説明されていないと思う。その場所が「チャンギ」と呼ばれているだけだ。どこだろうと思っていて、しばらくして「シンガポールの空港は確かチャンギ国際空港って名前だったよな」と思い出した。後で確認したら当たっていた。
 そこは熱帯地域で、ジャワの話が出たり、雨季と乾季があったり、イギリスの管理下に置かれていたりといったヒントだけが提示される。

 そこが「刑務所」と呼ばれる場所だったかということも語られなかったかも知れない。
 ただ、絞首台が高々とあり、六つの独房に入れられている6人の男達がみな死刑判決を受けている、ここには死刑判決を受けた日本人と朝鮮人しかいない、ということが少しずつ語られるだけだ。
 日本人が3人、朝鮮人が3人。
 日本人はみな軍人で、朝鮮人はみな「捕虜監視員」として働いていた人々のようだ。

 日中は強制的に中庭に出され、食事は日に2食のみ、そこにいる半分以上は「自分が死刑判決を受けたのは間違いだ」と思っている。
 あるいは、自分よりももっと死刑判決を受けるべき人間がいるのに、そいつらはのうのうと生きていると思っている。もちろん、そう語る。語らない人もいる。自分は人殺しだと語る人もいる。
 碁を打ち、マクベスの台本をもとに台詞を語り、喧嘩をし、歌い、手紙を書き、親友を殺したのはこいつだと殴りかかり、故郷からの手紙を読む。

 そこにあるのは日常であり非日常だ。
 明るいけれど、その明るさの奥には「いつか明日は来なくなる」という思いがある。なるべく忘れようとしていたり、ことさらに目の前に置いてみたり、語ったり語らなかったりする。
 でも、このお芝居を観ていて一番感じたのは、暴力の気配だった。

 何故だろう。
 実際は、翌朝の執行を告げられたときの池内博之演じるパク・ナムソンに対するイギリス人看守の暴力のシーンがあっただけだと思うのだけれど、でも、このお芝居の全編を通じて暴力の気配がずっとあったような気がする。
 尾上寛之演じるイ・ムンピョンがずっと足を引きずり、目の周りにあざを作っていたせいだろうか。
 その暴力の気配に対する怯えが、一種異様な集中力を生んでいたように思う。
 それはもちろん、「絞首刑」という最大の暴力が常に舞台上にある訳だけれど、6人の死刑囚たちの怯えが伝染していたということなんだろうか。

 この6人の関係は複雑で、その複雑さを生んでいるのが浅野雅博演じる山形大尉の存在だと思う。
 彼はこの中で唯一、「本当に責任を負うべき」と皆が考えた立場に近いところにいる。
 「大尉」という階級故なのか、一人、泰然とし孤高を保ち、能面を保っている。
 彼を「山形大尉どの」と慕う兵もいれば、「親友を殺した男」として殺そうとする男もいる。
 パク・ナムソンや、彼と碁を打ち最も話し、最後のお別れをさせてくれと言って彼の父親役を買って出た平田満演じる黒田よりも、何だかキーパーソンに見えた。

 最後は、6人のうち3人が絞首刑を告げられて死に、一人は懲役20年に減刑されて移り、二人が残る。
 二人は、スコールの降る中、碁を打ち続ける。
 水をしたたらせながら「自分たちは生きている」と語る。
 そこで幕だ。

 水というのは命の象徴なんだなと思う。
 何だか泣きすぎて頭痛がしてきた。
 見て良かったと思う。

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コメント

 momoさま、初めまして(ですよね?)&コメントありがとうございます。

 自分がどんな感想を書いたかすでにすっかり忘れ果てておりまして、コメントをいただいて読み返したら、お芝居を観たときのことを思い出してきました。
 こちらこそ、振り返るきっかけをくださって感謝します。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2018.07.07 21:57

「暴力の気配に対する怯え」
ああ本当に。そうでした。観ている間中、怖くて仕方なかった。それが私に、“一種異様な”緊張を強いていました。
あの劇空間を、端的に表現してくださった。感謝します。

投稿: momo | 2018.07.07 20:13

 みき様、コメントありがとうございます&お返事が遅れましてごめんなさい。

 鄭義信さんは「記録する演劇」というテーマをお持ちなのですね。
 すみません、ほとんど情報収集をしないで見に行くことが多くて・・・、存じませんでした。
 記録もですが、誰かに覚えていてもらいたい、せめて誰かに知ってもらいたいという気持ちもあるんじゃないかしらとも思いました。

 それを体現する役者さんたちも、もの凄いエネルギーを注ぎ込んでいるのでしょうね。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2018.03.25 10:25

尾上寛之が減刑された仲間に手紙を託すところが、作者の「記録する演劇」というテーマを表しているのかな、と思いました。
それにしても、この芝居の演者さんたちの精神力はすごいです。

投稿: みき | 2018.03.22 09:12

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