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2018.03.18

「隣の芝生も」を見る

MONO「隣の芝生も」
作・演出 土田英生
出演 水沼健/奥村泰彦/尾方宣久/金替康博/土田英生
    石丸奈菜美/大村わたる/高橋明日香/立川 茜/渡辺啓太
観劇日 2018年3月17日(土曜日)午後2時開演
劇場 座・高円寺1
上演時間 2時間
料金 4200円
 
 ロビーではパンフレットや上演台本、過去作品のDVD唐が販売されていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 MONOの公式WEBサイト内、「隣の芝生も」のページはこちら。

 劇場に入って、随分と客席が少ないなと思ったら、恐らく、舞台上に回り舞台を設定するために舞台時代の奥行きを深くする必要があって、それで客席が少なくなっているんじゃないかと気がついた。
 割と、久々に「回り舞台」を見た気がする。
 IHIで「回る客席」に何回も座ったので、却って新鮮だったりした。

 駅近らしいいかにも古そうな雑居ビルが舞台である。
 多分、その2階とか3階とかだと思う。決して高層ビルではない。
 そのビルの同じフロアのあっちの部屋とこっちの部屋に、会社とも言えない感じの人々が入居している。
 最初は「本日入居」の男達の物語から始まる。MONOメンバー5人がそこの入居者で、彼らは足を洗ったばかりの元ヤクザ(と足を洗わなかった現役のヤクザ一人)で、これから探偵事務所でも開こうという思惑らしい。

 元ヤクザたちの組長が昔に世話になったヤクザ(多分、こちらも現役ではない)がこの雑居ビルのオーナーで、その縁で格安で貸してもらっているようだ。
 その辺りの事情が徐々に明らかになる訳だけれど、どうにも彼らが探偵事務所を開こうとしているようには見えない。組長は、最後の仕事で大損をさせた香港マフィアから命を狙われていると忠告を受けてびびりまくっているし、そのビビりに元組員たちは丁寧に付き合っている。

 そうして組長(今は「ボス」と呼ぶように命令している)がビビりまくっているところに来客があり、その若い女性は、ビルのオーナーの娘で、16万円が相場の家賃がどうして3万になっているのか確認に来たのだという。
 ついでに、同じフロアにあるハンコ屋は自分の友達がやっているのだと言い、彼女を仲立ちにして(それは、両方の部屋で同時にトイレを使うと水が流れなくなるという事情があるからだけれども)徐々に「元ヤクザの探偵事務所もどき」と「若者のハンコ屋」の間に交流が生まれ始める。

 その「交流」が本格化したのは、ハンコ屋をやっている兄妹のうち、兄の方が失踪し、心配した妹が元ヤクザの探偵事務所を訪ねて兄の捜索を依頼し、元組員の一番強面の男が彼女に惚れてついつい引き受けてしまった辺りからだ。
 これがまあ「交流」で済んでいれば良かったものの、彼女の兄が実は香港マフィアに雇われてボスを狙っていたということが、足を洗わなかった現役ヤクザの活躍(?)で分かったことから、どんどん深みにはまり出す。

 回り舞台は、この2カ所のお部屋を区別し入れ替えるためにくるくると場面転換のたびに回る。
 その様子を見せることで、「お隣」感がより強く醸し出されていると思う。

 深みにはまったのはこの芝居の登場人物たちの話で、見ているこちらからすると、いよいよ本格的に物語が動き始めましたね、ということになる。
 そこまでが、ちょっと長い、ような気がする。
 そして、ここからの展開が、「オーナーかつ元ヤクザの娘」が調べ上げてきた「彼女の父親がボスの命を狙わせている」ことと「その父親にハンコ屋兄は実は隣の様子を盗聴するよう頼まれてバイト感覚で引き受けていた」ことが、その後の展開を決めて行く。

 私などは、「これって、別に隣の芝生が青く見えるって話じゃないよなぁ」「タイトル決めて、話の筋も決めて、書き始めたら別のことが書きたくなっちゃったのかなぁ」などともの凄く勝手な妄想まで広げたくらい、隣の芝生な感じはしない。
 元ヤクザの5人と、ハンコ屋の4人は、もはや世界が違いすぎて「お隣をうらやむ」ことはなさそうである。やっぱり「隣の芝生」が青く感じるのは、せめてお隣同士のお庭に芝生を植えているという共通項があるからで、その程度の近さがないと羨むなどという感情は生まれないような気がする。
 それとも、タイトルの「隣の芝生も」の最後の「も」にはすべてをひっくり返す何かが込められているんだろうか。

 だから「羨む」ことよりも、描かれなかった「真相」の方が気になった。
 オーナーの娘の告発(は少し大げさかも知れない)を受け、また、現役ヤクザの男が「敵」に撃たれたことを受け、元ヤクザたちは「ヤクザ」に復帰して、オーナーの命を奪いに行く。
 その4人を見送った、オーナーの娘とハンコ屋兄は、二人で「ヤクザと自分たちとどっちが悪いんだろう」と呟く。

 そして、数ヶ月くらいたった後なのか、ハンコ屋では「お隣に探偵事務所が入った」と噂話に花を咲かせている。
 ヤクザの男は、なぜだかハンコ屋の販路拡大に協力しているらしい。
 ハンコ屋兄は、また姿を消しているらしい。
 姿を消したハンコ屋兄や、退去した元ヤクザの男達の動向についてオーナーの娘は何かを知っているようだけれど、何も話そうとはしない。
 ヤクザの男の胸には、香港マフィアを表している(のかも知れない)バッジが光っている。

 一気にこれだけを語り、それ以上は語らず、幕が下りる。

 私の中では、オーナーの命を狙ったオーナーの娘が、ハンコ屋兄とヤクザの男を操って、お隣にやってきた昔自分の母親に惚れていた元ヤクザのボスやその子分達を騙くらかして本懐を遂げ、しかし彼らは返り討ちにあって全員死んでしまい、しかし、ヤクザの男だけは香港マフィアとのつながりを作って生き延びた、という結論に達したのだけれど、本当のところはどうなんだろう。
 これだとハンコ屋兄の立場が今ひとつはっきりできないところが大きな穴だ。

 もう少し裏というかその後というか経過というか、何が起こったのかを語ってよ、単細胞の私は全くすっきりしないのよ、と思う反面、色々あり得そうなストーリーを考える楽しみが残って良かったのかもとも思う。
 何となく、カクスコの舞台を思い出す舞台だった。

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