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2018.03.25

「江戸は燃えているか TOUCH AND GO」を見る

「江戸は燃えているか TOUCH AND GO」
作・演出 三谷幸喜
出演 中村獅童/松岡昌宏/松岡茉優/高田聖子
    八木亜希子/飯尾和樹/磯山さやか/妃海風
    中村蝶紫/吉田ボイス/藤本隆宏/田中圭
観劇日 2018年3月24日(土曜日)午後5時開演
劇場 新橋演舞場
上演時間 3時間15分(35分の休憩あり)
料金 13000円
 
 新橋演舞場だけれど、「筋書き」ではなく「パンフレット」という名前で販売されていたと思う。確か、1800円だった。

 19日に休演した松岡茉優も元気に舞台を務めていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 パルコ劇場の公式Webサイト内、「江戸は燃えているか TOUCH AND GO」のページはこちら。

 江戸に薩長軍が迫っているさなか、江戸城無血開城を事実上決めることになった、西郷隆盛と勝海舟との会談が勝海舟の屋敷で行われたという設定のお芝居である。
 どこまで史実に則っていて、どこからが「作り話」なのか、歴史に詳しくない私には全く分からなかった。多分、勝海舟邸に西郷隆盛が来たという事実はないんだろうな、というくらいのところである。

 勝海舟といえば、江戸城無血開城の立役者というイメージだけれど、このお芝居で中村獅童が演じる勝海舟は、優柔不断で女好きな、屋敷の使用人達から見てどこまで行っても「頼りなくて情けない」人物のようである。
 徹底抗戦か恭順かを決めかね、西郷隆盛からの事前の会談の申入れからも逃げ出す父親を見て、松岡茉優演じる勝海舟の娘が何故か決意に満ち満ちて周りの人間を巻き込み、父親をそば屋に追っ払った隙に代役を立て、西郷隆盛に恭順の意を伝えようともくろみます。

 決意はともかくとして、娘のゆめ(という名前だったような・・・)に実際の作戦やシナリオを作る力がある筈もなく、そこは、田中圭演じる勝海舟の妹婿が司令塔、高田聖子演じる勝家の女中頭が実働部隊、松岡昌宏演じる植木職人の平次を替え玉にして、作戦決行である。
 西郷との連絡役を務める山岡鉄舟や、勝海舟の妻、勝家の他の使用人たちはその辺りの事情を全く知らないし知らされていないし、勝海舟の妹は断固徹底抗戦を唱えているし、この偽会談が壊れる可能性は99%という感じだ。
 そのドタバタを描いているのだから、面白くない筈もない。

 ただ、藤本隆宏演じる西郷隆盛と勝海舟に扮した平次の会談が「徳川慶喜は薩摩藩お預かりではなく、備前藩へのお預かりで」という結論にたどり着き、江戸幕府の恭順に終わったところまでを描いた第一幕では、正直、何だかテンポが悪いなぁと思っていた。
 面白い。
 ついつい笑ってる。
 でも、何だか間延びしてる気がするのは何故? と思っていた。
 多分、「仕込み」の要素が多かったからじゃないかと思う。

 一幕は、ゆめに「とにかく勝海舟を家に戻すな」とだけゆめに命じられた磯山さやか演じるいとと一緒に江戸の町を歩いた勝海舟が「西郷隆盛に会って降伏を受け入れる」と宣言するところで終わる。
 もちろん、ゆめを始めとする「ニセ会談」を成立させるべく奔走した面々は倒れ込み、でも、そこは何故か不屈の闘志を見せるゆめが「西郷隆盛の偽物を仕立てて会談をやらせる!」と宣言し、妹婿がやけっぱちながら「面白くなってきた!」と受け、幕だ。

 第二幕は、西郷隆盛の偽物を、ゆめに惚れている相撲取りの「でく」にやらせよう、でも「でく」はゆめが自分と結婚してくれると信じ、そのために勝海舟に会うのだと思い込んでいて、全く「仕込み」をすることができない、というところから始まる。
 西郷隆盛とでくを一人二役で演じている藤本隆宏が上手すぎて、この二人が「同一人物」に全く見えないところが困ったところである。
 もうちょっと似ててもいい。

 平次は曲がりなりにも「自分の役目」を心得ていたけれど、でくは全く分かっていない訳で、騙すべき相手の素性を知り抜いているというアドバンテージはあるものの、自邸にいる分ワガママなのであって、やはり第二幕の方がドタバタ度はアップする。
 さらに、西郷隆盛が再び勝海舟に会いたいとやってくることになったから、もはやドタバタどころではない。
 何しろ勝海舟の屋敷に西郷隆盛と勝海舟が二人ずついるのだ。
 どこかで見たことがあるような設定ながら、それを料理する三谷幸喜の面目躍如といったところである。

 そういえば「突然、歌い出すのがおかしい」とミュージカルについてコメントしていた三谷幸喜なのに、突然、歌って踊るシーンが入ったのが可笑しかった。
 歌詞の内容が「江戸は当時、世界で一番大きく人口密度の高い都市だった」といういわば蘊蓄で、ここで歌い踊る意味はほとんどないところもポイントが高い。

 勝海舟が、自分が勝海舟であると西郷隆盛に証明しようとして、いとに「自分が旦那様であると言わせよう」と頑張る辺りから、俄然、テンポアップする。
 あのシーンは、中村獅童のアドリブに見えたのだけれど、実際のところはどうだったのだろう。
 「笑いを抑えきれない磯山さやかが、なかなか”旦那様”と言えず、”旦那様”と言わせなければ次のシーンに行けない中村獅童が素で騒いでいる」ようにも見えて、何とも可笑しい。
 芝居としては禁じ手じゃないかと思いつつ、「おまえら、なんで休憩しているんだよ!」「後ろ向いて笑えばいいってもんじゃないんだよ!」と共演者に突っ込む中村獅童が可笑しすぎる。

 でも、この後の怒濤の展開は一転、シリアスである。
 「何も残らない」とか「劇場を一歩出たら忘れている」とかではない。勝海舟が西郷隆盛に自分が本物であるとやっと分からせた後の交渉の様子は、本当に格好いい。
 これぞ、男の中の男、という感じである。

 そして、この芝居の最後は、平次に惚れていたいとが、「俺を縛り付けるな」と言い放つ平次を槍の穂先のようなもので刺して終わる。
 刺された平次は、その後、女中頭から今回の報酬を受け取って「お伊勢参りに行く」と嘘をつき、登城するという勝海舟と「(江戸時代が終わっても)桜は毎年咲き続ける」と話し、勝海舟の屋敷を後にする。
 花道をよろけて歩く平次、裃姿で座敷に立って先を見る勝海舟、駕籠の用意ができましたとかしこまっていた筈の女中頭の三人で、この芝居の幕が下りる。

 だめじゃん、笑って終わりじゃないじゃん。
 そう思いつつ、やっぱり面白かったなぁ、でも「恋」ではない男女の話が多すぎやしないか? ブツクサ言いたい気持ちになりつつ、劇場を後にした。

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