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「Take Me Out 2018」
作:リチャード・グリーンバーグ
翻訳:小川絵梨子
演出:藤田俊太郎
出演 玉置玲央/栗原類/浜中文一/味方良介
小柳心/陳内将/Spi/章平
吉田健悟/竪山隼太/田中茂弘
観劇日 2018年3月31日(土曜日)午後1時開演
劇場 DDD AOYAMA CROSS THEATER
上演時間 2時間
料金 8800円
DDD AOYAMA CROSS THEATERには初めて行った。青山円形劇場の跡地の脇の道を入ってすぐのところにあった。地下に入口があって、そこまで結構急な階段が一直線に降りているので、若干怖い。
TOPSよりは広い、シアターイーストよりは狭い、という印象だけれど、客席がどれくらいあったかはよく分からなかった。
パンフレット等も販売されていたけれど、チェックしそびれてしまった。
ネタバレありの感想は以下に。
スペースの真ん中に低い舞台を設け、両側から挟むように客席がある。
必然的にセットはほとんどない。可動式で「鉄骨を組んだ」という感じのロッカーをイメージした枠があって、それを出演者自ら動かすことでセットを作る。もっとも、概ねは両脇に寄せられていて、視界の妨げになることはなかった。
味方良介演じるキッピーという選手がこの物語の語り手だ。
最初から最後まで、彼が狂言回しの役を務める。ここまではっきりくっきりと狂言回しがいる舞台は、最近あまり見かけない気がする。逆にちょっと新鮮だった。
彼が語り始めたのは、エンパイアーズという野球チームの話だ。彼ももちろんその一員である。
チームにダレンという人気者かつ人格者である選手がおり、章平演じるこのダレンがある日自分がゲイであることをインタビューで語ったことから物語は始まる。
今ひとつこの「人格者」というところが分からないのが困ったところだ。
うん、多分アメリカではこのダレンの語る内容は「人格者」が語る内容なんだろう、でも私には彼の人格者たる所以がよく分からない、という状態で物語が進む。
彼がこれまで完璧な大リーガーだったからこそ、彼の「ゲイである」という告白はチームメイトにとりあえず受け入れられ、あからさまな揶揄や反発は(全くないという訳ではないにしろ)大々的に発生することはなかった、という設定に納得がゆくかゆかないかは、この舞台を見る側のポイントの一つだと思う。
私は、どっちかというとこの語り手のキッピーの方が人格者っぽく見えるよ、と思っていたので、何となくの違和感をずっと抱きながら舞台を見ることになった。
そのいわば「かりそめの平穏」が破られたのは、チームの負けが込んできて、別のチームの2軍から新しい押さえのピッチャーが移籍してきたことが発端だ。
栗原類演じるシェーンというこの選手は、どうにも自己表現が下手だし、そもそも周りとコミュニケーションを取ろうという意思を持っていないように見える。一言でいうと、エキセントリック、という印象だ。
キッピーとダレンが彼に話しかけたことで、その不穏な感じはさらに分かりやすく予告される。
しかし、抑えの投手としての腕は超一流だ。もの凄い豪腕ピッチャーらしい。
その彼が、優勝後のインタビューで、「ゲイと並んでシャワーを浴びるなんて信じられない。」といった趣旨の発言をしたことから、エンパイアーズの中で様々に蓋をされてきた問題が噴出する。
大リーグのチームだから、各国から選手が集まっているし、人種だって様々だ。集まった選手が英語を話せるとは限らないし、米国人の選手たちがスペイン語や日本語を語れるとも限らない。
元々がコミュニケーションを図るには難しく、「チームが勝っている」から生まれなかった軋轢も、負け始めれば表面化してくる。
それは「ダレンはゲイである」という事実についても同様だ。
シェーンが抑えの投手として優秀だったからこそ、謹慎処分となった彼をチームに戻したいという「力」も生まれる。
そして、シェーンがいわば「反省文」のような手紙を書いたことで、世間は(恐らく)軟化しかつシェーンに対して同情的になり、チームとしてもシェーンを戻すきっかけを得たことになる。
その世間とチームの動きに対して、ダレンが壊れ出す。
自分をあそこまで侮辱した選手とまた一緒にロッカールームを使い、野球をしなくてはならないのか、と監督に詰め寄っても、芳しい返事は返ってこない。
明日はシェーンが復帰するという日、ダレンは玉置玲央演じる自身の会計士であるメイに引退を相談する。
ダレンのマネージャになった後、野球を見るようになったメイは同時に野球とダレンのファンになっていて、会計士の立場としてからも、ファンの立場からも、「それはダメです」と野球に対する思いを語る。
その中で、野球には時計がない、という言い方が印象的だった。だからフェアである、とメイは言う。
運動神経抜群で体が動きまくる玉置玲央を野球選手としてではなくマネージャとして起用するって贅沢だなと思う。同時に、あの低い声も封印している。そうすると、笑顔が印象的になるんだなと思った。
メイの説得で引退を思いとどまったダレンではあったけれど、別チームにいる親友のデイビー・バトルと試合前に話すことになる。デイビーは、何というか、「神」をもの凄く厳格に信じているタイプに見える。その彼が「ゲイ」を(世間に対する態度とは別に)受け入れられる訳はなさそうで、この話し合いも不穏なものであったろうと推測できる。
そして、ダレンは廊下ですれ違ったシェーンに、「ゲイ」として攻撃的な態度に出て、シェーンを怒らせ、パニックを誘発する。
結果、抑えの投手として出てきたシェーンは、あからさまに動揺しており、そして、彼の投げた剛速球が打席に立ったデイビーの頭に当たり、デイビーは倒れ、そして二度と起き上がれなくなってしまう。
何もしゃべらないシェーンがキッピーを指名したことから、キッピーとダレンが拘置所(だと思われる)にシェーンを訪ねる。
そこで、ダレンとデイビーの話の内容、ダレンとシェーンの話の内容、キッピーがシェーンに代わってしたことの内容、シェーンが野球での勝利をどう捉えていたか、様々なことが明らかになる。
シーズンは終わる。
シェーンがマウンドに立つことは二度とない。
ダレンは、今のところ、野球を続けているようだ。
キッピーは彼に「また友達に戻れるか」と問い、ダレンは「俺たちは友達だったのか」と返す。
ダレンが、「自分と一緒にパーティに行こう(そして、自分の恋人として全国に紹介されてくれ)」とメイに言い、メイはそれを受け入れる。
苦悩の表情を見せたメイだけれど、改めて迎えに来たダレンに飛びつき、「次のシーズンまで何をしよう」と語る。
そこで幕だ。
分からない。
明かりが消えたときに最初に頭に浮かんだのはその一言だった。
でも、ここで取り上げられているのは、多分、自覚のない悪意だという気がした。
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