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「1984」
原作 ジョージ・オーウェル
脚本 ロバート・アイク/ダンカン・マクミラン
翻訳 平川大作
演出 小川絵梨子
出演 井上芳雄/ともさかりえ/森下能幸/宮地雅子
山口翔悟/神農直隆/武子太郎/曽我部洋士
青沼くるみ/下澤実礼/本多明鈴日
観劇日 2018年5月11日(金曜日)午後7時開演
劇場 新国立劇場小劇場
上演時間 1時間50分
何とか平日の公演を見に行くことができた。
ロビーではパンフレット(800円)が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
「1984」は、私の中ではSFの古典で、読むべきだと思うけどなかなか手が出せない小説の一つだ。
実際、1年くらい前に購入したものの、最初の10ページくらいで何だか読みにくくて中断して放ってある体たらくだ。
そこへ、この芝居が上演されると知って、なかなかチケットが取れず、平日のチケットを押さえてかなりがんばって見に行った。
多分、小説をそのまま舞台にすると2時間で収まらなかったのだと思う。
主人公のウィンストン・スミスが書いた記録を、恐らくは後世になって政治体制も変わった後で、サークル活動のような形で読んでいる人々がいるというシーンから始まる。
彼らがウィンストンの書いた記録を読むシーンはこの後何度も少しずつ形を変えて繰り返される。
最初は、この仕組みがまどるっこしく、何がどうなっているのかさっぱり分からなかった。
そのうち、彼らのサークル活動に参加しているのかいないのか分からない感じで少し離れたところに座っていた男が、1984年のウィンストン・スミスとして動き始める。
舞台上、斜めに大きなスクリーンが2枚設置されていて、そこに、井上芳雄演じるウィンストンが書く記録のページや、ここではないどこかで演じられている芝居が映し出されたりする。
また、職員食堂らしい場所での食事シーンが、何度も少しずつ形を変えて繰り返される。
この「繰り返し」はこの芝居の演出上の大きな特徴だと思う。
それにしても、「1984」という小説がこんなにも救いのない話だとは思っていなかった。
見ているのが辛くなったくらいだ。
立体化されても辛い、これは小説は読めないかも知れない。
そう思いながら見ていた。
ウィンストンは、完全に管理された社会の中で、「記録の改ざん」という仕事をしている。
政府(なのか?)に都合の悪い事実をあらゆる記録から削除して「なかったことにする」という仕事だ。自分自身はもちろん、自分が何をなかったことにしたかを覚えている。だから、自分のしていることはもちろん、政府がしていること、政府自体にも疑問を持ち始めている。
ともさかりえ演じるジュリアという女性は、そんなウィンストンにメモで愛を告白する。彼女はウィンストンの話を聞くし、自分も体制に疑問を持ってはいるようだけれど、それは政治的な思想としての疑問ではなさそうだ。
ある意味、「自分がしたいことができない」という不満だけで、でも「自分を守るために」体制を積極的に支持しているように見せている訳で、健全といえば健全だ。
でも、そういうことなら、もう少し(言葉は悪いけれど)莫迦っぽく演じても良かったんじゃないかという気もした。何となくアンバランスだ。これも偏見なんだろうか。
ウィンストンに反体制運動をしている団体の構成員であるオブライエンから接触があり、運動に誘われ、彼は進んで協力を誓うけれど、結局のところそれは壮大な罠で、ウィンストン一人のためにこんなに手間暇かけなくても良かろうと思うくらいぐだぐだに追い詰められて行く。
ジュリアは体制側のスパイという訳ではなかったようだ。
骨董品屋のおじいさんは、体制側のスパイだったんだろうか。多分そうだろう。
結局のところ、双方向ビジョンによる監視ではなく、人手による罠が体制を支えているというところが皮肉といえば皮肉だ。
しかし、ここから後がまた酷な展開で、拷問にかけられたジュリアはあっという間に体制側に迎合し、ウィンストンの弱点をしゃべってしまったらしい。
ウィンストンは、真っ白でひたすら明るく影のない101号室で、あくまでも体制のいいなりになることを拒否していたけれど、生理的に極度に苦手としているネズミを脅迫の手段に使われ、「ジュリアを裏切っていない」という自身にとって最後の砦を崩されてしまう。
残ったのは、ただひたすら体制に従い迎合し言いなりとなる「抜け殻」だ。
多分、もはや死人ですらない。
とにかく、見ていて辛い物語だった。
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