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2018.05.26

「図書館的人生 Vol.4 襲ってくるもの」を見る

イキウメ「図書館的人生 Vol.4 襲ってくるもの」
作・演出 前川知大
出演 浜田信也/安井順平/盛隆二/森下創/大窪人衛
    小野ゆり子/清水葉月/田村健太郎/千葉雅子
観劇日 2018年5月26日(土曜日)午後1時開演
劇場 東京芸術劇場シアターイースト
上演時間 2時間5分
料金 5000円
 
 ロビーでは、過去作品のDVD等が販売されていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 イキウメの公式Webサイトはこちら。

 やっぱりイキウメの芝居はいいなぁと思う。
 舞台は入れ子構造のような、額縁が奥に向かって並んでいるようなセットで、時々、天井近くに大きな岩が見えたり見えなかったりしていたと思う。
 モノトーンで、セットで色があったのはテーブルの板面くらいだったのではなかろうか。
 でも、何となく木の匂いのするセットだったように思う。

 3つの短編から成る「図書館的人生Vol.4」のサブタイトルは「襲ってくるもの」で、でも「もの」は襲ってこない。襲ってくるのは、多分、あくまでも自意識だ。
 最初の短編の舞台は2036年で、この短編だけが未来である。
 父親がアルツハイマーを発症したという知らせを受けてアメリカから5年ぶりに帰国した男は、母親に「お父さんはちょっとだけ変わってしまった」と言われる。
 翌朝会った父親は「「箱」だった、という物語だ。

 もちろん「箱」といってもただの箱ではない。
 見た目は、行灯というか、中に光源のある欄間のような細工を施した箱である。
 母親と、父が主宰していた研究所の研究員だった男によると、アルツハイマーを発症した父親は、自分の肉体を捨て、脳をコンピュータに移し替えることでアルツハイマーの進行を抑え、永遠の命と意識を手に入れた、らしい。

 最初のうちは苦悩していた息子もあっという間に順応し、逆に父親に「人間らしく」なってもらおうと、視覚と聴覚しか備えていなかったそのコンピュータに、嗅覚を設置する。
 嗅覚が設置されると、とたんにコンピュータ(に入った父親)のしゃべりが人間っぽくなる。
 本当か。
 そして、嗅覚は記憶を刺激し続け、何故か不幸な思い出したくない記憶だけをリピートし続け、父親は24時間休みなく辛い記憶に苛まれるようになる。

 嗅覚のセンサーを外して欲しいという父親の要求に、息子も研究員も応じようとしない。
 この人たちは、そんなに父親を憎んでいたのかしらと思うくらいだ。もっとも、息子の方は研究者として父親を研究対象としか見ていないが故の反応のようにも見える。
 最後にこの息子が嗅覚のセンサーを切ったときには、かなりほっとした。
 コンピュータに入った父親を声だけで演じた安井順平が異様に上手かった。

 この父親が「思い出したくない」のにプレイバックし続けた30年前の記憶の、その少し前の物語が第2話だ。
 物語の中心は、彼の弟に移る。
 弟は、仕事での配達中、一時停止をせずに交差点に突っ込み80代の男性を轢き、その男性は亡くなってしまう。
 執行猶予が付かずに刑務所に入り、しかし仮出所できたその後の物語だ。

 彼は、一時停止をせずに交差点に突っ込んだのは、分かっていてやったんだと言う。
 「分かっていて」というのは当たっていないかも知れないけれど、とにかく事故ではない、そうしたいという衝動に従ったのだ、と言う。
 彼の中では昔から、自分が例えば「寝る前のお祈り」を続けることで母の命をつなぐことができる、というようないわば信仰があったようだ。

 その「衝動」は、交差点で手を振り続ける人に手を振り替えした女性に向かったり、交差点のど真ん中でフリーズしたり、運転手として勤めていた会社にピッキングのアルバイトとして雇ってもらったのにその仕事中に荷物を放り投げたり、しかし、「自分が衝動に従ったことで誰かの何かが変わることもあるはずだ」「変わった筈だ」「変わるに違いない」とどんどんエスカレートしていく。

 しかし、ピッキングを一緒にやっていた同僚に「その女の子が好きになっただけなのに、そんなに大仰な物語は必要ない。自分のことを分かっていないにもほどがある」と責められ、多分、彼の中で何かが変わる。
 でも、そこは描かれない。
 ただ、第1話で、コンピュータに入った男が思い出して混乱して後悔していたのは、「弟と妻を裏切った」ことだという記憶がそこに残っているだけだ。

 第3話は、ピッキングを一緒にやっていた同僚が「元彼女につきまとうことを禁止されている」状況になったその物語を、「元彼女」の視点で語られることになる。
 彼女は就職活動中の大学生で、付き合っている彼氏がいて、母思い妹思いの兄がいて、彼女の母の癌が再発して、自分は大学を辞めたいと思っていて、母には少しでも長生きして欲しいと思っていて、「あなたのためだから大学は辞めない方がいい」と母と兄に言われ、彼氏からは「何でも相談してくれ」と言われ、そういう「あなたのために」というコトバに違和感を持ち始め、持ち続ける物語だ。

 「あなたのために」は「優しさ」というモノにも繋がっていて、でも、かわいそうで自分が見ていられないから止めるんだ、というのは違うだろうというのはよく分かる。
 そして、この物語では、自分が優しくされることも、自分が優しさからやっていると思い込んでいることも、どちらも彼女が弾劾するところがポイントだと思う。
 襲ってきているのは「違和感」であり、「優しさ」だ。

 相変わらずヒリヒリした感じのする物語を、クールに紡いでくるなぁと思う。
 SF仕立ては、多分、そのクールさをキープするための装置なんだと思う。
 同じ名前で似た設定でだけど違う人物を同じ役者があちこちで演じるというのは劇団の強みだなぁと思う。でも、同時に、劇団の役者が演じる役柄が固定しているような気がして、それは、それぞれの芝居の登場人物の設定が限定されるっていうことでもあるよなぁ、何だか勿体ないなぁとも思ったりした。
 ガラガラポンで、役柄を入れ替えたらどんな感じになるかしらと、見終わって何故かそんなことを考えた。

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コメント

 みき様、コメントありがとうございます。

 NHK-BSのドラマを前川さんがお書きになるのですね。
 今、慌てて検索しました。
 でも、安井さん出演の情報は見つけられず・・・。
 ぜひ見たいと思います。

 もはや自分の席がどこだったかすら覚えていないのですが、確かにナナメから見ていたような記憶です。
 ふと、完璧な左右対称ももしかしてそれはそれで不安な感じなのかしらと思いました。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2018.06.03 19:14

今年の秋にBSプレミアムで放送予定の前川さん作のドラマにも「時枝」という人が出てくるみたいです。主演は西島秀俊さん。時枝は誰が演じるのでしょうね。
そういえば安井さんは今放送中の朝ドラ「半分、青い」にもちらっと出ていましたね。
舞台装置は私の席がちょうど真ん中だったのでわかりましたが、サイドの席ではわからないだろうなーと思いました。

投稿: みき | 2018.06.03 17:21

 みき様、コメントありがとうございます。

 そして、すみません。
 挙げていただいた映画を見たことがなく、小説も読んでおりませんでした・・・。伊坂幸太郎の小説が何故か少しばかり苦手なのです。
 お恥ずかしい。

 舞台装置が左右対照になっていないことに、私は教えていただくまで全く気がついておりませんでした。
 さらに、お恥ずかしい限りです。
 ついでに恥を忍んで書いてしまうと、上手と下手、どちらがどちらだったか未だにピンと来ていないという・・・。

 舞台装置からも不安な感じや不安定な感じ、違和感が醸し出されていたのですね。
 納得です。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2018.06.03 00:02

 みずえ様、コメントありがとうございます。

 「図書館的人生」は、そのタイトルを持った作品すべてが、もしかしたら繋がっているのかもしれませんね。
 私のほぼゼロに近い記憶力では、「例えばここが」とは言えないのですが(笑)。
 時枝さんは、図書館的人生に限らず時々出没しているような気がしますし。

 安井さんは映像作品にも出演されているんですね。
 最近、テレビを見る時間もほとんどなく、映画は元々ほとんど見ないので、その当たりの事情に疎くて・・・。
 やっぱり、ガラガラポンで、いっそのことくじ引きで役柄を決めて上演してもらったら楽しそうですよね。そして、それができる劇団なんじゃないかと思いました。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2018.06.02 23:57

観ました!
1話目はジョニー・デップ主演の映画「トランセンデンス」、2話目は伊坂幸太郎の「フィッシュストーリー」を思い出しました。前川作品には珍しく既視感がありました。
あんみんさんも仰っていますが、前川さんにとって「時枝」という名前は何か思い入れがあるのでしょうかね?
浜田さんのタップを見て「これのことね」と笑ってしまいました。ホント「?」ですね。
舞台の入れ子構造が少し下手側に寄っていたのが、不安定で落ち着かない感じがして、そこが狙いなのかなと思いながら、ザワザワしながら鑑賞しました。

投稿: みき | 2018.05.31 15:12

姫林檎さま

私も観ました。
ただのオムニバスかと思っていたら、軽く繋がっているんですね。
この「軽く」がポイントだと思いました。
がっつりではなく、観る者に解釈を任せる展開がイキウメっぽいといいますか。
怖いエッセンスが絶妙な量で振りかけられてますよね。

役者に関しては、私も同感です。
安井さんなどは、何でもこなせる印象ですが(最近は映像でも活躍してますね)、大窪さんは若者、森下さんは老人役が多いような?
女性はもう入れずに、客演で乗り切るんでしょうか。

投稿: みずえ | 2018.05.28 14:48

 あんみん様、お久しぶりです。
 コメントありがとうございます。

 昨日の同じ回をご覧になっていたのですね。奇遇ですね〜。
 今頃は修羅天魔をご覧になっているのでしょうか。最初に見たときとの違いをどうぞご堪能くださいませ。多分、どこかしら変わっていることでしょう。

 イキウメの久々の新作、楽しかったですね。
 浜田さんのタップは、何でしょうね(笑)。この舞台とは関係なく習い始めて、ぜひご披露したいということだったらちょっと楽しいかも(笑)。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2018.05.27 10:44

おはようございます、あんみんです。
お久しぶりですね、只今観劇遠征中です。
昨日イキウメ同じ回でした、ふふふ。
わぁなんだか嬉しいなぁーとやって来ました(笑)
イキウメからコクーン歌舞伎、本日は修羅天魔(2回目)の予定です。

オープニングのちらっと出た岩を見て、イキウメの世界にやって来たなと思いましたね~。
3話がうまく繋がって感心しました。
佐久間くんが2話でさらっと言った、ストーカー話が3話のその後とは!
私は1話が一番良かったです。
声だけで演じる安井さん凄い!
イキウメには箱って四角い物だという既成概念は無いですね。
あの箱がなんとも素敵でお散歩も笑えました。
私も嗅覚センサーをなかなか切ってくれなく不安になりましたね。
『時枝さん』って聞いてアラッ、懐かしいとニンマリ。
最近は浜田さんが前に出る感じだったけど、今回は客演も含めてバランスが良かったかな?
大窪さんは似たような役が多いのはちょっと残念ですね。

浜田さんのタップの意味がわからない……(笑)

投稿: あんみん | 2018.05.27 09:27

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