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2018.06.03

「ヘンリー五世」を見る

新国立劇場開場20周年記念 2017/2018シーズン演劇「ヘンリー五世」
作 ウィリアム・シェイクスピア
翻訳 小田島雄志
演出 鵜山仁
出演 浦井健治/岡本健一/中嶋朋子
    立川三貴/金内喜久夫ほか
観劇日 2018年6月2日(土曜日)午後0時開演
劇場 新国立劇場中劇場
上演時間 2時間40分(20分の休憩あり)
料金 8640円
 
 ロビーでは、パンフレット等が販売されていた。
 また、今回の出演者陣が今後出演するお芝居のチラシをまとめて置いてあるのはなかなか親切だと思った。

 (シェイクスピア劇でわざわざ書くことでもないけれど)ネタバレありの感想は以下に。

 新国立劇場の公式WEBサイト内、「ヘンリー五世」のページはこちら。

 説明役が登場して、「我々が説明します」「どうか想像してください」と繰り返すのは、元々の台本どおりなのか、演出なのか、果たしてどちらなんだろうか。
 どちらにしても、この「ヘンリー五世」の上演に当たって、この説明役がかなり重要なポジションを占めているような気がした。
 この芝居の雰囲気を決めていたのは、フード付きのグレーのマントをまとっていた彼らではなかろうか。

 ロビーに展示されていたシェイクスピアの歴史劇の説明によると、この「ヘンリー五世」はその傑作なのだそうだ。
 書かれたのも遅めらしい(「シェイクスピアが書いた最後の歴史劇」なのかも知れない)。
 単純に「そうなんだぁ」と思って見始め、「そうなの?」と思ってしまった。

 「ヘンリー四世」では、ハル王子と呼ばれてファルスタッフとともに放蕩の限りを尽くしていたヘンリー五世も、即位した途端に立派な王となったらしい。
 多分、そこを知っていると色々な楽しみ方が生まれ、深い理解が得られるのだろうと思ったけれど、私はヘンリー六世は見たような記憶がかすかにあるけれど、ヘンリー四世は見たことがない。
 というよりも、いわゆる「歴史劇」は、リチャード三世くらいしか記憶にない。

 そういう私から見ると、「ヘンリー五世」は何というか、あまりにも英雄誕であるように感じられた。
 ハル王子は即位して立派な王となり、ヘンリー五世と名乗って、弟や叔父の力を借り、フランス遠征を企てる。裏切り者も出発直前に捕まえて処刑し、フランス国内では敗戦必至の戦力差をひっくり返して見事勝利を収め、一目惚れしたフランス王女を王妃として華々しい一生を歩き始める。
 でも、実はすぐに死んじゃって、彼の息子が即位した後、英国は国内での権力争いもあってフランスの覇権を失い、衰退し始めるんだけどね、というオチつき、だけど基本的にはイケイケどんどん、ひたすら単純なヒーローものという感じがした。

 勧善懲悪と言えばいいのか、余りにも王道のヒーローもので、ヘンリー五世はひたすら格好良く(勝利を確信した後は茶目っ気も見せていたけれど)前向きかつ正しく、フランス王はひたすら優柔不断、フランス王女はやたらと可憐、ピストルを始めとする兵士たちのエピソードもときどき挟まれるけれど、彼らは、夏の夜の夢で劇を上演する村人達と同じようは立ち位置だ。

 もしかしたらあったかも知れないヘンリー五世の葛藤とか、突然に立派な王になっちゃったきっかけや動機、ファルスタッフへの思い、フランス遠征は失敗だったんじゃないかという後悔、己の要求の正当性への疑い等々、あってもおかしくない「迷い」のようなものがほぼ感じられない。
 そこを全くなかったことにして、とにかく正々堂々威風堂々の若い王の活躍をひたすら描きたかったのかも知れない。

 でもなあというのは、私がシェイクスピアという名前に勝手な思い込みや期待があるからなんだろうと思う。
 こんなにまっすぐなヒーロー物ってだけでいいの? と思ってしまう。
 「ヘンリー五世」は、ヘンリー五世がひたすら華々しく活躍し、ヒーローとしての役割を全うする物語であって、そこに「それじゃヤダ」と言っても仕方がない気もしつつ、やっぱり、もうちょっとどんでん返しのようなものがあってもいいんじゃないかと言いたくなった。

 私が見落としたり聞き落としたりしていただけだと思うけれど、「イギリスとフランスのどちらが優勢なのか」ということは、常に明示されていなかったような気がする。
 伝令役が身代金の話をしたときも、果たして「本当に勝つと思っていて降伏勧告をしている」のか、「本当は負けそうだと思っているけどハッタリとして降伏勧告してみた」のか、判らないなぁと思っていた。

 イギリス兵1万に対してフランス兵6万なんて、どこかで誰かが語っていただろうか。
 そのことについて、ヘンリー五世は知っていたのか知らなかったのか、どう考えていたのか、全く判らない。
 判らないと言えば、ヘンリー五世が兵士の振りをして兵士達と色々と話して行くシーンも、何を考えてそんなことをしているのかよく判らなかった。翌日の勝利に何か貢献していたんだろうか。

 そんな感じでつい疑問ばかり浮かんできていたけれど、でも、勧善懲悪のヒーロー物が安心してみていられる芝居であることは間違いなく、そして、そこまで立派に振る舞っておいてキャサリンに求婚するときにはすっかりその辺の男の子になっているところも可笑しく、なかなか楽しかった。

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