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2018.06.24

「夢の裂け目」を見る

こまつ座「夢の裂け目」
作 井上ひさし
演出 栗山民
出演 段田安則/唯月ふうか/保坂知寿
    木場勝己/高田聖子/吉沢梨絵
    上山竜治/玉置玲央/佐藤 誓
観劇日 2018年6月23日(土曜日)午後5時30分開演
劇場 新国立劇場小劇場
上演時間 3時間(15分の休憩あり)
料金 6480円
 
 井上ひさしの「東京裁判3部作」の第1作に当たる「夢の裂け目」をやっと見ることができた。
 ロビーではパンフレット等が販売されていた。
 ネタバレありの感想は以下に。

 

 新国立劇場の公式Webサイト内、「夢の裂け目」のページはこちら。

 先週に見た「父と暮らせば」とは随分とパッと見たところの趣が異なる。
 二人芝居だった「父と暮らせば」に対し、こちらは登場人物も多い。9人の役者さんが登場する。
 オケピを作って生演奏が入り、歌もかなりたくさん入っている。
 上演時間も倍に近い。
 しかし、「父と暮らせば」はヒロシマを、「夢の裂け目」は東京裁判をテーマとしている。

 タイトルに「夢」の文字が入った「東京裁判3部作」の第1作に当たる、のだったと思う。
 「夢の泪」「夢の痂」の2作は見たことがあり、「夢の裂け目」だけ見逃していた。今、見ることができて嬉しい。
 2006年の初演、2010年に3部作を連続で上演したことがあり、今回は三演目だそうだ。
 これまでとは、ほぼ役者さんが変わっているという。

 幕開けのシーンは、戯曲上、誰が第一声を出すか指定されていないそうだ。
 8人の「昭和21年に生きる普通の人々」が登場し、そのうちの一人が歌い出す、ということだけ指定されているという。
 ということは、どの役者さんが舞台の中央に立ってスポットを浴び、第一声を歌い出すかは「演出次第」ということになる。
 今回、舞台の真ん中で後ろ姿ですっくと立ったのは高田聖子で、くるっと振り向いて歌い出す様子がとにかく格好良かった。

 生まれてすぐにしゃべり始めたという天声の、子供の頃から大人になり、結婚し、いい年齢になるまで当たりのことが歌で紹介される。
 歌い終わったところだったか、歌の終わりが近くなったところで、自転車に乗った紙芝居屋の田中(だったか・・・)天声が現れ、去って行く。
 物語の始まりだ。

 紙芝居屋の組合みたいな感じで天声が根津を中心とした地域を仕切っており、その天声はいわば「紙芝居の天才」だ。
 紙芝居を演じることはもちろん、紙芝居を「作る」才能に溢れている。
 普通にケチでがめつい。
 彼の語る物語を絵に仕上げるのが木場勝己演じる義父である。

 唯月ふうか演じる女学校を卒業したばかりの女の子がやけに若く、一体この紙芝居屋はいくつなんだろう、もしかして祖父と孫か? と思っていたら、天声は46才の設定だった。
 どうでもいいことだと思いつつも驚く。

 歌は女優陣が引っ張っている感じだ。多分、ソロも多かったと思う。
 男優陣はその分、キャラを載せた歌いっぷりになっていたと思う。
 井上ひさしの戯曲で、歌が多く入っている舞台は、テーマが特に重いものが多いような気がする。その歌を、安定感高く、ただ「上手い」というのではなく、軽やかに明るく歌い切るところが神髄であり真骨頂だという気がする。

 東京裁判に、天声は出廷を求められる。
 検察側証人として、戦時中の紙芝居屋がどのように暮らしていたかを語り、そして紙芝居を上演することを求められたようだ。
 「内面は弱い」と娘に心配されていた天声も、ぐだぐだになったリハーサルがそれでも役に立ったのか、上手く証言できたらしい。

 東京裁判のリハーサルは、天声の家に集まった人々の「誰が一番酷い目に遭ったのか」「誰が”悪くなかった”のか」をいわばなすりつけ合うようなことになったけれど、それで彼らの関係が壊れてしまうのではなく、「普通の人々も責任があるのではないか」と言い出した元国際法学者の闇屋に、他の全員が「普通の人である我々に責任はない」と大合唱して終わる。
 もやもやする。

 東京裁判後、天声は、「東京裁判」という仕組みは、自分が筋書きを考えた、家老がお殿様をかばい、その国で暮らす人々をかばい、その国をかばう「狸戦争」の紙芝居と同じだと読み解く。
 この気づきがやけに突然のような気がしたけれど、それはきっと、常に物語を生み出している紙芝居屋の執念というか天性のなせる業なんだと思うことにする。
 この話を天声がしたときに、東京裁判でかばわれている「殿様」に当たるのは「天皇」だと言う役が玉置玲央で、あの地獄から響いてくるような声はこの芝居で全く使われていなかったけれど、それでもその声には説得力があるよなぁと改めて思う。

 そして、この紙芝居屋は、東京裁判に出廷して紙芝居を熱演したことが新聞報道され、自分の知名度と人気が上がったことに気をよくし、紙芝居の最後に「狸戦争と東京裁判の枠組みは同じだ、自分は何年も前に東京裁判の枠組みを予言していたのだ」と付け加えてしまう。

 子供相手の紙芝居だけをやっているならともかく、大学に招かれて紙芝居を披露していたりすれば、それがGHQに伝わらない訳がない。
 天声は収監される。
 そして、この紙芝居を上演しませんと誓えば釈放すると言われる。
 逡巡したものの、紙芝居の仲間達は署名することを勧め、娘は逡巡し、国際法学者は思いとどまってくれと訴える。
 そして、天声は署名し、釈放される。

 何だか変な言い方だけれど、井上ひさしの戯曲がこの展開でいいのか、と思ってしまう自分がいる。

 そして、舞台は10年後だ。
 紙芝居はテレビに取って代わられ、みな、紙芝居屋を廃業している。
 三組の夫婦が誕生し、天声の妹夫婦は小料理屋を、妹の友人夫婦は映画館をやっており、天声の娘は決裂したかに見えた国際法学者と結婚している。
 天声も、自身の釈放に手を尽くしてくれたGHQに務めていた女性と結婚し、キリスト教徒の彼女に教えられ協力して「説教」を始めることになったようだ。

 やっぱり、もやもやする。
 芝居にというよりも、この筋書きにもやもやする。
 「ハッピーエンドだ」と演出の栗山民也が語っていたけれど、これは本当にハッピーエンドなんだろうかと思う。
 決して登場人物達が不幸になることを望んでいる訳ではないけれど、この結末でいいのかというもやもやがどうしても払拭できない。
 未だ、整理できないでいる。

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