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2018.07.15

「睾丸」を見る

ナイロン100℃ 46th SESSION 「睾丸」
作・演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演 三宅弘城/みのすけ/新谷真弓/廣川三憲
    長田奈麻/喜安浩平/吉増裕士/眼鏡太郎
    皆戸麻衣/菊池明明/森田甘路/大石将弘
    坂井真紀/根本宗子/安井順平/赤堀雅秋
観劇日 2018年7月14日(土曜日)午後1時30分開演
劇場 東京芸術劇場シアターウエスト
上演時間 3時間15分
料金 6900円
 
 芸術劇場の地下はイーストもウエストも、当日券待ちの列が出来ていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 ナイロン100℃の公式Webサイト内、「睾丸」のページはこちら。

 「百年の秘密」は女二人を中心とした物語で、今回の「睾丸」は男二人を中心とした物語である。
 対照的な芝居になっているんだろうなと思っていたら、意外と「睾丸」を見ているときに「百年の秘密」を思い出したり比べたりすることはなかった。
 それとは別に、なぜだか既視感を覚える芝居だった。なぜだろう。
 右奥にキッチン、左手前に段差があってソファセットというセットの組み方に見覚えがある。何の芝居だったか思い出せない。

 そこは、三宅弘城演じる赤本の家で、坂井真紀演じる妻は近いうちに家を出て行こうとしているらしい。根本宗子演じる娘は何だか達観している雰囲気だ。
 赤本が「昼間パチンコ屋で会った」と話していた、学生運動の仲間だったみのすけ演じる立石が「家が火事になった」と言って押しかけてくる。
 つまり、この芝居の「今」は今から25年前の1993年なんだろう。

 この不条理な感じ、やっぱり最近味わった気がすると考えて、「火星の二人」を思い出した。
 タイトルとか出演者とかそういう具体的なものを思い出せた訳ではなくて、「あぁ、あの芝居だ」と何となく頭に浮かんだ。
 何というか、男二人というのも不自由なものだなぁと思う。

 舞台は25年前と今とを行ったり来たりしながら、男二人の関係や、赤本の妻である亜子にその弟の光吉、光吉の別れた妻である浩子、亜子が今付き合っているところの霧島、25年前に運動のリーダーであった七ツ森、立石の妻もいつの間にか居着いているし、赤本が経営する旅行社の社員である大石や、多田巡査はしょっちゅうやってくるし、多田と赤本娘に娘が騙されたと市議会議員が怒鳴り込んで来たり、その娘が多田を探してやってきたり、とにかく色々な人物が赤本家にやってくる。
 舞台はずっと赤本家の居間で、とにかく来る人来る人が色々と引っかき回していく。

 過去と現在をつないでいるのは、ずっと植物状態で寝たきりになっている七ツ森の存在で、彼が亡くなったという電報が赤本家に届くところから物語は始まる。
 ちょうどその日の昼間に赤本と立石が会っているのだから、そういえばこの物語の始まりは「偶然」だけれど、パチンコ屋で会ったというのは嘘で実は運動家達の集会で会ったらしいことが後で語られたから、偶然ではないのかも知れない。

 この七ツ森という男が死んだことで、25年前の出来事が当時彼に関わった赤本と立石と亜子の記憶が刺激され、心にさざ波が立ち、物事が動き始める。
 もちろん、勝手に押しかけてきた立石にもその波紋は影響する。
 そうやって動き始めた25年前に端を発する感情がメインストリームにあるため、亜子が今も持っている底の知れなさと、その母のとんでもないところを受け継いだらしい娘の動きが与える印象がかなり薄められたように思う。

 舞台上で起こることを追いかけていくことはできるけれど、それをやっても何だか意味がないような気がする。
 25年前に上演しようとしていた芝居を再度上演することが立石が自宅に放火した理由だったとか、七ツ森はなかなか自分を見舞おうとしない昔の仲間にしびれを切らして光吉を巻き込んで自分が死んだことにしたというとんでもなくお子様なだけの男だったとか、亜子が再婚しようと思っていた70代の男が実は立石の妻が昔逮捕した下着泥棒だったとか、もはや偶然だったか必然だったか判らないようなことがさまざまに入り交じる。
 誰の「夢」かは判らないものの、ほとんどファンタジーに見える。

 赤本が芝居を見に行ったら隣の席に鴻上尚史がいたというくだりも何だか楽しかった。
 「だって、突然踊り出したりするんだぞ」と言ってまねした振り付けが朝日のような気がして見てみたけれど、第三舞台は1993年には公演を行っていない。ここで鴻上さんの名前を出したのは1993年という年を示すためかと思ったらそうではなかったらしい。
 そして、客席にはこのくだりを笑える年代の人間が多いんだなと思い、少し寂しいような気もした。

 終幕近く、市議会議員の娘がやってきて江戸に包丁を振り上げ、赤本娘が止めに入り、その騒ぎを聞きつけた巡査の多田が市議会議員の娘に包丁を振り上げられて彼女に向けて発砲し、江戸も殺してしまう。
 赤本娘は、多田のことには触れず、110番通報する。

 そこへ、海に出かけた筈の大人たち(赤本娘も21才という設定の大人だけれども)が、「光吉がクリーニング屋にタクシーを突っ込ませた)と帰ってくる。
 惨劇の起こったキッチンは彼らからは見えない。
 お茶を入れようとキッチンに入った立石妻は表情をなくして立ち尽くし、そこへ赤本が何でもなく「どうかしましたか」と声をかける。
 照明がふいっと消え、幕である。

 終わった。
 そう思った。

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コメント

 ぷらむ様、コメントありがとうございます。

 そして、お教えいただいてありがとうございます。
 あの、ちょっとだけマネしたダンスは天使だったんですね。
 そういえば、私、天使はDVDで見ただけで舞台では拝見していないような記憶です。あの頃って、本当にチケットが取れませんでしたし。

 シアターアプルも何だか懐かしい名前になっちゃいましたね。
 コマ劇場がないですもんね。
 コマ劇場もシアターアプルも、ある意味、時代を表すアイコンになったのかも知れないですね・・・。
 そんなオマージュの気分も(ちょっとだけ)あったのかも知れません。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2018.08.11 14:12

こんばんは。
三宅さんの鴻上さんの真似がうまくて笑っちゃいました。

えーと、第三舞台ツウの方のお話では、あれはおそらく1992年の「天使は瞳を閉じて」インターナショナルバージョンであろうということでした。劇場を、第三舞台がよく公演していた紀伊國屋ホールではなく、シアターアプルと限定しているので、意図的なんだろうと。
ちょっと時期的にズレるのですが、おっしゃる通り「時代」を現したかったかも知れませんし、赤本は少し前に観に行ったことになってますので、観に行ったのは1992年だったかも知れませんね。

投稿: ぷらむ | 2018.08.07 21:44

 みき様、コメントありがとうございます。

 そしてまたもやニアミスしておりましたか! ご縁がありますね。
 私も、この週末に2日連続で池袋に行っておりました。

 おっしゃるとおり、私も若い頃の赤本の髪型が違っているシーンがあったことを覚えております。どうしてでしょうね。
 場面転換が早くて舞台袖に引っ込む余裕がなかったための確信犯かと思っておりました。それとも、舞台上に隠しておく筈が忘れちゃったんでしょうか。
 謎です。

 50年前は判りませんが、25年前は確かに「芝居は下北」だったろうなーとは思います。
 ケラさんですから、池袋で上演しているからこそ「芝居は下北」だったんじゃないかしらと思います(笑)。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2018.07.16 10:00

こんにちは!また同じ時間に観劇していました。最近モダンスイマーズ三部作や二兎社や三谷作品など池袋率が高い私です。
ナイロン100℃が結成された1993年が舞台になっていて、さらにその25年前(今から50年前)とを行ったり来たりの内容でしたね。
たしか50年前の学生運動の時代のシーンで赤木がロン毛でなかったシーンが1度だけあったのですが、ズラ忘れた?かと思いましたが、どうでしょうか。
ナイロンにしては珍しく芸劇だなと思っていたら、劇中で何度も「芝居は下北でしょ」と言うシーンがあり、なんでここで言うのかなと思いました。

投稿: みき | 2018.07.15 23:05

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