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「フリー・コミティッド」
翻訳 常田景子
演出 千葉哲也
出演 成河
観劇日 2018年6月30日(土曜日)午後2時開演
劇場 DDD AOYAMA CROSS THEATER
上演時間 2時間
料金 6900円
ロビーではパンフレットが販売されていたと思う。
ネタバレありの感想は以下に。
そもそも「フリー コミティッド」というのはどういう意味なんだろう?
Google翻訳に尋ねたら「完全にコミットした」と教えてくれた。だから、「コミット」の意味は! と「committed」も「commit」も「commitment」と立て続けに尋ねたもののすべてカタカナの「コミット」で答えてくれたGoogle翻訳は酷いと思う。
committedという単語をどう訳すのかという話で、見終わった後で考えると「献身的」が一番芝居の内容に合っているのかなと思った。
成河が演じているのは、基本的には、俳優を目指している(あるいは売れない俳優である)サムだ。
サムは、高級かつ人気のレストランで、予約係として働いている。
予約電話は地下のロッカー室隣のキレイとはお世辞にも言いがたい場所にあり、この日のサムは、相棒のボブが「高速道路のど真ん中でエンストした」ために遅刻したため、たった一人で予約電話を受ける羽目になっている。
地下のその場所には、予約用の電話が2台、シェフのオフィスと直通の内線が1台(内線が入ると鉄道用みたいな信号機が点る)、レストランフロアと直通の内線が1台(内線が入ると発車ベルみたいな音がする)、よく分からないインターフォンみたいなスイッチが一つある。
そして、サムの私用の携帯電話も時々使用される。
これだけの電話を一人で捌くなんて本当に不可能だ。
しかも、今は12月初旬で(多分)、2月まで週末の予約は一杯、一杯どころかサムの言うところでは「25人もオーバーブッキングが生じている」らしい。3月の予約は1月から受け付けることになっている。
それにも関わらず、「今日行きたい」「今週末のディナーを予約したい」等々の電話がひっきりなしにかかり、俳優仲間のジェリーからオーディションの結果を聞く電話が入り、クリスマスには帰って来られないのかと父親からも電話が入って来る。
シェフや支配人から無茶ぶりの電話やどう考えても理不尽に責める電話もかかってくる。
合間に、まかないの催促の電話もしなくてはならない。大忙しだ。
その大忙しの地下室を、サムはたった一人で駆け回り、水を飲みまくり、応答しまくっている。
そして、成河は「サム」を演じるだけでなく、サムが応答している電話の相手も全員演じている。
ひたすら、サムと電話(内線)の相手との会話が続く。たまに頭にきたサムがバランスボールを蹴りまくったりするけれど、基本的にはずーっと会話だ。
会話だけれど、会話を交わしているのは成河と成河だ。
たった一人で2時間、出ずっぱりのしゃべりっぱなしだ。
舞台上から成河がハケたのは、「失敗してしまったお客がいてもの凄く汚れてしまったトイレを掃除しろ」とあちこちから押しつけられたサムが仕方なくすべての電話を放り出して掃除に向かう、という設定だった一瞬だけである。
あとは、ずっと、こっちでサムが、あっちで電話の相手がずっと居続けだ。
電話だからまず名乗るというのは、一人で38役を演じ分ける上でかなりのアドバンテージだとは思う。
それにしても、38役を演じ分けるだけでなく、同じ相手から電話がかかってきたと判るように演じ分けるって相当な技術なんじゃなかろうか。
見ているこちらがそれで全く混乱しないのだから凄すぎる。
ちなみに、これだけ一気に演じ分ける訳で、「取っている受話器」というヒントがあるくらいで、成河は衣装も替えずメイクも変えずに演じている。
予約電話は、割り込みさせろとか、特別扱いしろとか、あるいは全く要領を得ないとか、普通の電話が1本もない。
予約係であるサムがどうにもならないことであっても、相手は怒ったり、罵ったり、ヒステリーを起こしたりする。
それでもサムはひたすら対応し続ける。客商売だからどんな無茶もとにかく聞かなくてはならない、一番下っ端だから上からの無茶ぶりは最後はサムの処に集まる。
そんな理不尽さは、日本だけじゃなく米国も同じなんだなと思う。
すべての理不尽がサムに集まり、サムはそれを跳ね返すこともできず、ひたすら人の良さで何とかしようと頑張っては報われない、ということを繰り返しているように見える。
サムは「いい人」あるいは「莫迦が付くくらいに人が良い」ように見える。何だかもどかしいくらいだ。
でも、最後、多分すべてがひっくり返った、のだと思う。
「支配人につなげ」と言われ続け、支配人には「美人じゃない(もっと直裁的な表現だった)」と電話で話すことを拒否され続けた婦人が、実は、今サムがオーディションを受けているリンカーンセンターのマネージャーを接待するためにテーブルを予約しようとしていたことが判り、サムは無理にも予約を受け入れ、婦人はサムのことを支配人に話しておくと請け合う。
予約は一杯だと断った相手から現金の詰まった封筒が送られてきて、こちらもサムは「19時半にお越しください」と受け入れる。
サムが所属する事務所から「明日のオーディションの後で、リンカーンセンターのマネージャーが挨拶に寄るように言っている」という連絡を受け、サムは、送られてきた現金から1枚だけお札をポケットに入れ、電話が鳴り響く中、その地下室を後にする。
多分、サムはもう明日からこのレストランには来ないつもりなのだと思う。
そこで、幕である。
俳優業のために、あちらとこちらとそちらた向こうに全部合わせれば絶対に整合の取れない約束をしまくり、口先だけでその場をしのいで後は全部放り出した、ように見える。
このサムの豹変ぶりは何なんだ、ともの凄く混乱した。
ついでに、自分の「口先だけでとにかく調整する」という仕事ぶりを振り返って、もの凄く痛い気持ちになった。端から見れば、破綻はすぐ目の前であることは、こんなにもよく判る。
何ともやりきれない終わり方だった、ような気がする。
そんなことは考えず、ひたすら成河の技量に感動し続けていれば良かったよ、と思ったりもした。
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