「冬物語」を見る
子供のためのシェイクスピア「冬物語」
作 ウィリアム・シェイクスピア~小田島雄志翻訳による~
脚本・演出 山崎清介
出演 板倉佳司/山口雅義/戸谷昌弘/若松力
キム・テイ/大内めぐみ/大井川皐月/山崎清介
観劇日 2018年7月15日(日曜日)午後2時開演
劇場 あうるすぽっと
上演時間 2時間15分(15分の休憩あり)
料金 5000円
ロビーでは、パンフレットが販売されていたり、過去作品の写真が展示されていたり、衣装の試着コーナーが設けられたりしていた。
ネタバレありの感想は以下に。
ネタバレありと言いつつ、シェイクスピア作品である。誰もが知っていて不思議はない。
もっとも、私は全くストーリーを知らないまま見に行った。
そのつもりでいたら、2011年に同じく子供のためのシェイクスピアシリーズの公演で「冬物語」を見ていた。全く覚えていないのだから、我ながら一層のこと、見事である。
自分で書いた感想を読んで、7年前の公演と出演者や配役がかなり重なっていることも判って驚いた。
全くもって情けない。
今回の公演では、恐らく、基本的な脚本の校正や演出は7年前のものをベースにしていて、そこにさらに工夫を重ねたのではないかと思う。
シェイクスピア人形に「とき」を演じさせていたり、上演中にイエローヘルメッツの登場がなかったり、彫像に対して「こんなにしわはなかった」という台詞を言わせたりしているところが共通している。
当時書いた感想を読むと、私はひたすら「展開が早い」「ジェットコースターみたいだ」等々と思っていたらしい。
しかし、今回は全くそんなことは思わなかった。
ストーリーを覚えていた訳でもないのに何故だろう。
今回、思っていたのは、シェイクスピアの物語の多くはもしかして貴種流離譚なのではなかろうか、ということだったように思う。
シチリア王の娘パーディタは、生まれてすぐ、父王が母の不貞を疑い、部下に命じて捨てさせたという過去を持つ。
父王が母の不貞の相手と疑ったのはボヘミアの王で、パーディタもボヘミアに捨てられ、そして羊飼いに拾われて育てられる。
羊飼いの娘として育ちながら、その生まれは争えず、ボヘミア王の王子は身分の差も乗り越えて彼女に首ったけ(という表現も古い)である。
もっとも、シェイクスピアの場合は子供による父親への復讐はあまり行われていない、ような気もする。
大体、ハッピーエンドが多いと思う。
この「冬物語」だってハッピーエンドだ。
やってもいない不貞を疑われて殺されかけたボヘミア王も、やってもいない不貞を疑われて牢獄に放り込まれ息子を亡くした王妃も、ボヘミア王の暗殺を命じられた部下も、正しく王の子であったのに不義密通の末に生まれた子供だと疑われて捨てられてしまった王女も、誰も彼もが、16年後にシチリア王を許す。
そもそも、シチリア王の疑いの寄って立つところが描かれていないので同情しようという気持ちが浮かばず、休憩後にいきなり物語が16年後に飛んでシチリア王が反省している様子も全く見ることができず、見ているこちらとしてはシチリア王を許してやろうじゃないかという気持ちになれるものでもない。
パーディタを育てた羊飼いの父子が、詐欺師のような父子に騙されちゃかわいそうだとそちらばかり気にしていたら、いつの間にか大団円になっていた、という感じだ。
その大団円も、何故かシチリア王が、16年間王妃を匿っていたポーライナ(彼女は、パーディタを捨てさせた部下の妻である)と16年間逃亡してボヘミア王に仕えていたカルロー(彼は、王がボヘミア王暗殺を命じた部下である)の二人をくっつけようと画策し、シチリア王と王妃、ボヘミアの王子とシチリアの王女、ポーライナとカルローという3組の男女が幸せになるという、力業も極まった感じで作られる。
強引すぎるにもほどがあるというものだ。
シェイクスピアの時代、イギリスでは「ボヘミアには海がある」と信じられていたのだろうか。
それとも、シェイクスピアが勝手にそう思い込んでいたんだろうか。
この「冬物語」では、パーディタは船でボヘミアまで連れて行かれて捨てられ、ボヘミア王子とともに船でシチリアに帰ってきたことになっている。
謎だ。
「冬物語」の舞台は、黒いマントと帽子の出演者たちが指を組んで簡素なテーブルに向かい、椅子に座って一列に並んでいるシーンから始まる。
そして、衣装を着けた出演者たちが再び同じ姿勢で客席を見つめ、照明が落とされて幕切れとなる。
こういう始まり方、終わり方は格好いいと思う。
また、何年か後に見てみたいと思っている。
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コメント
ぷらむ様、お久しぶりです&コメントありがとうございます。
あらら、冬物語ってハッピーエンドじゃなかったんですか・・・。
てっきり大団円だと思って「無茶だよなぁ」と見ておりました。
16年前のシチリア王の所業を誰もがあっさり水に流して関係者一同仲良く暮らしました、というよりは腑に落ちるような気がいたします。
であれば、見ているときは結婚式のひな壇を思い浮かべていた最初と最後の一列に並んで前を見つめているシーンも、(例としては古いですが)「家族ゲーム」みたいなものだったのかしらと思いました。
教えていただいてありがとうございます。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2018.07.16 10:20
これね、ハッピーエンドになってないんですよ。
ハーマイオニーは最後に、娘には声をかけるけれど、リオンティーズには口を聞かないんです(この舞台では、ほとんど見てもいません)。セリフでも、娘が生きているという神託があったから母は生きて来た〜と言ってます。夫のことは興味なし。
ポーリーナは、カミローをあてがわれるけれど「そのことは、あとで何とかするとして」と承諾してはいません。むしろ「簡単じゃない」というようなことを言って、話を変えてしまいます。
ボヘミアとシチリア問題については、シェイクスピアが地理がわかってなかった説と、この話が架空の国のファンタジーであることを強調するために、わざとそうした説があるそうです。
投稿: ぷらむ | 2018.07.16 01:52