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2018.09.02

「夫婦」を見る

ハイバイ「夫婦」
作・演出 岩井秀人
出演 山内圭哉/菅原永二/川上友里/遊屋慎太郎
    瀬戸さおり/渡邊雅廣/八木光太郎/岩井秀人
観劇日 2018年9月1日(土曜日)午後2時開演
劇場 東京芸術劇場シアターウエスト
上演時間 2時間
料金 4300円
 
 パンフレット等の販売があったかどうかはチェックしそびれてしまった。
 ロビーに「普通の家庭」風の食卓がセットされていて、ちょっと不思議な感じだった。

 ネタバレありの感想は以下に。

 ハイバイの公式Webサイト内、「て」「夫婦」のページはこちら。

 「て」は見たことがあるけれど、2016年に初演されたというこの「夫婦」は未見だ。
 どちらかを見るとしたらやっぱりそしたら「夫婦」だろうと思って見に行った。
 「岩井秀人」役を演じる菅原永二が「岩井です」と一人で舞台に登場し、前説というか注意事項を語っていた。その途中に「僕も岩井です」と岩井秀人が登場するのが何となく可笑しい。
 三々五々役者さん達が入ってきて所定の位置に付き、そして開演である。

 岩井秀人自身の(と書いていいのだと思う)父親が亡くなったことが描かれた芝居である。
 というか、多分、「父親が死んだ」ということだけを描いた芝居である。
 岩井秀人が子供だった頃の兄弟と父親との関係、医師として働く父親への周りからの評価、父親と母親との馴れそめ、父親が入院していた病院の治療への不信、そして、私が勝手に感じたことかも知れないけれど「それでお母さんはお父さんのことをどう思っていたの?」ということが物語の後ろの方にこそっと隠れていたような気がする。

 話の軸は、父親が危篤状態にあると岩井秀人のところに母親から電話が入るところから始まり、父親を紹介というか説明するために、これまでの父親の話、父親と家族の話がフラッシュバックというか、挟まれて行く。
 その「これまでの話」が時系列に沿っていたのか、ランダムだったのか、今ひとつ記憶に自信がない。
 多分、時系列に沿っていたような気がする。

 家では「暴君」「理不尽」そのものの父親が、職場である病院では周りの医師達に慕われているようだったり(病院でも暴君で、仕方なく部下たちがお愛想で笑顔で付き合っているという可能性もあるよなぁとシーンだけを見たときは思ったけれど、話の筋からして、やっぱり外面が異様にいい人だったというのが正解のような気がする。)、結婚前には物分かりのいい男を演じていたようだったり(でも、ところどころでやっぱり色々と勘違いしている訳だけれど)する。

 そして、子供達に対して暴君なだけではなく、結婚してしばらくすると、外食をしようと誘う母親に対して「釣った魚に餌をやる馬鹿がいるか?」と言い放ったり、「亭主の前で新聞を読む女がいるか?」と男尊女卑そのものの発言を平気でしたり、そういう父親に対してほとんど言い返せない母親の姿だったりが描かれる。
 「女房には優しい」のではなく、家族に対しては全方位に暴君だ。

 仕事はちゃんとやっているんだろう、でも、家族に対しては理不尽極まりない暴君である父親の姿がこれでもかというくらいに描かれる。
 正直なところ、気分が悪くなるくらいだ。
 芝居の中の岩井秀人だって、危篤の父親を見て「ざまをみろ」と思ったと独白する。
 しかし、同じように酷い目に遭っていた筈の母親も姉も、入院中の父親を頻繁に見舞っていたようだし、「治療に納得がゆかない」と涙を見せる。

 この「治療に納得がゆかない」というところがこの芝居のもう一つの軸になっていて、治療中に主治医からの説明が足りなかったこと、リスクが語られずに「これしかない」という言い方で治療用が説明されていたこと、「上手く行っている」という説明の割に同じ処置を何度も繰り返したこと、そもそも手術すべき状態だったのか疑問であること等々が語られる。
 ここで、父親の同僚というか部下というか弟子だったっぽい女医が登場して、家族の思いを代弁していることからも、どうやら職場でこの父親が頼りにされていた存在であることは確かなのかも知れないと思う。

 そして、不人情な私には分からないことに、この「夫婦」をいう芝居は、最後に「いい話」で終わる。しかも、ちゃっかりしっかり伏線も回収される。
 父親は日本でまだ行われていなかった腹腔鏡手術を広めることに尽力した医師であることが、本人の口から自慢げに語られていたところなのだけれど、その父親の死後、「手術をしなくても問題ない」と言われた母親がしかし手術を選択し、「腹腔鏡手術」を受け、息子である岩井秀人にその傷跡を見せて説明する。
 そこで、幕だ。

 幕が下りた瞬間の私の感想は、(言葉はだいぶ乱暴だけれど)「いい話にするんじゃねー!」だった。
 でも、いい話で終わって良かったような気も、今は少しだけする。
 どこかで折り合いをつけねば。
 そういうことなのかなと思ったりした。

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コメント

 アンソニー様、コメントありがとうございます。

 アンソニーさんは「て」をご覧になったのですね。いかがでしたか。
 ハイバイは苦手、という感覚、私にもありますし、判ります。
 それでも(毎公演ではありませんが)見てしまうのは、怖いもの見たさということなのか、その「嫌な感じ」が間違いなく自分の中にもあるという確信のためなのか、そこはよく判らなかったりしています。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2018.09.23 22:02

こちらからもこんばんは。

私はてを観ました。ハイバイは苦手かもと漠然と思っていたらどうやらひとつまえの夫婦を観ていたことに気づきました。もう忘れすぎてて怖かったですw 姫林檎様の感想でいろいろ思い出しました。

投稿: アンソニー | 2018.09.23 00:07

 みずえ様、コメントありがとうございます。

 みずえさんは初演をご覧になっているのですね。
 初演の時も山内さんがお母さん役だったのがちょっと意外だった私です。
 どう見ても女性的な方ではないのに、舞台上でお母さんや若い女性を演じている姿に違和感を覚えない自分が謎ですが、それは「怪演」に負うところが多いのでしょうね、きっと。

 ハイバイの芝居は何本か拝見していますが、間違いなく「後味が悪い」お芝居ですよね(笑)。
 私は最初に見たのが「て」で、そのカチっとはまった感じが忘れられません。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2018.09.08 10:31

私は初演のときに観ましたよ。
私はそのとき、ハイバイが初めてで、とても評判のいい劇団で混んでもいたので、すごく期待値を上げて観ました。
でも、何だかあまり共感できなかったというか、それでいいの?と思いながら観た記憶があります。
ただ、お母さん役の山内さんの怪演がとても印象的で面白く、ちょうど山内さんがテレビに出始めていた時期だったのですが、やはりこの人は舞台の人だなと思ったのを憶えています。
ハイバイは結局これしか観ていません。

投稿: みずえ | 2018.09.05 09:47

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