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「出口なし」
作 ジャン=ポール・サルトル
上演台本・演出 小川絵梨子
出演 大竹しのぶ/多部未華子/段田安則/本多遼
観劇日 2018年9月23日(日曜日)午後2時開演
劇場 新国立劇場小劇場
上演時間 1時間20分
料金 8000円
ロビーではパンフレット等を販売していたと思う。
ネタバレありの感想は以下に。
開演前、舞台奥の真正面にあるドアだけがうすぼんやりとした明かりに浮かび上がっていた。
幕開けで、いきなりそのドアに向けて斜めに壁があり、その壁には天井(本当に舞台の天井である)から赤いビロードっぽいカーテンが下がっている。
舞台の中央には三つの色も形も雰囲気も違うソファが置かれ、何だかよく判らない人の顔だけのブロンズ像が置かれている。
ボーイっぽい男に案内されて、段田安則演じる男が部屋に入ってくる。
いきなり「ここは拷問部屋か?」と聞いていて、何のこっちゃと思ったら、割とすぐにここが死後の世界で、彼には「拷問にかけられるかもしれない」と自分で思う何ごとかがあったらしいことが判る。
まさしくボーイは、「男」を案内するのと同時に、客席にいる我々をも案内してくれる存在のようだ。
次にボーイに案内されてきたのは、大竹しのぶ演じる女だった。白いブラウスに黒の長めのタイトスカート、低い声で無愛想にしゃべる。
一言で言うと、地味で嫌な女だ。
それは、本人も自覚しているらしい。
そして、彼女も「ここで拷問を受けるのか」という意味の質問を発する。彼女も訳ありの女のようだ。
この男と女の間にはコミュニケーションは発生しない。というよりも、女の方が一方的に敵意をむき出しにしている。
そこへ、多部未華子演じる若い女が案内されてくる。
彼女一人は「拷問」の言葉を口にしない。本気なのか韜晦なのか、「どうして自分がここにいるのか、いくら考えても判らない」「きっと何かの手違いだ」と主張する。
こうして役者は揃い、ボーイは退場し、ドアは開かず、ドアの横の呼び鈴は壊れたまま鳴ることはない。
部屋にはドアの他には窓一つない。
カーテンとソファとランプとブロンズ像とペーパーナイフの他に何もない部屋だ。
3人は、時々「自分が生きていた」場所で「自分の知っている」人物達が今どうしているのかを見ることができるようだ。
でも、基本的には、この場には3人しかいない。
脛に傷持つ3人は、予想された通り、お互いの傷をつつき合い始める。
「お互いに知り合えば助け合うことができるかも知れない」と言って始めたことではあるものの、実際は、傷つけ合うことしかできない。
女は若い女が好きだし、若い女はとにかく男であれば誰でもいいという風情だ。
こういうのも三角関係と言うんだろうか。
語り合うというほど穏やかではないけれど、罵り合うというほど激しくはない。
むしろ、穏やかに確実にお互いの急所を捉え合っているように見える。
くるくると標的を変え、焦点を変える芝居に、こちらの方がくらくらしてくる。
自分でももの凄く理不尽な感想だよと思いつつ、芸達者な役者さんが3人揃ってずっと出ずっぱり、ずっと戦い続けているお芝居って濃すぎる・・・、と思う。
1時間20分と短いお芝居だし、何というか、このお芝居には「休憩時間」がない。
休憩時間がないまま、お互いを知り合い、急所をつつき合い、自らの正当性を主張しあい(これは「女」はほとんど参加していなかった気がする)、そして、「この3人でずっとこの部屋に閉じ込められていることが拷問だ」という結論に達すると、ドアが開く。
ドアの向こうは真っ暗闇だ。何も見通すことはできない。
そして、いざドアが開くと、誰も出て行こうとしない。むしろ、部屋にとどまるべく全力を傾ける。
再びドアを閉め、そのドアが開くかどうか確認することなく3人はそれぞれの「定位置」に戻る。
ふっと間があり、男が「続けようか」と低い声で宣言して幕である。
3人は果たして何を「続ける」のか。
3人の役者さんがそれぞれの得意技を繰り出し続ける、とにかく濃い舞台だった。
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