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2018.09.16

「蜜柑とユウウツ~茨木のり子異聞~」を見る

グループ る・ばる「蜜柑とユウウツ~茨木のり子異聞~」
作 長田育恵
演出 マキノノゾミ
出演 松金よね子/岡本麗/田岡美也子
    木野花/小林隆/小嶋尚樹/古屋隆太
観劇日 2018年9月15日(土曜日)午後2時開演
劇場 東京芸術劇場シアターイースト
上演時間 2時間30分(10分の休憩あり)
料金 4500円
 
 ロビーでは、パンフレットやTシャツが販売され、今公演のDVD予約の受付が行われていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 グループ る・ばるの公式Webサイトはこちら。

 このお芝居は、初演を観ている。(そのときの感想はこちら。
 私にしては珍しく、3年前に観たお芝居の筋書きをほぼ覚えていて、当たり前だけれど前回観たときと変わっていない。(なので、省略する。)
 ただ、3年前の私の勘違いだろうと思うけれど、岡本麗と田岡美也子の役名が逆になっている。今回、岡本麗が演じているのが「きいちゃん」こと紀子で、田岡美也子が演じているのが「てんこ」こと典子である。

 筋書きは変わっていないけれど、前回観たときの感想と今回の感想が余りにも違っていて驚いた。
 正確に言うと、前回、初演を観たときに思ったことを、今回、ほとんど思っていない。何故だ! と叫びたくなるくらい思っていない。

 理由の一つは判っていて、お隣に座った3人の女性が、上演中、自宅で3人だけでテレビを観ているかのように感想をしょっちゅうしょっちゅう口に出して言い合っていたからだ。
 ついでに書くと、カサカサとビニル袋の音を立てたり、立て掛けていたらしい傘を落としたり、「音」をさせることもたびたびあった。
 こちらの集中力をそがれることこの上ない。
 客席が暗くなって、音楽が流れ始めてもしゃべり続けていたときに嫌な予感がして、その予感は完全に当たっていた。本当に本当に心の底から残念である。
 そして、彼女たちに「おしゃべりは控えて欲しい」と言えなかった自分にも腹が立つ。

 閑話休題。
 小林隆演じる「たもっちゃん」の正体を最初から知っていたからということではなく、る・ばるのお三方が演じているのがいずれも「幽霊」だということを最初から知っていたからというだけでもなく、どうも、初演を観たときと今回と、私の受け止め方はだいぶ違っていたようだ。
 もちろん、「集中しきれなかった」というところの影響もかなり大きいと思う。
 しかし、それだけでもないような気がする。

 このお芝居では、「回答」が示されることはない。
 「自分の頭で考える」「自分の言葉で伝える」ことが大切なのは判る。そこを否定する人は多分いないと思う。
 でも、具体的にどうすればいいのか。何をすればいいのか。その答えはなかなか出ない。

 安保闘争のデモに行き、学生たちの姿やその熱気にすっかり当てられたようになって熱く語るのり子に、夫は、彼らの言葉も「どこかで聞いたような借りてきた言葉」だったんじゃないか、と尋ねる。
 答えに詰まるのり子は、しかし「でもあの子たちは真剣だった」と返す。
 しかし、「軍国少女」だったときののり子だって真剣だった筈だ。
 そこに答えはない、ような気がする。
 それなのに、夫の言葉に素直に頷いてしまったら、それはある種の逃避であるようにも感じてしまう。

 今回、もう一つ印象に残ったのは、木野花演じる葉子が、夫を亡くして4ヵ月ほどたったある日にのり子のところを訪ねてきたときのシーンだ。
 のり子が発表した詩に対して「これは詩人の仕事じゃない」と言う葉子に、色々と言い訳や強気の言葉を返していたけれど、そのうち、正直に弱音を吐く。嫉妬を露わにする。
 そののり子に対して、葉子は、自らの葛藤を初めて話す。

 いつでも自信たっぷりに振る舞っていた葉子も、自らの虚像と実体のギャップに悶えた過去がある。「思っていたよりも凄くない自分」を受け入れた彼女には、すがすがしさと同時に寂しさも垣間見える。
 私もきいちゃんやてんこの言う「恵まれた」人間で、彼女たちの主張に抗する術も持たない。
 そこで、彼女たちの言う「恵まれた」側ののり子や葉子に共感している場合ではないような、それもやっぱり逃げのような気がして、もやもやする。

 詰まるところ、このもやもやが「感想」を変えたきっかけのような気がする。
 芝居の中の女性たちはみな死んでしまっていて、だから「次に生まれたら」と「前向き」な発言をしている。
 でも、今生きているこちらが「次に生まれたら」と言ったら、それはやはり「考えていない」ことになるだろうし、逃げたことにもなるだろう。

 こうした構造を取った「蜜柑とユウウツ」という戯曲にずるさを感じつつ、しかしやっぱり考えることを強いる芝居なんだなと思う。
 強いるという言葉が強すぎるなら求めると言い換えてもいい。
 もやもやしつつ、そんなことを思った。

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