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「ゲゲゲの先生へ」
原案 水木しげる
脚本・演出 前川知大
出演 佐々木蔵之介/松雪泰子/水田航生/水上京香
手塚とおる/池谷のぶえ/浜田信也/盛隆二
森下創/大窪人衛/ 白石加代子
観劇日 2018年10月13日(土曜日)午後1時開演
劇場 東京芸術劇場プレイハウス
上演時間 2時間
料金 8000円
ロビーではパンフレット(1300円、だったと思う)に行列が出来ていた。
ネタバレありの感想は以下に。
舞台に幕はない。
そういえば、最近、開演前に幕が閉まっている公演はかなり少なくなったような気がする。こまつ座の舞台は幕が下りていることが多い、ような気もするけれど、その場合、幕は紗のような透けている素材であることがほとんどだと思う。
ビニルにしわを寄せて筒状にしたようなものが、舞台奥に何本も立っている。
森っぽい、ような感じもある。
大きな障子のようなセットがあり、その手前に一段高くなった板の間のような空間が用意されている。
「人が住まなくなって長い廃屋」という雰囲気だ。何かが出そうな感じである。
そこに、苦しそうに床を這いながら、佐々木蔵之介演じる「何か」が舞台奥から現れる。
そして、一人語りが始まる。
最初は、何ものでもない、いわば狂言回しのような感じで語り出し、客席にも普通に話しかけたりする。
そこへ、若いカップルが一晩泊めてくださいとやってくる。町では子供が生まれなくなっており、希に生まれる子供は生まれると取り上げられ、親元で育てることはできなくなっているらしい。
佐々木蔵之介演じる何ものかは、そんなことも知らないまま、ここでずっと「寝ていた」らしい。
佐々木蔵之介演じる何ものかが「根津」という名前であることや、半妖怪であること、「人間であった頃」の商売が詐欺師であったことなどが、彼ら二人との会話で徐々に明らかにされてくる。
この空間、この設定だから、それは説明が必要に決まっている。
根津が二人に語り聞かせるうちにそれは芝居になって行き、舞台上では、現代と根津の階層とが渾然一体となって展開される。
帰り道で、「照明が変わったからかろうじて今か過去なのかが判った」と語っている方々がいて、うーんそうだったのか、照明が変わったことなんか全く気がついてなかったよ、と反省した。
それでも、特に混乱することなく見ていたのは何故なんだろうと考えて、多分、白石加代子、松雪泰子、森下創の3人が演じている「妖怪」がそこにいるものとして演じているか、そこにいないものとして演じているか、その3人が周りにいる人間を「今ここにいる」ものとしているかどうかで判断していたような気がする。
それにしても、3人とも「妖怪」を演じて違和感がない。
というよりも、違和感がなさ過ぎる。
舞台上では、今と昔、この世と(多分)あの世の手前のどこかなど、いくつもの世界が重層的になっているから、こちらの「混乱」も含めて浮遊感を生じさせるようになっていると思う。
ここは、「現代そのもの」ではなく「ゲゲゲの先生」の世界だ。
けれど、その上でここで語られていることは「都会では生まれなくなった子供」「生まれた子供に魂が宿らず”フガフガ”言っているだけになる病」「子供を国家(ここでは市長のようだけれども)が管理し育てる社会」「孤児院から引き取った子供を死においやる社会的名士」「弱者に冷たい国家」など、やけに生々しいことばかりだ。
その生々しさは、終盤になって、池谷のぶえ演じるところの主に「ここかきーきー」(だったと思うけど、今ひとつ自信がない)としかしゃべらない「妖怪」の登場で一掃される。
こちらは、違和感を醸し出しまくりの「妖怪」である。
彼女は、超高層&高級マンションの住人に退去するよう命じ、そのマンションを困っている人々の家として提供するのだと(多分)語る。
その要求はやけに具体的かつ生々しいのだけれど、池谷のぶえの作り出す違和感がその生臭さを完全に消え去っている。
そして、カップルの女の子は実は市長の娘で、彼女を連れ戻しに来た市長たちを追って、彼女は根津の家にまでやってくる。
そこで市長に死を命じる彼女は、やはり、妖怪にしては生々しすぎる。
彼女の言葉が分かる振りをして、市長の粛正を手助け(というかむしろ誘導)する根津のやっていることだって相当にきな臭い。
しかし、そこは「半妖怪」であることを以て、そのきな臭さは消し去られてしまう。
こういう言い方はどうかと思うけれども、「妖怪」は便利だ。
けれども、その「妖怪」は「人」がいなければ存在できない。
「人」から意識してもらい、敬ってもらい、怖がってもらい、「親しみ」を感じてもらっていなければ、そこに居ることはできない。
「人」がいなければ、「妖怪」の居場所も存在しない。
カップルが根津の住む廃屋、ついに最後の住人が死んでしまって20年がたつ村に移り住もうと決めたところで、妖怪たちが再びこの村にやってくる。
そして、入れ替わるように、根津はいなくなる。
カップルから見えなくなっただけで、そこに「居る」のかも知れない。「妖怪」の世界にようやく行けたのかも知れない。それは判らない。
何とも不思議かつ判らないのにやけに集中できてしまった舞台だった。
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コメント
みき様、コメントありがとうございます。
そして、予習をして観劇に臨まれるとは素晴らしい・・・。
復習もしなかった己を反省いたしました。
遅ればせながら「コケカキイキイ」を私も検索いたしまして、なるほど、そうだったのか、と思ったところです。
私はあまりテレビを見なくて知らなかったのですが、大窪さんは映像でもご活躍なんですね。めでたい。教えていただいてありがとうございます。
イキウメではもしかして一番外部で活躍されているかも知れませんね。
ますますの活躍を期待! でございます。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2018.10.21 11:16
こんにちは。
こちらのブログで照明と打楽器を予習させてもらって、楽しく観劇することができました。ありがとうございました。
観劇後にえんぶの「池谷のぶえの人生相談の館」を読んだら「コケカキイキイ」と表記してあり、検索したら詳しく画像まで出てきました。それであのワンピースの柄だったのかと合点が行きました。コケカキイキイ」も予習しておけばよかった・・・と後悔しています。
余談ですが、最近大窪くんは大河ドラマや朝ドラにもちょっとだけ出ていて、見つけるとなぜか心の中で小さくガッツポーズしています。
投稿: みき | 2018.10.20 15:43
アンソニー様、コメントありがとうございます。
そして、教えていただいて、「こけかきーきー」だったような気がして参りました・・・。
ありがとうございます。
そして、池谷のぶえの声あっての「こけかきーきー」だよなぁと改めて思っております。
アンソニーさんも照明に気づかれなかったとお聞きし、さらに安堵しております。
そういえば、私、「ゲゲゲの鬼太郎」を始め、水木しげるさんの漫画を1冊も読んでいないのです。テレビアニメもむか〜し見たような、怖くてあまり見なかったような、曖昧な記憶です。
読んでみたいなぁと思っているところです。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2018.10.17 22:04
姫林檎様 こんにちは!
妖怪愛に溢れた素敵な作品でしたね。
パーカッションいろいろな音を
表現されていてどれも素晴らしかったです。
あと民族っぽいやつも水木しげるぽいなぁと思いました。
コケカキーキー(ではなかったかな?)も悲しい設定なのに
一気にああゆう展開で流石だなぁと楽しめました。
私も全く照明変わったの気づきませんでした(^_^;)
投稿: アンソニー | 2018.10.16 17:30
みずえ様、コメントありがとうございます。
みずえさんのコメントを拝見して、そうでした、どうして私は生演奏の打楽器のことを全くかかなかったんでしょう! と思いました。
反省です。
ここで今書いても今ひとつ信憑性に欠けますが、でも、打楽器の「音」が印象的でしたよね。
ドコドコドコ、という重い音よりも、竹を鳴らすような軽い音が効果的だと感じました。
何ものかを表す音と言いますか。
そして、みずえさんも照明に特に気がつかれなかったとお聞きして、勝手に「仲間がいた!」と安堵しております(笑)。
そうなんですよね、今、思い返しても、やっぱりピンと来ていなかったりしています。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2018.10.15 22:45
姫林檎さま
私も観ました。
イキウメの前川さんが手がけてると聞いて、興味が湧きまして。
行ってみたら、イキウメの役者さん達が何人か出られていたので嬉しかったです。
白石さんはさすがの存在感でしたね。
そして松雪さんの色っぽさ、妖しさ、素敵でした。
佐々木さんの根津は、ねずみ男がモチーフでしたっけ。
あの狡さやちゃっかりさ、いかにもでしたね。
舞台がイキウメっぽく、想像力をかき立てる造りになっていて良かったです。片隅の打楽器も効果的でした。
でも、イキウメにはないコミカルなシーンも多く(特に「ここかきーきー」が出現してから)、面白かったです。
ただ、私も、照明で過去と現在を分けているとは気付きませんでした……。
投稿: みずえ | 2018.10.15 11:09