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2018.11.11

「贋作 桜の森の満開の下」を見る

野田地図 第22回公演「贋作 桜の森の満開の下」
作・演出 野田秀樹
出演 妻夫木聡/深津絵里/天海祐希/古田新太
    秋山菜津子/大倉孝二/藤井隆/村岡希美
    門脇麦/池田成志/銀粉蝶/野田秀樹
    池田遼/石川詩織/織田圭祐/神岡実希
    上村聡/川原田樹/近藤彩香/城俊彦
    末冨真由/手代木花野/橋爪渓/花島令
    藤井咲有里/松本誠/的場祐太/茂手木桜子
    吉田朋弘/六川裕史
観劇日 2018年11月10日(土曜日)午後2時開演
劇場 東京芸術劇場プレイハウス
上演時間 2時間30分(15分の休憩あり)
料金 10000円
 
 ロビーではパンフレット(1200円)などが販売されていた。
 また、舞台セットの模型に写真撮影の列が出来ていた。

 配付されるチラシを、この芝居のキャスト表なども含めた1冊の冊子状にしていて、保存しておきたい部分だけ残すために家に帰って解体するのは少し面倒だったけれども、なるほど工夫だと思った。

 ネタバレありの感想は以下に。

 「贋作 桜の森の満開の下」の公式Webサイトはこちら。

 「贋作 桜の森の満開の下」を観るのが何回目になるのか、数えてみようと思ったけれど無理だった。鞠谷友子が夜長姫を演じたとき、深津絵里が夜長姫を演じたとき、そして今回と少なくとも3回目であることは間違いない。
 円城寺あやが夜長姫を演じた(確か鞠谷友子とダブルキャストではなかっただろうか)回も観たような気もするし、同じ公演を2回観たこともあるような気がするので、多分、もっと観ていると思う。

 幕開けは、妻夫木聡演じる耳男が桜の森で鬼に出会うシーンだ。
 舞台中央に大きな桜の木が1本立っており、そこから桜の森がずっと続いているような印象を受ける。
 彼は、「赤名人」と一緒に旅をしている、らしい。赤名人は賊だったか鬼だったか(すでに記憶が曖昧である)に襲われて命を落とし、耳男は、赤名人が招かれていたヒダの都に「名人」になりすまして出かけることにする。
 それが何故なのかは判らない。
 「行かなくちゃいけないんだ」と思ったから、ということになるんだろうか。

 一方の、古田新太演じるマナコが、青名人を殺し、彼になりすまして都に行く動機は簡単明瞭だ。「食べ放題飲み放題女抱き放題以上」である。
 分かりやすすぎてもはや突っ込みどころがない。
 そして、もちろん耳男もマナコも、「仏像を彫る」なんて技量も経験もない。どころか恐らく、入れ替わった名人達が仏像を彫るために招かれていたことすら知らなかったのではなかろうか。

 耳男とマナコが何となくもじもじと相手の出方をうかがっているところに、颯爽と天海祐希演じるオオアマが現れる。
 彼は二人とは全く違って堂々と振る舞うのだけれど、彼もまた腹に一物ありそうな人物である。
 分かりやすく、野田秀樹演じるヒダの王の娘の一人である早寝姫に取り入っている。

 ヒダの王にはもう一人娘がいて、それが深津絵里演じる夜長姫である。
 彼ら3人は、この夜長姫の16歳の誕生日(お正月だったかも)に披露する仏像を彫るために招かれているのだ。
 耳男は、夜長姫に(命じられた女に)片方の耳を切り落とされ、夜長姫がどんどんとドアを叩いているのを無視していたら寝泊まりしていた小屋に火を掛けられ、踏んだり蹴ったりどころの騒ぎではない。
 でも、夜長姫のかなりぶっとんでいるにもかかわらず反論を許さない論理だったり、可愛らしい声だったり、理不尽な残酷さにどんどん負けて行っているように見える。負けて行くというよりは、参って行っているように見える。

 桜の森で耳男に声をかける鬼も、夜長姫も、多分、正体は一緒だ。
 深津絵里は、甲高い可愛らしい声と、年齢を重ね業を重ねた低音の女性の声と、自在に使い分けて、夜長姫として耳男を振り回して行く。
 恐ろしいったらない。

 オオアマは、明らかに何かを狙って、しかも「名人になりすますこと」がある意味目的だった耳男とマナコとは違って、その先を狙ってここに来ており、そのターゲットとして選ばれた早寝姫にヒダの秘密を次々と探させている。
 鬼門だったり、近江宮だったり、天智天皇だったり、それらの言葉が散りばめられ、オオアマが大海人皇子で、彼が狙っているのが「缶蹴り」ならぬ「国盗り」であることが判る。

 夢の遊眠社の頃を思い出させる言葉遊びは健在で、こちらもあちこちに散りばめられているのに、何故かその言葉遊びが浮き上がってこないというか、「何だ何だ」と気になるということにならないのが我ながら不思議である。
 何となく物語の大筋を覚えているつもりで(実際は特に後半のかなりのストーリーを忘れ果てていた)、物語の行き着く先を何となく知っているつもり(実際は全く覚えていなかった)だから、その手がかりとしての言葉遊びに執着しなかったのかも知れない。

 早寝姫は殺され、3人の匠が彫り上げた仏像が披露され、耳男が彫り上げた「鬼」が門の上に掲げられて鬼門が開く。
 大海人皇子はその鬼門を通って叛乱を起こし、朝廷(鬼)と大海人皇子を両天秤にかけたマナコのお陰で苦戦するものの、早寝姫を通じて得た知識をフル活用してオオアマはついに国の主となる。
 この辺りからが後半だ。

 「物語の世界に入れてもらえない」とテープの外で歯がみしていた池田成志、秋山菜津子、大倉孝二、藤井隆ら「鬼」だった者どもが「人間」として物語世界に入り込み、しかもオオアマとのつながりからこの国の中枢に入り込む(そして、彼らのうち二人はその後追い落とされる)。
 オオアマは夜長姫を妻に迎え、自分を裏切ったマナコを捉え、耳男に「この国を守護する仏像を彫れ」と命じる。
 自分の地位を守ることに汲々とし始めるオオアマは、どこか、マクベスを彷彿とさせる。

 それにしても、何といっても、この芝居をかっさらって行ったのは、深津絵里演じる夜長姫と「鬼」である。
 「女って恐ろしい」「可愛い女こそ恐ろしい」という感じを地で行き、耳男の人生を狂わせ、オオアマの人生を(こっそりとかつ無意識に)狂わせ、物語世界を一人で背負い、支える。
 彼女の衣装がピンクで、舞台上でフォーカスしたり物語世界を「区切る」役割を持ったテープがピンクだったのは、多分、偶然ではない。

 夜長姫が「見〜つけた!」と叫ぶ度に国の教会が定まって行ったことも合わせ、この「贋作 桜の森の満開の下」という芝居も、この芝居の中の「場」みたいなものも、背負っていたのは、夜長姫であり、夜長姫を演じる深津絵里の声だったと思う。
 逆に言うと、深津絵里以外の役者さんたちは、意図的に自分の「声」という武器を封印していたようにも思える。彼女の声を際立たせるために、声の表情をひたすら殺していたようにも思う。だから、物語を「進行」させていた銀粉蝶の声が比較的印象に残っているのではなかろうか。

 そして、その夜長姫の大きさに一人気づいた耳男は、鬼なのか夜長姫なのか、桜の森で出会った「何か」なのか、恐らくは心のどこかでそのすべてであり誰でもないと判っていた相手を桜吹雪の中で殺してしまい、刃物を刺された瞬間、その女は夜長姫になる。
 夜長姫が死に、姿も消え、鬼の面だけが残される。
 その桜の森も満開の下、耳男は膝を抱え、ただ座り続ける。表情は覚えていないけれど、その目がまっすぐ前を見つめていたことは覚えている。

 多分、本当はもっともっと色々なことがこの芝居の中で語られていたと思う。
 それを受け止めきっていない自信が確実にある。
 でも、私にとって、今回の「贋作 桜の森の満開の下」は、夜長姫が自分で自分を壊すだけの「理由」を得て自分で自分を壊した物語である。

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コメント

 アンソニーさま、コメントありがとうございます。

 アンソニーさんは、歌舞伎の「贋作 桜の森の満開の下」をご覧になっているのですね。
 私は「歌舞伎だと判らないだろうなぁ」と思ってしまい、観に行くことのないままになってしまいました。
 再演されたら、ぜひ、観に行きたいと思います。

 周りの席の方がおしゃべりしていると、ものすごーく気になりますよね。
 お気持ち判ります。
 それだけで集中力をそがれますし、一々イラっとしてしまう自分にもイラっとするし(笑)。
 自宅でテレビを観ているときのように感想を言い合ったり、詳しい片方の方がもう片方の方に説明をされたり、本当にご遠慮願いたいと思ってしまいます。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2018.11.18 11:48

こんばんは、姫林檎様。

以前歌舞伎バージョンを観てとても良かった記憶があり楽しみに観に行ったのですが、今回まるきり集中できず
見事になんのことやらわからず終演してました………こちらで感想を読ませてもらい少し記憶のピースが繋がったので
いつもながら感謝しております。

近くの席の男性が演者が出てくる度に名前を隣の連れに確認し、前半だけで離席2回とちょっとありえませんでした(;´д`)

投稿: アンソニー | 2018.11.13 00:29

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