「お正月」を見る

玉造小劇店 配給芝居「お正月」
作・演出・出演　わかぎゑふ
出演　コング桑田／野田晋市／うえだひろし／長橋遼也
　　　　松井千尋／有馬自由／桂憲一／浅野彰一
　　　　茂山宗彦／江戸川じゅん兵／山像かおり
　　　　水町レイコ／美津乃あわ／小椋あずき
　　　　内山絢貴／是常祐美／増井友紀子
観劇日　2019年1月19日（土曜日）午後2時開演
劇場　座・高円寺１
上演時間　2時間
料金　5000円

　劇場前のスペースとロビーで、ファーマーズマーケットっぽい「市」が開催されていて、お寿司やパン、利き酒なども販売されていた。心惹かれたけれど、自粛。
　
　ロビーではパンフレットや和装小物が販売されていた。
　役者さんが売り子をしていたり、パンフレットにその日「当番」の役者さんお二人がサインをしてくれるのも恒例である。この日は、桂憲一と野田晋市の「兄弟」コンビだった。

　ネタバレありの感想は以下に。

　玉造小劇店の公式Webサイトはこちら。

　久々の「お正月」を見た。
　とある一家の100年を超える物語で、そのときどきの「お正月」の一コマを切り取って時代と家族の流れを見せて行くというお芝居である。
　終演後の挨拶で「15年ぶりの再演」と言っていて、ちょっと驚いた。
　出演者陣がやっぱり変わっていたり変わっていなかったり、大きな芝居の流れは変えずにでもあちこち少しずつ変わっていた、と思う。

　私の中で一番大きかった変化は、粟根まことが演じていた「最初と最後にしか登場しない」役が消えていたことだ。
　当然のことながら、彼が毎年送っていた年賀状のエピソードも完全に消えている（達筆の筆で書かれた年賀状の話はちょこっと残っていて、それは少し嬉しかった）。
　100年の時の流れを示す、最初から最後まで「出演」している人物がいなくなってしまったのは少し寂しい。

　どうしてなのかなぁと考えたときに、物語の最後が延びたからかしらと思った。
　確か前作では、はるさんが家を手放すことを決め、そのすぐ後に新婚さんがこの家に引っ越してくるというシーンがラストシーンだったように記憶している（私の記憶違いかもしれない）。
　今回の上演では、はるさんが家を手放した後、でも鈴木家の親族が家を引き継いでいたらしく、そこへ東日本大震災で家を失った一家が心機一転新しい土地でと引っ越してくる、というシーンに変わっていた。
　戦争とともに、関東大震災や阪神・淡路大震災がこの一家の歴史に大きな影を作っていることは間違いなく、東日本大震災を書かない訳には行かなかったんだろうと思った。

　100年の流れを今回見せてくれたのは、お隣の「かやのさん」だ。
　毎年のお正月に炊いた黒豆をお裾分けしてくれる「かやのさん」は、ずーっと小椋あずきが演じていて、「娘のようこです」「娘のまさみです」と代替わりしていく女達を演じ分けているといえばいいのか、演じ続けているといえばいいのか、お隣のかやのさん一家も引っ越すことなく絶えることなく、鈴木一家と一緒に100年の時の流れをともに歩んでいる。

　小椋あずきももちろん、女優陣の「お正月のお着物」も見どころの一つだと思う。実は早変わりに近いことをされているのではなかろうか。
　一人の人物を長く演じていたり（お嫁さん役を演じているときはこちら）、次々と色々な役を演じていたり（娘の役を演じているときはこちら）、同じお着物を着て同じ人物を演じていることもあるけれど、概ねシーンが変わると着物も変えていたような気がする。

　一方、男優陣はほぼずっと黒のスーツだし、髪型も（多分）変わらず、直球勝負だ。潔い。
　変わっているといえば、有馬自由が最初出てきたときに有馬自由だと気がつかず、後で気がついて驚いた。「おもてなし」の時とは随分違う感じである。
　いずれにしても、鈴木家を担い支えているのは女達で、男どもは概ね情けないというところが面白い。実際「家」を舞台にしたらそこで主役を張るのは女、特に「嫁」よねと思う。

　一番長く鈴木家の物語に登場するという意味でも、はるさんが印象深い。
　関東大震災を機に関西にお嫁入りし、いつの間にか関西弁も堂に入り、第二次世界大戦でも家を守り抜き、息子や孫娘と暮らし、年老いて行く。
　それでも一家の中心は「お祖母ちゃん」だ。
　初演で演じていた女優さん（顔が浮かぶのに名前がどうしても浮かばない）とはまたタイプの違ったはるさんになっていて、やっぱりはるさんがこの舞台の要だなぁと思った。

　やはり、「お正月」はいい。
　変わるお正月も、変わらないお正月もいい。
　そう思った。