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加藤健一事務所「喝采」
作 クリフォード・オデッツ
訳 小田島恒志・小田島則子
演出 松本祐子
出演 加藤健一/竹下景子/奥村洋治/林次樹
山本芳樹/寺田みなみ/小須田康人
観劇日 2019年3月13日(水曜日)午後7時開演(初日)
劇場 本多劇場
料金 5400円
上演時間 2時間50分(15分の休憩あり)
ロビーではパンフレット等が販売されていた、と思う。(あまりちゃんとチェックしなかった。)
ネタバレありの感想は以下に。
いわゆるバックステージものの舞台である。でも、「どんな内容の舞台なのか」はあまり問題にはなっていない。むしろ「主演俳優を舞台に立たせること」を主眼としたバックステージものである。
とある舞台の主演俳優が、初日を2週間後に控えて「別の仕事が入っていてハリウッドに行かなくてはならない」と行ってしまい、舞台に穴が空きそうになる。
もちろん、裏方(主にプロデューサーと演出家)は大慌てだ。
演出家は、プロンプタとして雇っていた往年の名俳優である加藤健一演じるフランクを推す。プロデューサーは渋い顔だ。
フランク自身も乗り気でないところを見せていたけれど、小須田康人演じる演出のバーニーは彼の家まで押しかけ、ついには説得する。
この家に押しかけたときから、バーニーと、竹下恵子演じるフランクの妻であるジョージーとはいかにも上手く行かなさそうな感じだ。
理由はよく分からなくて、もはや「相性が悪い」で済まされそうな感じがする。お互いがお互いを「フランクのためにならない人物」とみた瞬間に認定した、という感じだ。
私は「酒浸りでダメなフランクを、妻のジョージーが支えて何とか代演を成功させる物語」だと思って見ていて、でもそうやって見ながら、それが観客としてあるべき姿なのかしらということが常に気になっていた。
フランクは、「自分が酒浸りになったのは、妻がリストカットを繰り返すほど病んだからで、自分は既に立ち直ったけれども、妻には支えが必要だ」とバーニーに語り、バーニーはそれを信じ、ジョージーに対して隔意ある態度を示し続ける。
この芝居を見るときに、「バーニーと一緒に騙されて」見るのが正しいのか、「バーニーはすっかり騙されてるよ」と思いながら見るのが正しいのか、どちらなんだろう。
「正しい」という言い方が変なら、舞台を作っている側は、バーニーと一緒に観客も騙そうとしているんだろうか、それとも、バーニーが騙されていることを分かって欲しいと思っているんだろうか。
ボストンに移って舞台稽古を行うシーンくらいまでずっと、こういうことを考えることの方がそもそも間違っているような気がしつつ、そんなことばかり気になってしまった。
この舞台では、(私がジョージ−言うところの察しの悪すぎる人間だという可能性も大いにありつつ)「フランクが嘘を言っていて、ジョージーが事実を言っている」という決め手が感じられなかったと思う。どこかで明かされていただろうか。
一幕の後半になって、フランクの不安定さが徐々に夫婦の会話から明確に示される。
そうすると、今度は、ジョージーの苛立ちは理解できるものの、「バーニーが騙されている」ことにどうして思い当たらないんだろうということが気になってくる。
ついついバーニーの味方をしたくなるのは、小須田康人を久々に舞台で拝見したからということもあったと思う。
一幕では喉が心配になるくらい枯れた声でしゃべっていて、せりふの中身よりもむしろ声が気になってしまったけれども、二幕に入った辺りですっかり持ち直していた。流石である。
そんなこともあって、一幕は集中しつつ、舞台の別のものに集中していたような気もする。
二幕に入るとさらにフランクの不安定さ、己の不安をジョージーに押し付けようとするずるさが夫婦の会話から明らかになり、それに伴ってフランクがバーニーの前では決して不安や不満を口にしないことから、バーニーのジョージーに対する「邪魔者」扱いが激しくなって行く。
冷静に見えるジョージーのこの辺りの振る舞いがあまり上手くなく映るのは、「フランクがバーニーを(積極的に)騙している」ことに彼女が気が付いていないらしいからだ。
バーニーがついにジョージーをニューヨークに追い返すことにしてそれをフランクに告げ、告げられたフランクが臨界点を超えてお酒を飲み過ぎて稽古に遅れてしまう。
そうして、フランクの実態を知ってショックを受けるバーニーを「察しが悪い」「気が付かなかったの」となじっていたけれど、それはジョージー自身にも当てはまることだと思う。
賢そうな登場人物たちが揃って察しが悪いところが、この舞台を見ていてもやもやする原因のような気がする。
バーニーがフランクにずっと騙されていた、実際に不安定なのはジョージーではなくフランクだということが分かった(ジョージーによって分からされた)直後、バーニーがジョージーになぜキスをしたのか、実はいまだによく判らない。
そこはよく判らないものの、つい笑顔になってしまうようなシーンに仕上がっているのは、演じたお二人の持つ佇まいによるところが大きいと思う。
バーニーが、お酒を飲み過ぎてぐだぐだのフランクをホテルに返し、ジョージーに向かって「プロデューサーと話してくる」と言って部屋を出て行った次のシーンは、ニューヨーク公演の楽屋だ。
ここのバーニーの奮闘は演じられることはない。
ニューヨークに場所を移した公演は上手く行っているようだし、フランクの演技も神がかってきている。
バーニーが、上演中の楽屋でジョージーにプロポーズを始めたところで、フランクが楽屋に戻ってきて、ジョージーに「ずっとそばにいて欲しい」とこちらも告白する。
それを聞かされる羽目になったバーニーの表情が秀逸だ。ゆっくりと首を振るだけで、場内に笑いを起こす。
特にジョージーという女性に注目すると、このお芝居は外国の戯曲だから成立している世界なんだろうなぁと思う。
バックステージものというのは、もしかすると「お国柄」が最も出やすいのかも知れないと思った。
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