「2.8次元」を見る
ラッパ屋「2.8次元」
脚本・演出 鈴木聡
音楽・演奏 佐山こうた
出演 おかやまはじめ/俵木藤汰/木村靖司/福本伸一
岩橋道子/弘中麻紀/大草理乙子/豊原江理佳
黒須洋嗣/谷川清美/ともさと衣/青野竜平
林大樹/岩本淳/中野順一朗/浦川拓海
武藤直樹/宇納佑/熊川隆一
観劇日 2019年6月16日(日曜日)午後1時開演
劇場 紀伊国屋ホール
上演時間 1時間55分
料金 5500円
ロビーでは、上演台本の他、Tシャツが販売されていた。
赤とターコイズ押し、だそうだ。
ネタバレありの感想は以下に。
チラシの裏にある、作・演出の鈴木聡の文章を読むと、割と暢気な感じに書いてあって、今の世の中全体が2.5次元化している、トランプ氏とか、的な感じである。
ミュージカル仕立てであることも心配している。心配だから、客演と音楽と振付をお願いしたと書いてあったりする。
ところが、当日に配られたフライヤーを読むと、焦点が「財政難に苦しむ老舗劇団が観客動員アップを狙って2.5次元ミュージカルに挑み、理想の演劇とのギャップに悩み・・・というところに苦労したと書いてある。
そりゃそうだ、と思う。
劇団が劇団のお芝居をするというのは難しいことなんだなぁと思う。
どこまでが現実でどこからがフィクションなのか、台詞の数々に「真」が入り過ぎちゃったりするのか、この台詞は主宰の(あるいは役者の)実は本音なんじゃないか等々、いくらでもヤバそうな場面が思い浮かぶ。
「劇団」や「劇団員」や「演劇」や「演劇ビジネス」や・・・といった芝居だからこそ、そうしたものに対する劇団員のスタンスや考え方や思い入れの違いがうっかり露わになってしまうかも知れない、のかも知れない。
そんなことは、結成35周年を迎えた劇団にとっては、すでに通り過ぎて解決済みの問題なのか。
その辺りは、知らぬが花ということにしておこうと思う。
また、「下北沢」とか「劇団☆新感線」のチケットを会員入会特典に付けるとか「平田オリザの芝居じゃないんだから」とか、割と「今の演劇界」の話を確信犯的に使うことで、笑いに変えている。
上手い。
そして、これが本音だと受け取られても構わないというすがすがしさを感じる。実際に本音なのかどうかは永遠の謎である。
ミュージカル仕立てではありつつ、バックステージものでもあるので、実際のミュージカルを見ることはほとんどない。
「ミュージカルの稽古をしている場面」などなどで切れ切れに見られるだけである。
逆に言うと、「ミュージカルの稽古をしている」のだから、劇中でいきなり歌い出すことの意義は必要十分にある。この設定は、その説明しにくいところをあっさりクリアできてしまえるところがいいと思う。
最初は2.5次元ミュージカルなんてという態度だった劇団員たちと、特に制作担当だけれど、座長が何故か微妙に乗り気だし、借金を返さなくちゃいけないし、今どき流行の2.5次元ミュージカルを上演すれば大入り満員かもしれないし、ということで、割となし崩し的に上演が決定する。
しかし、顔合わせのときから、外部から呼んできた演出家は無茶振りするし、態度がデカいし、説明せずに頭から劇団と劇団員の芝居と人格を否定するしで、すこぶる感じが悪い。会社員だったらあっさりパワハラの烙印を押されそうである。
感じが悪いと私は思ったけれど、さて、演劇界でこういうタイプの演出家はもしかして多いのではなかろうか、とも思う。
そこは、肯定も否定もされていないように感じる。
劇団員たちは不満を持っているけれど、座長は無言で受け入れているし、実際問題として公演は成功する。
いや、観客動員さえ良ければすべて許されるのか。しかし観客動員が良ければ収入も増えるし、収入があれば借金も返せるし、次の公演を打つことができる。
やっぱり、その辺りの価値観というかスタンスをどこに置くかという問題は、全くの門外漢の私が見ても難しい。
多分、正解はない。
「2.8次元」というこのお芝居の場合は、最後の返し稽古で、座長とモデル出身で演技の経験はまだ少ない主役の若者との「どうあるべきか」「どうしたら上手くなれるのか」「どう演じたらいいのか」という会話と、その会話を下敷きにした稽古での完全に台本を逸脱したやりとり、そのシーンを原作者が「いいと思う、2.5次元ではないけど、2.8次元だね」と肯定することで、答えに代えているように感じられた。
それは、多分、ラッパ屋の35年目の答えなのだ。
だからこそ、読み合わせのときにいきなり役を取り上げられた役者が裏方として拗ねたり凹んだりマイナスの雰囲気を醸し出すことなく働いていたり、稽古がだいぶ進んでから「やっぱり私にはできない」と降板を申し出た役者が「でも、この芝居は必要だし、私は応援する」と言い切ったりすることが重要なんだと思う。
この二人の存在(芝居の中でということである)は、この芝居の肝であるように感じられた。
劇団が劇団を描くことは難しいし一歩間違えれば重い。
そこを細心の注意を払って歩き切った(ついでに、歌って踊りきった)お芝居だと思う。
1時間50分があっという間のお芝居だった。
ブロードウエー進出を目指すそうだけれど、この「劇団」という仕組みを海外で理解してもらうことは難しいんじゃないかという気が凄くした。
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コメント
みずえ様、コメントありがとうございます。
「ラッパ屋の公演をもっと増やして欲しい」というご要望、私も全く同感でございます。
キャラメルボックス活動休止のニュースも流れた昨今、長く続けている(続けることが出来ている)劇団って貴重だと思います。
ただ、単純に嬉しい。
そして、ラッパ屋の舞台は面白い。
歌って踊るラッパ屋も新鮮でした。
「おじクロ」を思い出しました。
「キネマと恋人」ご覧になれなくて残念でしたね。その無念さ、よく判ります。
私は、追加公演を何とかGETできて見ることができました。良かったです。
緒川たまきの可愛らしさ爆発の舞台でした。
投稿: 姫林檎 | 2019.06.22 20:47
姫林檎さま
私はこの公演、先週観ました。
前回から空いてしまったので、本当に楽しみでしたよ。
ここの主宰の鈴木さんとは、別の公演でお会いしたことがあり、ラッパ屋の公演をもっと増やしてほしいと図々しいお願いをしたことがあるのですが、そのとき「もうみんな歳なので、このくらいが限界」とおっしゃっていました。
でも、この年齢だから出来る舞台もありますよね……若輩者には出せない味がラッパ屋にはあると思っています。
そしてそんな歳にも関わらず、今回の公演では攻めてましたね。
まさか歌って踊るとは。
この業界の裏事情まで語られていたので、私もラッパ屋と重ねて観ておりましたよ。
ラストの見せ場は、願わくば衣装付きで観たかったです。
ところで、「キネマと恋人」ご覧になったんですね。
私はこの公演、前回も今回もチケットが取れず、今でも無念でなりません……。
投稿: みずえ | 2019.06.19 13:52