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「海辺のカフカ」
原作 村上春樹
脚本 フランク・ギャラティ
演出 蜷川幸雄
出演 寺島しのぶ/岡本健一/古畑新之/柿澤勇人
木南晴夏/高橋努/鳥山昌克/木場勝己
新川將人/妹尾正文/マメ山田/塚本幸男
堀文明/羽子田洋子/多岐川装子/土井ケイト
周本絵梨香/手打隆盛/玲央バルトナー
観劇日 2019年6月8日(土曜日)午後0時30分開演
劇場 赤坂ACTシアター
上演時間 3時間25分(20分の休憩あり)
料金 10800円
ロビーでは、パンフレットやTシャツ等のグッズが販売されていて、かなりの勢いで売れていた感じだった。
ネタバレありの感想は以下に。
主な出演者でいうと、2014年に私が見たときと比べて、佐伯さんが宮沢りえから寺島しのぶに、大島さんが藤木直人から岡田健一に、さくらが鈴木杏から木南晴夏に替わっている。
カフカと烏、ナカタさんと星野くんは替わっていない。
多分、ジョニー・ウォーカーも替わっていないけれど、そこは今ひとつ自信がない。
演出に「蜷川幸雄」と謳っているし、大きなアクリルケースに入ったセットを舞台上で縦横無尽に動かして場面転換をする枠組みはもちろん変わっていない。
出演者が変わり、続投している出演者だってもちろん変わっているのだから、全く同じ演出である訳もなく、全く同じ演出であっても同じ舞台になる訳はなく、カーテンコールに寺島しのぶが蜷川幸雄の写真を掲げていたことも含めて、それってどうなのかなぁと思う。
何年か前の演出を踏襲することが引き継ぐことにはならないのではなかろうか、と思ってしまう。
一方で、この舞台がまた見られることが嬉しいのだから、我ながら勝手なものである。
そんな中、木場勝己演じるナカタさんと、高橋努演じるホシノくんのコンビの安定感が心地よい。
本当に、ナカタさんは不動のナカタさんだし、ホシノくんも不動のホシノくんである。どちらも、かなり嘘っぽいキャラクターの筈なのに、違和感なく引きずり込まれる感じがする。
彼らの出会いのシーンが舞台に乗らないのがとても残念だ。
アクリルケースに入って登場した寺島しのぶは、ブルーのドレスを着て「少女」のときの佐伯さんから始めている。
その視線は本当に何も見ていなくて、少女の無邪気さというよりは、大人の女性の虚ろさみたいなものの方を強く感じた。「おかっぱ」というよりは「ボブカット」な髪型からの連想かも知れない。
カフカと烏のコンビは、2014年と同じコンビが上演していて、それぞれ5歳ずつ大きくなっていることになる。
「少年から青年になる」時期を演じるのに5年という年月は結構な重さがあると思う。そこを28歳で15歳を初々しく演じた古畑新之にすっかり騙された。流石だ。
烏を演じた柿澤勇人は、2014年度同じように「兄貴分」な烏を演じていたと思う。
私には初演のイメージが強かったようで、見ているときは「前は同志ぽかったけど、今回は兄弟っぽいな」と思っていた。
寺島しのぶも岡本健一も、手の動きが綺麗だ。
佐伯さん・大島さんというキャラクターを表現する上で、優雅な身のこなしが必須だったんだと思う。
逆に、この二人の曖昧な笑顔がちょっと怖かった。何だか二人とも、「能面を顔に張ったような」笑顔に見えたからだ。それもやはり、佐伯さん・大島さんというキャラクターに合わせたものだったんだろう。
カフカ少年は「自分を捨てた母親」なんじゃないかと思っている佐伯さんと恋に落ち、大島さんは肉体は女性で男性としての生活を送っている、同時に大島さんは、カフカ少年を導き庇護する存在だ。
大島さんと一緒にいるときのカフカ少年のもとに烏が現れないのは、多分それが理由だと思う。
カフカ少年にはもう一人「さくら」という庇護者が現れる。
少年は、彼女が自分の姉なのではないかと思っている。そういえば、カフカがさくらを姉だと思う理由も、カフカが佐伯さんを母だと思う理由も、実はそう明確には語られていなかったように思う。
それなのにあっさりと納得してしまったのは、多分、舞台全体から漂うたたずまいのようなものに気がつかないうちに説得されていたからのような気がする。
幕開けはピアノの音で始まり、クライマックスでは鼓が打ち鳴らされる。
その他のシーンは見事に覚えていないけれど、この2カ所の音だけはやけに印象に残っている。
声でいうと、田中裕子、宮沢りえに比べると、意外なことに寺島しのぶの声は随分と高く若く感じた。これまで佐伯さんを演じていた二人は、私の思い込みや記憶違いの可能性もありつつ、意識して低い声で語っていたように思う。
ついでに書くと、今回の佐伯さんが、一番、カフカとの恋に生々しく本気だったように見えた。
5年前と同じく、原作小説を読み返そうと思いつつ劇場を後にした。
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