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2019.06.18

「キネマと恋人」を見る

世田谷パブリックシアター+KERA・MAP#009「キネマと恋人」
作・演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:妻夫木聡/緒川たまき/ともさかりえ
    三上市朗/佐藤誓/橋本淳/尾方宣久
    廣川三憲/村岡希美/崎山莉奈/王下貴司
    仁科幸/北川結/片山敦郎
観劇日 2019年6月15日(土曜日)午後6時開演
劇場 世田谷パブリックシアター
上演時間 3時間25分(15分の休憩あり)
料金 7800円
 
 物販のコーナーはチェックしそびれてしまった。

 ネタバレありの感想は以下に。

 世田谷パブリックシアターの公式Webサイト内、「キネマと恋人」のページはこちら。

 初演のときはチケットが取れずに見逃して、今回も追加公演でやっとチケットを確保することができた。
 初演時にシアタートラムで上演されたとは思えないくらい、舞台を広く使い、場面転換もダンスの一部のように軽やか、場面転換の際に入るダンスも軽やかで、逆に舞台が狭く感じたくらいだ。

 ケラリーノ・サンドロヴィッチ演出のお芝居だから映像が多く使われることは、いわば「定番」だけれど、何しろ「キネマと恋人」なので、その映像もかなりパワーアップされている。
 緒川たまき演じるハルコは毎日映画館に通うほどの映画ファンだし、その映画の中から登場人物が飛び出してきて、飛び出されちゃった方の映画は何故か独自の展開を続けるという物語なので、映像は最重要登場人物くらいの扱いである。

 ハルコは美人だけど気が弱くて、「気が利く」というタイプではない。
 そこを、莫迦っぽく明るく可愛らしく演じ切る緒川たまきの当たり役だしはまり役だと思う。
 三上市朗演じる夫(デンジロウ、と呼ばれていたと思う)は、働いてなさそうだし、博打ばっかりしてそうだし、すぐ怒鳴ってすぐ殴って、今で言うモラハラの夫という感じだ。
 時代背景でいうと、昭和30年代らしく、映画がトーキーに変わったばかりの頃、という設定である。

 ハルコの住む梟島では、映画は東京の1年遅れくらいで1週間交代で上映されているようだ。
 ハルコが毎日通い続けていると、妻夫木聡映画の登場人物が突然にシナリオから外れ、愛の告白っぽいことを語ってスクリーンから飛び出してきて、ハルコを連れて逃げ出してしまう。
 もちろん、映画館は大混乱だ。

 大混乱だけれど、何だか「映画から登場人物が出てくるなんてあり得ない」という混乱じゃないところがKERAっぽいと思う。
 映画の登場人物達はスクリーンの中で途方に暮れ、ふてくされる。
 観客達は「こんなストーリーの映画を見に来たんじゃない」と言って、チケット代の返金を求める。
 映画館の支配人は、配給会社に電話して「何とかしてくださいよ」と訴える。
 その登場人物を演じた俳優に「何とかしろ」と命令が下る。

 何だか普通のことのように語られていて、この辺りで、時空がぐにゃりぐにゃりと全く違う方向にねじ曲がったように思う。
 当時、映画を見るということが非日常だから、登場人物が飛び出してくることもその非日常の一部として受け入れられちゃったのか、ここは架空の時代の架空の場所で、こんなことが日常茶飯事なのか。
 ロマンティック・コメディだし、エンターテイメントだけれど、やっぱりそこはKERA MAPなのだ。一筋縄ではいかない。
 それとも、元となったという「カイロの紫のバラ」という映画もそういう映画なんだろうか。

 ハルコは人生初かつ最大のモテ期を迎え、妻夫木聡が二役で演じている、「映画の登場人物」と「たまたま梟島に次回作の撮影に来ていて、その登場人物を演じている俳優」と二人から迫られることになる。
 この3人が舞台に同時にいなくてはいけないシーンも僅かにあって、そこは無理せずに笑いに持って行ってしまうところは、やっぱりKERA MAPだと思う。
 それはともかく、二人の男から別々の理由で熱烈に愛されるハルコは、有頂天になっているというよりは「私は人妻だ」と言いつつ、ふわふわと夢見心地である。

 一方で、ともさかりえ演じるミチルは、姉のハルコとは違って読書家ではあるものの、やっぱりどこかポワンとしたそして恋多き女である。
 彼女は、シリーズ物の映画でずっと主役を張っている俳優にいわば「つまみ食い」されてしまう。主演俳優の方は完全に「一夜限り」の認識だけれど、ミチルの方はすっかり本気にして「彼を追って東京に行く」と決め込んでいる。
 もちろん、それが上手く行く筈もない。
 彼は彼女をこっぴどく扱う。

 その場に居合わせたハルコは、ミチルを慰めつつ、自分は自分で恋に夢中である。相手がどっちなのかは、多分、本人にも判っていない。
 そこを最終的に現実的に、「映画の登場人物」ではなく「登場人物を演じている役者」を選ぶのは、ハルコの僅かな現実的な部分が勝ったところなのかも知れない。
 しかし、ハルコの映画や演技に関する洞察力や意見にも感服し、「一緒に東京に行こう」「鞄ひとつでおいで」と言っていたその役者も、ハルコが待ち合わせの場所に行ってみれば、何も言わずに島を離れてしまっている。

 主演俳優の男も大概酷いけれど、結果としては、ハルコを誘った俳優の方が酷いじゃんと思う。
 映画の大きな仕事が決まったから、多分、ハルコを捨てて、島を出たのだと思う。そういうことをすればハルコは追ってこないだろうという計算ももちろん働いていた筈だ。
 ただ、実はこの「ハルコを捨てた」理由は私には今ひとつ判らなかった。多分、わざと明確には示さなかったのだと思う。

 ハルコは、ミチルに語ったように、「辛いことがあったときには映画の世界に逃げ出していた」これまでのように、失意のまま映画館に入る。
 最初の内はうつむいていたハルコだったけれど、そのうち、「もう映画には誘わないで」と言っていたのにやってきたミチルとともに、スクリーンを見て笑い始める。
 そこで、幕である。

 ロマンティック・コメディだけど、ハッピーエンドじゃないのね、と思う。
 ハッピーエンドでも良かったんじゃないの、と詰め寄りたい気持ちで一杯になった。

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コメント

 アンソニーさま、お久しぶりです&コメントありがとうございます。

 えーと、私はあまり元気ではありませんが(笑)、何とか日々を過ごしております。
 「キネマと恋人」何とか見ることができました。
 チケットが確保できたのは、本当に僥倖だったと思います。

 「カイロの紫のバラ」という映画は35年位前の映画なんですね。
 私が映画をほとんど見ない(多分、生涯で映画館で見た映画は30本行かないと思います)上に、我が家の近くにはレンタルDVDのお店がなく、なかなか機会を捉えるのが難しいのですが、この映画はいつか見てみたいなぁと思います。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2019.06.27 22:52

姫林檎様、ご無沙汰しております。
お元気ですか?

ご覧になられたんですね!
私は結局スケジュールあわすで今回は
無理でした。チケットも取れませんでしたし。

カイロの紫のバラも実は初演見たあと
見ました。ほぼ同じ内容だった気がしてますがなんせあまりはっきり細部は思い出せず
情けないです(^_^;)機会あれば
見比べてみてくださいね。

投稿: アンソニー | 2019.06.26 17:55

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