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「お気に召すまま」
作 ウィリアム・シェイクスピア
翻訳 早船歌江子
ドラマターグ 田丸一宏
演出 熊林弘高
出演 満島ひかり/坂口健太郎/満島真之介/温水洋一
萩原利久/碓井将大/テイ龍進 Yuqi(UQiYO)
広岡由里子/久保酎吉/山路和弘/小林勝也
中村蒼/中嶋朋子
観劇日 2019年8月3日(土曜日)午後1時開演
劇場 東京芸術劇場プレイハウス
上演時間 2時間40分(20分の休憩あり)
料金 8500円
ロビーではパンフレット(1500円)が販売されていた。
1階席の最後方だったからということはないと思うけれど、それにしても、周りに上演中におしゃべりする方が複数いて辟易した。
それでも、お芝居が進むにつれておしゃべりの声が消えたのは、お芝居が持つ力であり役者さん達の力だと思う。
ネタバレありの感想は以下に。
シェイクスピアである。
シェイクスピア作品を見る度に、一体「正統的なシェイクスピア」ってどんなものなんだろうと思う。
翻訳物だから、そもそも翻訳によって台詞が変わるのは当然だし、それにしても様々に解釈された様々なシェイクスピア作品が上演されてきたし、これからも上演され続けるんだろうと思う。
どこまでシェイクスピアの懐は深いんだろう。
「お気に召すまま」は、2018年に見ているし、2016年にも見た。
子供のためのシェイクスピアシリーズの「お気に召すまま」も見たし、だいぶ前になるけれど蜷川幸雄演出のオールメールシリーズの「お気に召すまま」も見た。
ココログに書くようになってからで5本というのは、凄く多いわけではないけれど、少なくもない本数だと思う。
そして、どの舞台も「工夫」を重ね、個性を出そうとしていたように思う。
今回の「お気に召すまま」は、かなり猥雑な方向に舵を切っていると思う。
ただ、舵を切ったんだろうなという印象はあるものの、「猥雑なシェイクスピアだった」という感想にはならなかった。
ロザリンドとシーリアの会話はだいぶ下ネタに振れているし、アーデンの森は何故か服が散乱し、公爵が流されてきたときに一緒に来たのが男だけだったからか男同士は普通、獣姦をイメージさせるような演出まである。
でも、猥雑になりきれない、という感じがした。
アーデンの森にいる公爵の僕(友人)たちに若者が多かったのもその理由の一つかも知れない。
せっかく重量級の役者を揃えているのだから、彼らの本気の猥雑を見たかったなぁと思う。
ひたすらメランコリックなジェイクスはアーデンの森の住人達の中ではかなり目立つ人物で、目立つ人物だからというアドバンテージを活かしてかなり頑張っていたと思う。
客席や通路を多用する演出の中でも、彼の客席率はかなり高かったのではなかろうか。
芸術劇場のあの広い舞台で猥雑を前面に出すというのは、そもそもかなり難しいと思う。
猥雑といえば小劇場、という私の思い込みのなせる業である可能性も高いけれど、広い舞台を猥雑で埋めるというのはやっぱり単純に考えて大変だ。何しろ、客席が遠いし、舞台が広い。
だからこそ、舞台セットが額縁を二重にしたようになっていて、二重の虚構を演出し、逆に遠さをカバーしようとしていたと思う。
「お気に召すまま」という芝居の筋書きで一番謎なのは、主役であるオーランドーの兄オリバーが、アーデンの森に来て突然改心してしまうところだ。
あんだけ感じが悪く、弟が家人達に愛されていることが許せずにそれを「自分の評判が貶められている」と解釈して、弟を陥れようと画策していた兄が、突然いい人っぽくなっているところが解せない。
この兄オリバーと、もう一人の主役であるロザリンドの従姉妹シーリアが、お互い一目惚れしてあっという間に結婚に至ってしまうことなど、目じゃないくらいの謎だと思う。
そもそも、坂口健太郎演じるオーランドと満島ひかり演じるロザリンドが恋に落ちるところだって、一目惚れもいいところだ。
そういえば、ロミオとジュリエットだって一目惚れである。
もはや一目惚れなんて、シェイクスピアの世界では謎ではなく日常だ。
謎というなら、満島真之介演じるオリバーが改心したことだし、そういえば登場シーンではステッキを付いていたのに、中島朋子演じるシーリアと恋に落ちていたときには普通に歩いていたことだって謎である。
オリバーの改心には若干の理由というか経過が語られるシーンもあったけれど、ステッキについては全く触れられていなかったと思う。
シーリアの父親が、アーデンの森に攻め入ろうとして兵を率いて来たのに突然改心したことに至っては、もう謎が謎とも思わないくらい唐突だ。その知らせを持ってきたのが、名前も登場しないオリバーの弟でオーランドの兄である人物だったことも、賑やかしだよね、と納得してしまう。
謎といえば、一番の謎は「ロザリンドの男装をどうして誰も見抜けないのか」ということかも知れない。
それを言っちゃあおしまいよ、という話ではあるけれど、今回の演出では、オーランドは途中でロザリンドの男装に気づき、でも気づかないふりでロザリンドに「ロザリンドだ」と名乗り出る機会を与えているのかな? と思わせるシーンがあったように思う。
それで、あれ? と思っていたら、オーランドと元公爵が「彼(ロザリンドの男装姿)を見ていると、ロザリンド(娘だったり一目惚れした相手だったり)を思い出す」などとしみじみ語り始めたので訳が分からなくなった。
ここまで好き勝手に人を動かし、ラストシーンが4組の男女の結婚式のシーン(しかも、そのうちの一組は、温水洋一と小林勝也である)という無理矢理な大団円だから、「お気に召すまま」と観客に訴えかけているタイトルなのだし、舞台の幕はロザリンドが観客に向かって「お気に召すまま」と説明し哀願すると同時に下ろされるのだと思う。
普通に考えれば許されないような大胆な筋書きも、シェイクスピアなら許される。
むしろ名作になる。
その名作になったシェイクスピアを翻案し、解釈するのはやっぱり難しい。
でも、骨格がしっかりしている(むしろしっかりしすぎている)からこそ、色々といじって「自分のシェイクスピア」を作ろうという誘惑に駆られるし、それに耐えられるんだろうなと思う。
何だかそんなことをつらつらと考えてしまった。
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