「フローズン・ビーチ」を見る
KERA CROSS 第一弾「フローズン・ビーチ」
作 ケラリーノ・サンドロヴィッチ
演出 鈴木裕美
出演:鈴木杏/ブルゾンちえみ/朝倉あき/シルビア・グラブ
観劇日 2019年8月4日(日曜日)午後0時30分開演
劇場 シアタークリエ
上演時間 2時間15分
料金 9000円
ロビーではパンフレット等が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
舞台は、豪華な感じの海外の別荘のリビングといった感じの場所である。
そこに、別荘の持ち主の娘である愛が、その友人(というか恋人)の千津と、千津の友人の市子を招待したようだ。
愛には、双子の姉の萌がいて、二人の父親は盲目の咲恵という後妻がいる。
登場人物はこの5人だ。
KERAさんの舞台を鈴木裕美が演出するということで、映像を活用しまくるKERA演出はどう変わるんだろうと思っていたところ、幕開けと同時に映像を使って背景を説明するところは踏襲されていた、のだと思う。
よく考えたら、私はKERA演出の「フローズン・ビーチ」を見たことがないので、そちらで映像を使っていたかどうかは知らないが、恐らくは使っていただろう。
そこから変えるのかしらと思っていたので、ちょっと意外だった。
花乃まりあ演じる愛と鈴木杏演じる千津は、共謀して、ブルゾンちえみ演じる市子に、花乃まりあ演じる萌を殺させようと計画している、らしい。
愛は亡くなった母親を神格化していて、その母を裏切った父親と父親っ子の姉を憎んでいるようだ。さらに、父親の車に追突されたことをきっかけに後妻に収まった、シルビア・グラブ演じる継母の咲恵にもかなりイラついているらしい。
イラついているから殺してしまえというのは、余りにも短絡的だと思うけれど、そういう考えが見ているときは浮かばないのがKERAさんの芝居である。
千津は看護婦の卵でかつ薬をやっているようだし、彼女の恋人である愛も高校の頃から薬を使っているようだ。
市子は、千津の話を聞いていると、殺人未遂でこれまで何度か入院したことがあるらしい。
萌は心臓が悪く、1日3時間くらいしか起きていないらしいし、咲恵の目が見えなくなったのは愛たちの父親に追突されたことが原因だ。
何というか、皆それぞれに激しく業を抱えた女たちである。
市子を演じたブルゾンちえみが、「ブルゾンちえみ」を(若干のお化粧以外では)感じさせず、むしろ少年のようにもおじさんのようにも振る舞う市子を演じて上手い。
花乃まりあの、かなりわざとらしい愛と萌の演じ分けは、多分わざとなんだと思う。そこまで振り切ってわざとらしさを作っておかないと、「萌の服を着て萌の振りをした愛」を一発で観客に判らせることはかなり難しい筈だ。
鈴木杏とシルビア・グラブの演技はもう何の心配もない、という域だと思う。
千津は愛と共謀して市子に萌を殺させようとしているのと同時に、千津単独で市子に愛を殺させようとしているようだ。
市子はスイッチが入ると自分を抑えられなくなってしまうようで、千津はそれを「上手に」利用しようとしている。
千津の企みは、市子がベランダから愛を突き落としたことで成就したかのように見えたけれど、そう上手く行く筈がない。萌が咲恵に浮気の証拠を見せつけて(といっても見えない訳だけれど)咲恵を追い払おうとし、咲恵の反撃に遭って(しかし実際は心臓発作で)死んでしまう。
実は死んでいなかった愛は、萌が死んでいるのを見て咄嗟に入れ替わることを思いつく。この辺りは「その場にいた咲恵の目が見えない」ことが効いている。
もっとも、萌の死因が心臓発作だったことから愛の企みはあっさりと露呈し、咲恵と共に萌の死体遺棄の罪で収監される。
しかし、既に日本に発っていた千津と市子が事の真相を知るのは、その3年後のことである。
というところまでが第一幕である。
さて、ナイロン100℃の公演では誰が誰を演じたのだろうとやっぱり考えてしまう。
市子が犬山イヌコなのはほぼ確定、松永玲子は千津と愛&萌のどちらだろうと少し考えて多分双子姉妹の方だろうと推定、そうすると千津は峯村りえになるけれど、咲恵を演じたのは誰だろう? それとも峯村りえは咲恵を演じたんだろうか。
そんなことを考えていて、帰宅してから確認してみたところ、峯村りえは千津を演じ、咲恵を演じたのは今江冬子さんという女優さんだった。彼女は2003年から休業中らしいので、フローズン・ビーチがそれ以来上演されていないのは、そのためだったのかしらと思う。
私は(多分)、舞台で拝見したことはないと思う。
8年後の1995年、咲恵と愛は何故か和気藹々と暮らしている。
しかし、バブルが崩壊してこの海外リゾートの島も寂れ、愛の父親が2年前に亡くなったときには多額の借金を残していて、この別荘も人手に渡ることが決まっているようだ。
そこにやってきた千津はオウム真理教に入信していて、「ここで数人を数年間暮らさせて欲しい」と迫り、二人に「そんなお金はどこにもない」と断られる。
千津がやってきた理由はそれだけでなく、「愛を殺してしまったと思い込んで3年間過ごした」ことに対する復讐のためでもあったようだ。
お土産の八つ橋に毒が仕込まれており、「痺れ始めて30分で死んでしまう」のだと咲恵と愛に宣言する。
市子があっさりと「それは嘘で、痺れるだけの薬だ。復讐は、”1回は1回”ではなく”釣り合いが大事”」と咲恵にばらすけれど、時すでに遅く、解毒剤を得ようとした愛が千津を包丁で刺してしまう。
興奮する愛を取り押さえようと市子が包丁に手を出し、市子の指が切られてしまい、もはや部屋の中はスプラッタである。
しかし、切り落とされてしまった市子の指が「ゆび」とひらがなで文字を書くと、市子に止血の処理を受けた千津は普通に歩いて部屋に戻って来たし、市子の指は元に戻る。
愛は医者を呼びに行き、(多分)めでたしめでたしだ。
市子は「1回は1回」の人だけれど、入院中に千津に色々と世話してもらったことに対し「1回は1回」と命を救って返す。
果たして、「1回は1回」がいいことなのか悪いことなのか、よく判らなくなってくる。
そして、さらに8年後、かの島は地盤沈下でもはや沈みそうになっている。
別荘も3階のリビングルームはぎりぎり水上に出ているものの、2階はすでに水浸しだ。
そこに、島の有力者と結婚したもののこの地盤沈下で全てを失った愛がヘリコプターでやってくる。バッグの中には自殺用のピストルがいくつも入っている。
しかし、そこに目が見えるようになった咲恵と、元気になって4回目の結婚中(だったような)の千津、回復したのかどうなのかよく判らない市子がやってくる。
彼女たち3人は年1回、これまでも会っていたようだ。
何だかよく判らない(しかし、そういえば15年前から話題に上っていた)カニ何とかという虫が、何故か市子に語りかけて市子が逆上し、愛が隠したピストルを撃ちまくる。
もう、何が何だか判らないけれど、4人とも何故か別荘の2階まで達した水(海?)に飛び込んで騒ぎ始め、幕である。
命のやりとりの多い芝居だと思いながら見ていたけれど、落ち着いて考えるとこの芝居の中で亡くなったのは萌一人である。そしてその死因は心臓発作で、千津は「私が渡した強い頭痛薬が原因かも知れない」と言っていたけれど、とりあえず明確な殺人ではない。
こんなに殺すの殺されるのというやりとりがあったにも関わらずである。
それが何だか意外な気がした。
真夏のホラー、だったのかも知れない。
凍り付くような南国リゾートのお話だから「フローズン・ビーチ」というタイトルなのかも知れない。
どこに連れて行かれるのかハラハラどきどきして、ふと気がついたら2時間が過ぎていた、という感じだった。
集中して、解放されたときのふわっとした感じが好きである。
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コメント
みずえ様、コメントありがとうございます。
みずえさんは、以前に「フローズン・ビーチ」をご覧になっているのですね。
今回の舞台はご覧になるのでしょうか。
きっと初めて見た私とは全然違う楽しみ方をされることでしょう。ちょっと羨ましいです。
ブルゾンちえみさんの市子は、なかなかハマっていたと思います。
逆にあれだけ振り幅が大きいと、ブルゾンちえみという個性を(お化粧の一部を除くと)振り払えるので、観る方は入りやすかったかしらと思いました。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2019.08.10 09:59
姫林檎さま
私は「フローズン・ビーチ」は、2014年のシブゲキの舞台を観ました。
キャストは一新されているのですね。
コメディーだかホラーだか、どちらとも取れる内容だなと思いながら観た記憶があります。
そして社会風刺が辛辣でした。
オウム真理教は、そのときも取り上げていたと思います。
多分初演からでしょう。
こういうのって、舞台でしかできませんよね。
市子をブルゾンちえみが演ったんですか。
14年では、石田えりでした。
難しい役どころだと思うので、あれを演るとは、彼女はそんなに上手いんですねえ。
投稿: みずえ | 2019.08.09 13:26