「絢爛とか爛漫とか」を見る
「絢爛とか爛漫とか」
作 飯島早苗
演出 鈴木裕美
出演 安西慎太郎/鈴木勝大/ 川原一馬/ 加治将樹
観劇日 2019年8月24日(土曜日)午後1時開演
劇場 DDD AOYAMA CROSS THEATER
上演時間 2時間10分
料金 7800円
全く気づいていなかったけれど、私が購入したチケットは「特典付き」だったようで、出演者の方々の顔写真が入ったマスキングテープをいただいた。
どこに使えばいいんだろう。変な使い方をしたら失礼な気がする。
ロビーではパンフレットが販売されていた模様。
ネタバレありの感想は以下に。
懐かしい、という感じだ。
記録にも残していないくらい前に、この芝居を見ている。モダンボーイ版とモダンガール版を同時期に上演していたときで、モダンボーイ版の主演は京晋佑、モダンガール版の主演は歌川椎子だった。
モダンガール版の印象が強くて、鬼気迫る様子で机に向かい正座で一心不乱に小説を書いていた歌川椎子の姿と、豪放磊落そのものといった感じで笑っていた柳岡香里をよく覚えている。
ネットで検索してみたら、私が見たのは1998年の再演だったようだ。
そのときと同様、鈴木裕美演出で見られることが嬉しい。
演じている若者たちは、初演(1993年)には生まれていなかったり生まれたばかりだったりするらしい。びっくりである。
この「絢爛とか爛漫とか」は、四半世紀前に初演された舞台なのだ。
そして、この芝居の舞台は、モダンボーイと言っているのだから大正時代なのだと思う。たしか、明確に時代を表す台詞等々はなかった記憶だ。
処女作を発表して以降、1年以上も2作目を書けずにいる古賀、文芸評論家を目指している泉、失恋しては”耽美小説”を書いている加藤に、「完結していないが書くことがなくなった」と出版社に原稿を持ち込んでしまう諸岡という、「文芸」という世界に住んでいる若者たちの春夏秋冬それぞれ1日ずつを描いている。
畳の部屋、障子とふすま、ガラスの入った引き戸、着物を着ていたりシャツとズボンだったりする服装、ちゃぶ台、一瞬しか姿を現さない女中、少し茶色っぽい原稿用紙と懐かしい道具立てがいっぱいだ。
茶箪笥の上の花瓶に生けられたお花と、窓の外の様子(桜吹雪、ひまわり、紅葉、雪)、登場人物たちの服装で季節の移り変わりが表現される。
彼らは創作を生業としていたり、生業としようとしていたりする若者たちであるのと同時に、それに挑戦することが許されている経済状態の家に生まれ育った若者たちでもある。
前はそんなことは気にしなかったなぁとふと思ったりもした。
こちらが歳をとったせいか、古賀の呻吟がどうにも子供っぽく見える。子供っぽいというか、劇中の本人も認めていたけれど「拗ねている」という風に見える。
その若さで悟ったようなことを言うんじゃない! という感じだ。
中で一番「大人」に見える諸岡ですら、「青い」と思うのは、やはりこちらが年をとったせいだろう。
周囲に気を遣いまくりの加藤が何だか気の毒になるくらいだ。
春にはまだ「書けないことに焦ってはいるけれど追い詰められてはいない」様子だった古賀が、夏には諸岡の性能に打ちのめされ、秋には小説家を辞めると言い出した諸岡に噛みついた挙げ句に睡眠薬を暴飲し、しかし女中のお絹にも助けられて冬には欧州に旅立つ諸岡を送り、泉にこれから書こうという小説の筋書きを語れるまでになる。
その筋書きを語る古賀のシーンが圧巻である。
極楽に居ながら「地獄はどんなところかしら」と呟く姫君を諸岡になぞらえているのだとすると、古賀は確かに一皮剥けたし、諸岡に言われた「羨ましい」「執着できるものがあることを喜べ」という台詞を正面から受け止めたのだということがよく判る。
諸岡は欧州に鉄道事業の勉強のために出発し、加藤は母の死をきっかけに田舎で父親と暮らしている。泉はついに結婚することを決めた。
諸岡出発の時点で「書いている」のは古賀だけだ。
舞台は常に古賀が寝起きする部屋、女中のお絹の存在を開いたふすまの奥から差す光で表現することでより「男4人」を強烈に意識させる。
劇場も小さめだし、「濃密」という言葉がよく似合う。
台詞をしゃべっていないときも、その場できちんと呼吸し存在している感じがある。いつ誰を見ても、そこには登場人物がいる。
もの凄く乱暴かつ雑にまとめると「葛藤する若者たち」「何かを生み出そうとするその産みの苦しみ」を描いた作品である。
だからこそ、四半世紀前に書かれ上演されたことを意識させない、普遍的な芝居となっている。
その芝居を、四半世紀近く前に演出した演出家の演出でまた見られる。これまた贅沢な話だ。
堪能した。
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