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2019.08.18

「けむりの軍団」を見る

いのうえ歌舞伎《亞》alternative「けむりの軍団」
作 倉持 裕
演出 いのうえひでのり
出演 古田新太/早乙女太一/清野菜名/須賀健太
    高田聖子/粟根まこと/右近健一/河野まさと
    逆木圭一郎/村木よし子/インディ高橋/宮下今日子
    礒野慎吾/吉田メタル/中谷さとみ/保坂エマ
    村木 仁/川原正嗣/武田浩二/池田成志 他
観劇日 2019年8月17日(土曜日)午後6時開演
劇場 赤坂ACTシアター
上演時間 3時間5分(20分の休憩あり)
料金 13800円

 ロビーではパンフレットの他、様々なグッズが販売されていた。
 Tシャツは「8月21日入荷」の張り紙が出ていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 「けむりの軍団」の公式Webサイトはこちら。

 「回らない新感線」は久しぶりである。
 「回る新感線」は、「髑髏城の七人」と「メタルマクベス」だったから、新感線の新作もかなり久しぶりだ。
 古田新太が主演を張る新感線も久しぶりだ。
 その古田新太と、しょっちゅう新感線の舞台で拝見している気がする早乙女太一が、今回初共演というのは意外である。
 何はともあれ、オープニングの音楽が聞こえ、照明がガーっと派手になると、新感線だよ! という気持ちが盛り上がる。

 歌と踊りが入り、殺陣ももちろんふんだんに入り、おポンチなネタも数々仕込まれ、王道の新感線、という舞台である。
 謎が謎を呼び裏切りも呼び嘘も大いに招き寄せる展開もやっぱり新感線の王道だ。

 軍配師というのは要するに「参謀」ということなのか、古田新太演じる諸国を渡り歩いているらしい軍配師・真中十兵衛は、賭場で知り合った池田成志演じる美山輝親という口から生まれてきたような男に翻弄され、子分を人質に取られて、金を盗んでとんずらした美山を5日のうちに連れ帰るように言い渡される。
 そこへ、人質として嫁入りしていた目良家から逃げ出してきた清野菜名演じる紗々姫と、須賀健太演じるその家臣と行き会い、彼ら二人に生国に連れ帰るよう依頼される。

 高田聖子演じる目良家当主の母嵐蔵院と、その目良家と対立する粟根まこと演じる夭願寺のの住職残照は、それぞれの理由で紗々姫を追い、ついでに紗々姫の夫で目良家当主もこちらは紗々姫恋しさに彼女の後を追う。
 実際に紗々姫の後を追うことになる早乙女太一演じる目良家の侍大将の莉左衛門が実は目良家前当主のご落胤だったり、十兵衛はこれまでも目良家との闘いに五度も望んで全て負けていたり、登場人物と人間関係と過去とが出揃ったところで、あとは一気に駆け抜ける感じだ。

 お転婆なお姫様と忠義の心だけは超一流の若侍という組み合わせは、話を意外な方向に転ばせるためには天下無敵である。
 特に須賀健太演じる一本気だけれど剣の腕は立たない若侍というキャラは、なかなか得がたい。紗々姫の実家の厚見家に対しては、人質を差し出さざるを得なかったような強大な相手方から人質を取り返すために、どうして腕が立たない家臣を派遣するかな、と言いたくはあるけれども、彼がいなければこの物語はそもそも始まっていないのだ。

 駆け抜ける感じではあるし、さてこいつは味方なのか敵なのか、優秀なのかそうでないのか、誰が誰を憎んでいるのか、そういう興味で強烈に舞台の世界に引き込まれる感じも相変わらずで、ふと気がつくと一幕が終わっていた、という感じではある。
 場面転換もテンポ良く、紗幕を下ろして映像を写しだし、そちらを見せている間にセットの転換を終えて紗幕を上げることで別のシーンに入って行く「回る新感線」で不可欠だった流れがこちらにも投入されていて、テンポ良く芝居が進んで行く。

 でも、同時に、なるほど同じ音楽を繰り返し使うことでこの舞台のテンポはより速く感じさせるようになっているのかなとか、十兵衛の士官への拘りとか子分たちとの関係とかもうちょっとどこかで示唆してくれないと、紗々姫の申し出に対する「迷い」の依って立つところがよく判らないよ、というか迷っているかどうかもよく判らなかったよとか思う。

 また、莉左衛門が「煤煙党」の名前を出したところで話が大きく動いたのだから、莉左衛門と煤煙党の間に何か因縁のようなものがあればもう一つ何かかませることができたのにとか、余計なことを考えてしまうこともあった。
 あと、徹底して紗々姫の実家である厚見家当主(紗々姫の兄)が名前すら出されることはなく、姿を見せることも一切なかったのもちょっと謎である。あそこまで徹底してスルーするなら、そこに何か理由があっても良かったかも等々とも思う。

 そういう感じでなんだかんだ思うところがありつつも、時間を忘れて舞台上の展開にハラハラどきどき「さてどうなるのか」「コイツの正体はどうなのか」と入り込んでしまうのはいつも通りである。
 そういえば、「ストーリーを知らない」で新感線の舞台を見るのも久しぶりだった。

 池田成志がどこまで行っても胡散臭いのは相変わらずで、見事過ぎて何も言えない。
 目の前にいたら胡散臭すぎて絶対に信じないよなぁ、こういう奴がいたらとにかく話は聞かずに問答無用で叩き切るね、とも思う。
 そこを叩き切らせないキャラに育ててしまうのが池田成志である。

 古田新太は、見得を切るところを別にすると、ずっと「適当に」歩いていたのが面白い。擬音にすると「ひょこひょこ」という感じで歩く。それが一流だけど負け続けている悲運の軍配師の「悲運」の雰囲気を消し去る。多分、十兵衛を格好良くしたくなかったんだろうなぁという気がする。
 腕も立つけれど軍配師という役どころは、「格好良くない」ところを見せるために必要だったのかしらとも思う。

 一方で、殺陣が始まればこれはもう格好良くない訳がない。
 特に、早乙女太一演じる莉左衛門との一騎打ちのシーンは圧巻である。
 刀の動きが見えない。目で追えない。それなのに、刀がぶつかり合う効果音と刀の動きが見事に一致している。凄すぎる。

 そして、殺陣のシーンと並んで「見得を切る」シーンになると、古田新太の歩き方も目つきも一変する。
 一人で広い舞台を背負って、かつ十二分に埋める。
 最後の「あばよ」の一言なんて、あの一言を聞くためにもう1回見に行こうかと思うくらいである。

 必要かどうかは置いておいて、もう一ひねりも二ひねりもできたよと思う。
 ガっと集中して、伏線が回収されていく展開にカタルシスを感じて、登場人物に惚れて、「あー、すっきりした」と思い、十二分に楽しんだ。

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