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「愛と哀しみのシャーロック・ホームズ」
作・演出 三谷幸喜
出演 柿澤勇人/佐藤二朗/広瀬アリス/八木亜希子
横田栄司/はいだしょうこ/迫田孝也
観劇日 2019年9月15日(土曜日)午後1時開演
劇場 世田谷パブリックシアター
上演時間 2時間30分(15分の休憩あり)
料金 9800円
ロビーではパンフレットやTシャツなどのグッズが販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
久々に三谷さんの芝居を見た! という感じだった。
笑ったし笑った。以上! という潔い感じが懐かしい。
2階席からの観劇だったけれど、置いてきぼり感が全くなかった。恐らくは全方位を意識した演出の賜かと思う。
シャーロック・ホームズとワトスン博士がベーカー街の下宿で共同生活を始めたばかりの頃から物語は始まる。
この同居自体が、シャーロック・ホームズの兄であるマイクロフト・ホームズが仕掛けたという設定だ。
「第一の事件」等の字幕が出るものの、これはファンサービスというもので、物語の核は事件解決にはなく、シャーロック・ホームズとマイクロフト・ホームズ兄弟の「自立」がテーマだ。
探偵業を立ち上げたばかりのシャーロック・ホームズのところに、「男に追いかけられている」と若い女性が飛び込んでくる。
彼女は「家庭教師に応募し、1日目の仕事を終えて帰ろうとしたら男に追いかけられた」と訴える。
話を聞いたシャーロックは真相を推理し、実地に確かめるべく下宿を飛び出していく。
そのとき、タンスの中から現れたのが兄マイクロフト・ホームズで、実はこの事件はこの兄が仕掛けたものであったのだ、という展開である。
合わせて、ワトスン博士が自分の妻をこの下宿に呼び寄せており、この妻がワトスン博士の先を行く医者だという設定のようだ。
確かに有能そうな女性である。
妻がいるのに、20歳くらい(という設定だと思われる)年下の男と同居する、医学博士号を取得したばかりの男も事件といえば事件である。ワトスン博士夫妻の今後はいかに、というのがもう一つの物語の軸だ。
マイクロフト・ホームズに雇われた女優を演じる広瀬アリスに奇妙な発声練習をさせるところは、何となく「酒と涙とジキルとハイド」の藤井隆を思い出させた。
何か一つ「癖」のようなものを作ることで、役者さんにとっては役に入りやすく、見るこちらにとっては可笑しく、役にとってはポイントができるということなんだと思う。
相変わらずのサービス精神だ。
シャーロックは一度は事件解決のために下宿を飛び出したものの、真相に気づいてすぐに戻って来て、そこから兄との対決が始まる。
とはいうものの、あっという間にシャーロックは自室に籠もってしまうので、なかなか直接対決にたどり着かない。
マイクロフト・ホームズという人物はかなりいけ好かないけれど、さすがは兄弟でシャーロック・ホームズと同じかそれ以上の頭脳を持ち、同じように「兄弟離れ」が出来ていないことが次第に語られて行く。
ついでに、ワトスン夫妻が決して「仲の良い」夫婦でないことも徐々に伝わってくる。
仲よさげなシーンが舞台の中で一度も出てこないからこその、休憩後の「ワトスン夫妻の素敵なナンバー」が活きてくるのだと思う。
佐藤二朗と八木亜希子の二人の歌が決して上手ではないところが良い。
マイクロフト・ホームズは、弟に自分の元で働くように求め、シャーロック・ホームズは、自分のこれからの暮らし方をトランプゲームで決めようと言う。
そのゲームは、一人一枚ずつカードを配り、全員が配られたカードを自分の額にかざして自分のカードは判らず、自分以外の参加者のカードは見られるようにする。
参加者は全員、1回ずつ誰か一人に質問をすることができる。
どんな質問をしてもいいけれど、回答者は真実を答える必要はない。
さて、である。
シャーロック・ホームズの心の中での推理が我々観客に明かされる。
一方で、マイクロフト・ホームズの推理は全く語られることはない。
シャーロック・ホームズは、「どう思いますか」という質問に対するハドスン夫人の「びっくりしました」という答えで、その場に出ているカードはほとんどが赤だったと推理していて、それは乱暴すぎだろ、と思う。そこを雑にしてどうするとツッコミたい。
そして、最後、シャーロック・ホームズが己の勝利を確信したのと同時にマイクロフト・ホームズも己の敗北を確信した筈が、ゲームを降りることはなく、勝負はシャーロック・ホームズの勝利に終わり、彼は「名探偵」としての生活を続けることになる。
シャーロック・ホームズの「どうして負けると判っていてゲームを続けたのか」という質問に対する答えはない。ただ、「自分は父親に子馬をもらったことなどない」という答えがあっただけだ。
このゲームは、実は、兄弟の関係を明らかにするのと同時に、ワトスン博士夫妻の確執も明らかにしていたようだ。
最後、ワトスン博士が妻を殺人犯に仕立て上げるために自殺しようとしたところ、シャーロック・ホームズが「自分に見抜けないことなどないということに気付け」とワトスン博士に話しかけ、自分たちは最高のパートナーじゃないかと宣言し、シャーロック・ホームズとワトスン博士の物語が始まる。
面白かった。楽しかった。笑った。
ハドスン夫人役のはいだしょうこがなかなかハマっていたと思う。
あと、この芝居を見て、やっぱり広瀬アリスと広瀬すずは兄弟だよなぁ、全然違うタイプの顔だと思っていたけどそっくりだよなぁ、と思った。
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コメント
みずえ様、コメントありがとうございます。
はい、このお芝居のチケットは奇跡的に何故か確保することができました。
「日本の歴史」もチケットを取れませんでしたし、三谷さんのお芝居を観たのはとてもとても久しぶりな気がいたします。
笑って楽しめる(もちろんちょっとしんみりさせる)いいお芝居でした。
佐藤二朗さんが劇団を主宰されていたことは存じておりましたが、舞台で拝見したのは初めてかも・・・。じてキン時代に拝見しているかも知れませんが、覚えていません・・・。「クイズ100人の壁」の司会者のイメージが強い私です(笑)。
綺麗にはまっていました。
あと、迫田さんの贅沢すぎる使い方が素晴らしかったです(笑)。
映画はいかがでしたか?
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2019.09.21 15:39
姫林檎さま
私この舞台、どうやってもチケットが取れなかったんです。
姫林檎さんは観れたんですね、いいなああ。
佐藤二朗は福田組の印象が強いですが、三谷さんにもはまってましたか?
広瀬アリスは初舞台でしょうか。
確かに、ちょっとした表情なんか、妹と似てますよね。
たまに、あ、似てる、と思います。
観れなくて悔しいので、今夜はせめて、「記憶にございません」を観に行ってきます。
投稿: みずえ | 2019.09.17 12:07