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2019.10.14

「治天ノ君」を見る

劇団チョコレートケーキ「治天ノ君」
作 古川健
演出 日澤雄介
出演 西尾友樹/浅井伸治/岡本篤/青木柳葉魚
    菊池豪/佐瀬弘幸/谷仲恵輔/吉田テツタ
    松本紀保
観劇日 2019年10月13日(日曜日)午後3時開演
劇場 東京芸術劇場 シアターイースト
上演時間 2時間20分
料金 4300円

 実は12日のチケットを取っていたところ、台風接近に伴い公演中止となった。13日は14時公演が15時に開演時間を遅らせ、かつ19時公演を追加上演というお知らせがあり、15時公演をネット予約した。

 劇団チョコレートケーキは通常は物販を行っていないそうだけれど、今回は、作の古川氏の著作のみ販売されていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 劇団チョコレートケーキの公式Webサイトはこちら。

 私は劇団チョコレートケーキのお芝居自体初見だ。この「治天の君」は2回目の再演であり、劇団の代表作と言えるらしい。
 「治天の君」は大正天皇を指している、と思う。
 この物語は、実在の人物しか登場しないフィクション、という。むべなるかなという感じだ。

 物語は、大正天皇が崩御した半年後、皇后であった節子(さだこと読む)と、大正天皇の侍従武官であった四釜とが、大正天皇の思い出を語るという形を取っている。
 最後のカーテンコールで気がついたけれど、このお芝居は、皇后を演じた松本紀保以外の出演者が全員男性である。何やら象徴的だ。
 客席通路に続く赤い絨毯の道が作られ、その奥に菊の紋を飾った玉座(割と普通のイスである)がある。そのイスには天蓋があり、イスの奥のカーテンからも役者さんが出入りする。

 見ていて思ったのは、このお芝居の枠組みは大河ドラマ「篤姫」と似ているなぁということだ。
 現時点であまり評価されていない「トップ」(篤姫だと第13代将軍家定だ)が、実はそこそこ優秀かつ有能な人物であり、しかし、あまり丈夫でなく体調が優れなかったためにその能力を発揮することが難しかった、その「トップ」の資質を知り支えた有能な妻の存在があった、という基本ラインと、妻の視点からその「トップ」の生涯を語るというところが似ている。

 紅一点でもあるし、そうなると松本紀保の存在感が嫌でも増してくる。
 結婚前の15歳の頃から、大正天皇崩御後の多分40代の頃まで、声を駆使してほぼ出ずっぱりで演じている。この「威厳」がこの芝居を支えている柱の一本であることは間違いないと思う。
 もう100年近く(以上か?)前に亡くなっている人の「人柄」など、実際は判りようもないと思う。だからこそ「一つの解釈」が何通りも生まれてくるし、そこに面白みが生まれるのではないかと思う。

 明治天皇との親子関係、皇太子時代に「家庭教師」であり「兄貴分」でもあった有栖川宮威仁親王との関係や、夫婦関係は非常によろしかったという解釈なのでそれはいいとして、自身の息子である昭和天皇裕仁との関係まで、その周りの人間との「関係」によってがんじがらめになてしまうところが切ない。

 実際、威仁親王のことを慕いまた評価されていたにも関わらず、大正天皇を縛ったのがその彼の「運命を全うする」という思想であったというところもさらに切ない。
 最後に大正天皇の自立を促すために会えて突き放したことで、大正天皇が見る幻影の一つが威仁親王の姿で現れるし、体調が酷く悪くなっても玉座にあり続けるという選択肢を選ばせたように見える。

 大隈重信は、大正天皇の「天皇とは何か」という質問に「(我々が作った)神棚だ」と答え、神棚を作った一人である大久保利通の息子である牧野伸顕は明治天皇も「神棚」であったということを踏まえずに昭和天皇を「明治天皇の再来」として祭り上げるために「泥を被る」と決心する。
 これまた、100年近くたった今の時点からみると、その思い詰め方は止めてくれ、間違ってるぞ、もう少し広く周りを見ろ、と言いたくなる感じがある。
 全くそんな効果音は使われていなかったけれど、昭和天皇と牧野伸顕が昭和天皇の摂政就任や、明治天皇即位60周年の記念行事の相談をしているとき、背後に聞こえていたのは軍靴の音だった筈だ。

 皇太后となった節子皇后は、四釜氏の心配と進言もあり、昭和天皇に「あなたは先帝陛下をもう一度殺すのですか」と問い、「投げ出したくなる」と言う息子に「それだけは許しません」と厳格に告げる。
 そして、「優しい子だ」と評する。
 優しいかも知れない。でも、その優しさを含めて確信犯だった、という解釈のように見える。

 舞台上に作られた大正天皇の天真爛漫さとその日々の過酷さに、何だか知らないけれどひたすら涙してしまった。
 これも判官贔屓と言うのかしらと思う。
 そして、判官贔屓過ぎるのも問題だよねと己を戒める。
 でも、とにかくいいお芝居だった。

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コメント

 アンソニー様、コメントありがとうございます。
 お返事が遅くなりまして、また、一気にお返事できなくてすみませんでした。

 「治天の君」、良かったですよね。
 明治と昭和に挟まれた短い大正時代も、明治天皇と昭和天皇に挟まれた大正天皇も、不思議な存在だし、こういう言い方がいいかどうか分かりませんが損をしたなぁという気がします。
 だからこそ物語にも舞台にもなるということでしょうか。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2019.12.11 23:32

またまたこんにちは笑

劇団チョコレートケーキは3作品目。
最初は劇団名と作品のシリアス差の
ギャップに驚きました。

これ、良かったですよね。
私も気づいたら涙が出てました。

投稿: アンソニー | 2019.12.09 10:53

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