「渦が森団地の眠れない子たち」を見る
「渦が森団地の眠れない子たち」
作・演出 蓬莱竜太
出演 藤原竜也/鈴木亮平/奥貫薫/木場勝己
岩瀬亮/蒲野紳之助/辰巳智秋/林大貴
宮崎敏行/青山美郷/伊東沙保/太田緑ロランス
田原靖子/傳田うに
観劇日 2019年10月19日(土曜日)午後0時30分開演
劇場 新国立劇場中劇場
上演時間 2時間40分(15分の休憩あり)
料金 10800円
チケットを購入したときも思ったらしい「子供たち」じゃなくて「子たち」なんだなということを、また思った。
ロビーでは意外とグッズ販売が盛り上がっていた。
ネタバレありの感想は以下に。
藤原竜也と鈴木亮平が小学生を演じる! という前評判というか触れ込みで、確かに二人も小学生を演じていたけれど、登場人物が10人ちょっといるうち、大人の登場人物は3人しかいない。しかも、そのうち一人は奥貫薫の一人二役で、藤原竜也演じる鉄志と鈴木亮平演じる圭一郎のそれぞれの母親が双子の姉妹という設定である。
つまりは、この二人は従兄弟同士の小学生を演じている。
でも、登場する役者さんのほとんどは「小学生を演じている」ので、それほど二人の小学生が目立つ訳ではない。
小学生を全員子供が演じていて、そこに二人が混ざる形だったらどんな風に見えたかなぁと思う。多分、違和感がありすぎて、そちらに気を取られてしまっただろうから、やはりそれはやらなくて正解である。今の状態だって、最初のうちは違和感で笑いが起きていたくらいなのだ。
この二人が団地でガキ大将の座を巡り覇権争いを行う、というのが「触れ込み」ですり込まれたストーリーだった。
でも、見た後の感想というか印象では、この舞台はそういう舞台ではない。
むしろ、奥貫薫演じる双子の姉妹と、木場勝己演じる元ミュージカル俳優で今は一人暮らしをしている年配の男性(アベちゃんと呼ばれていた)と、その3人の物語のようにも見える。
姉妹は、特に鉄志の母である姉が、妹に相当のコンプレックスを持っている。コンプレックスを持っているというよりは「あいつが私のものを全部奪っていった」くらいの勢いである。
圭一郎の母である妹が、それならば心優しいシンデレラかというとそういう感じでもなく、「自分が正しいことを盾にした冷たい人」のようにも見える。
アベちゃんは、行方不明になっていた子供を発見したことから一躍団地のヒーローになり、自治会長にも推薦されて引き受ける。
何故か「子供達に接するときの心得」みたいなものを唱えながら、自宅に子供達がやってきても拒むことはせず、遊んでいるところに出かけて行って「正論」を語ったりしている。
そして、大人達や団地や子供達の関係の背景には「地震」が黒く横たわっていて、そもそも圭一郎一家が団地に引っ越してきたのは、その「地震」が原因である。
圭一郎がすぐお腹を壊すようになったのも、死体安置所となっていた学校の体育館に忍び込んでからのことだ。
アベちゃんが自治会長として期待されていたのは、地震によるひび割れ等が起きている団地で「建て替えるべきか」「修繕に留めるべきか」の論争の決着を付けることらしいが、そうそう上手く行く筈もない。
鉄志の父親が現れない理由は最後に明らかにされるけれど、圭一郎の父親の存在は徹頭徹尾、無視されている。アベちゃんは奥さんを亡くしている。
鉄志に「ダイアナ」と呼ばれているモデルをやってる女子の両親がイタリアに仕事に行っちゃっているという話が出るくらいで、大人達の姿は完全に排除されている。それは、「子供達に頼りにされていない」ということでもある、のだと思う。
そんな「不在の大人」が醸し出す圧迫感は、多分、そのまま子供達が感じている圧迫感で、そんな中で鉄志が「金」にモノを言わせて子供達に君臨し、圭一郎は「血縁の誓い」に縛られて、不本意ながら鉄志に振り回され従っている。
しかし、母親同士の関係がそのまま投影されているようで、鉄志がいじめっ子、圭一郎が心優しいいじめられっ子、という構図ではない。
見ているときにはモヤモヤしたのは、この圭一郎が小ずるい奴で、自分への同情が集まっているとみるや、嵩にかかって自分は善人で弱くて一方的にいじめられっ子だと主張しているからだと思う。
全きの善人などいるはずもなく、考えてみればそれが子供の世界であっても当たり前で、でもモヤモヤしてしまうのは、こちらにステレオタイプな発想しかないからだろうと思う。
むしろ、「全きの善人」の役割を担わされたのは、圭一郎の血の繋がらない妹かも知れない。不穏当な表現をしてしまうと、彼女はかなり損な役回りになってしまったと思う。
鉄志の両親が保険金詐欺を働いていたことが発覚し、鉄志は団地を出て行くことになる。
ここで、圭一郎が動物を殺していたことが鉄志によって暴かれ、「悪の圭一郎と善の鉄志」に主客が入れ替わったように見える。
始めのシーンで圭一郎が大人の服装・鉄志が子供の格好をしていて、最後のシーンでは圭一郎が子供の格好、鉄志が警官の格好をしていたように、「反転」みたいなことを意識しているのかなとも思う。
何というか、見ながらずっとモヤモヤしていた。
このモヤモヤがどこかに繋がるモヤモヤだといいと思う。自分でも何だかよく分からないけれど、何故だかそう思った。
| 固定リンク
「*芝居」カテゴリの記事
- 「無駄な抵抗」を見る(2023.11.26)
- 「ねじまき鳥クロニクル」を見る(2023.11.19)
- 「ガラスの動物園」「消えなさいローラ」を見る(2023.11.12)
- 「パートタイマー秋子」のチケットを予約する(2023.10.29)
「*感想」カテゴリの記事
- 「無駄な抵抗」を見る(2023.11.26)
- 「ねじまき鳥クロニクル」を見る(2023.11.19)
- 「ガラスの動物園」「消えなさいローラ」を見る(2023.11.12)
- 「終わりよければすべてよし」を見る(2023.10.28)
- 「尺には尺を」を見る(2023.10.22)
コメント
みずえ様、コメントありがとうございます。
みずえさんもご覧になったのですね。
そして「子供の事情」もご覧になったとは羨ましい。私はチケットを取ることができなかったので・・・。
藤原さんも鈴木さんも、ポスターの方が小学生っぽかったかも、と思いました(笑)。
格好は同じなのに何故でしょう・・・。
ラストシーン近くの鉄志がやけにいい奴だったのでうっかり騙されそうになりましたが、詰まるところ、鉄志も圭一郎も「普通にずるい子供」だったのかなぁとも思います。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2019.10.22 10:22
姫林檎さま
私も観ました。
ほとんど全員小学生(中学生もいるにはいましたが)という設定が、三谷幸喜の「子供の事情」を思い出させましたが、あちらは舞台が教室のワンシチュエーションだったのに、こちらはほぼ団地の広場で、学校はベースとは言えませんでしたね。
藤原くんは童顔のせいか、小学生役でもあまり違和感なかったです。
大きくて初めはスーツっぽい服だった亮平くんは、慣れるまで時間がかかってしまいましたが……。
前半はわりと、藤原くんの悪い面ばかり強調されているように思わされましたが、だんだん亮平くんの狡い面も目立ってくるし、その他大勢っぽい他の子たちの駆け引きや計算も伝わってきて、その辺はリアルでした。
ラストで猫殺しが実は亮平くんだったことが明かされた時は驚きましたよ、藤原くんだと思わせるように誘導してましたよね?
そして震災の後遺症も絶妙なニュアンスで交えてあり、見応えのある舞台でした。
投稿: みずえ | 2019.10.21 09:30