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2019.11.04

「終わりのない 」を見る

「終わりのない 」
原作 ホメロス「オデュッセイア」
脚本・演出 前川知大
出演 山田裕貴/安井順平/浜田信也/盛隆二
    森下創/大窪人衛/奈緒/清水葉月
    村岡希美/仲村トオル
観劇日 2019年11月3日(土曜日)午後2時開演
劇場 世田谷パブリックシアター
上演時間 2時間
料金 7500円 

 ロビーではパンフレット等が販売されていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 世田谷パブリックシアターの公式Webサイト内、「終わりのない 」のページはこちら。

 オデュッセイアって何だっけ? とウィキペディアを覗いてみたけれど、結局よく判らなかった。英雄オデュッセイアが故郷に帰ろうとする話、というまとめでいいんだろうか? そして、この作品でも山田裕貴演じる主人公の悠理が「自分が元いた世界」に戻ろうとしているけれど、共通点はここでいいんだろうか?
 見終わってから考え始めて、結局よく判っていないところが間抜けである。

 SFっぽいといえばSFっぽいお話になっていて、「神様」や「量子論」なんていう言葉も頻発する。
 詰まるところいわば「青い鳥」で、ぐるっと大回りをしてきてやっと「人類を救えるのは人類だけだ」「自分を救えるのは自分だけだ」ということに悠理が気づく物語ということになるかも知れない。
 しかし、「人類」と「自分」とは激しく大きさの違うものを並べたものである。
 でも、この二つを並べたところが多分「ミソ」だ。

 高校3年生の悠理は両親と幼なじみ二人と湖にキャンプに来ている。
 彼は中学校3年生のときに付き合っていた奈緒演じる杏という女の子を妊娠させ、流産してしまった彼女に「ラッキーだった」と声をかけて彼女の信頼を失い、自分自身に対する信頼も失って、引きこもりのようになっている。

 仲村トオル演じる「冒険家」(?)の父親と、村岡希美演じる量子論を研究している物理学者の母親は、そんな悠理を見守りつつ、このキャンプには、実は二人の離婚を周知する、という目的もあって来ている。
 父親は地球環境を守るために政治家になると宣言し、国の量子コンピュータ(だったか?)のプロジェクトリーダーになった母親は「この人のことは尊敬するし、応援している。ただ関わりたくないだけ」ときっぱりと断言する。
 清水葉月と大窪人衛演じる幼なじみも、それぞれ来春には「カナダ留学」と「出家」という進路をそれぞれ決めている。

 多分、自分を落ち着かせようと湖で泳ぎ始めた悠理は溺れてしまう。
 悠理は9歳のときに溺れたことがあり、それまでは彼の人生を「ひらめきの声」が助けてくれていたらしい。
 今回も「命の危機」だったけれどその「ひらめきの声」が現れることはなく、(中学のときに出会った杏がひらめきの声の主だったんじゃないかと思いつつ彼女が助けてくれる筈もなく)、次に目覚めたとき、そこは1000年後の宇宙船だった。

 家族の話かと思っていたら、これである。
 このタイミングというか時間経過が上手いなぁと思う。そろそろ飽きてきたなぁというところでこの転換である。
 しかも、意味が分からない。
 しばらくじーっと見て聞いていると、そこがコールドスリープした人間を乗せた宇宙船の船内で、彼は「ひらめき」を担当する、移住先の惑星を調査するチームのメンバーの「ユーリ」だ(ということになっている)と分かる。

 このチームのメンバーの一人が「杏」と同じ姿だったことには、多分、理由があるのだと思う。
 悠理とユーリの姿が同じことにはどうやら意味があるようだ。
 宇宙船の管理を請け負っているAIのダンも調査チームのメンバーも、クローンにユーリの意識を植え付けた筈が悠理がそこにやってきていることに落胆し、クローンの「処分」を決める。

 そうして「処分」された悠理がやってきたのが、ブラックホールを抜けた先にあるもう一つの世界の、どこかの星の何とかという島だ。
 そこには「地球人だ」という日暮という男がいて、村人たちから悠理を庇ってくれる。
 ここの人々は、意識を共有し、個々人と共有されている意識との区別がないのだと説明される。その状態は「全にして個」だと主張していたAIのダンと同じだ。
 科学で実現させた状態が、ここでは「神話的に」実在している。
 そういう関係がないところには、悠理の意識は飛ばない、ということかも知れない。

 隣の島からやってきた人々に襲われて、悠理の意識は再び飛ぶ。
 そこは夏のキャンプだ。
 ただ、元いた「溺れかけた」続きに来られた訳ではない。そのキャンプには杏とその父親も参加しているし、悠理の父親の担当編集者も参加している。
 しかし、父はやはり「政治家になる」と言っているし、母親はそんな父親に「関わりたくない」と言う。
 「似ているけれどずれている世界」だ。

 それにしても、やっぱり声がいい、声が通るっていいよなぁと思う。
 特に今回は2階席で観劇していたので、余計にそう思った。ハリのある声には説得力がある。
 そして、声の違いは顔や表情の違い以上に、動き方とか歩き方と同じくらいに、キャラクターの違いを浮かび上がらせてくれるように思う。台本に書かれた登場人物を演じるときに、顔はメイクで変えられるけれど、声は窒素でも吸わない限りどんな声を出しても本人の声だ。いや、マイクで変えられるかな? いずれにしても役者本人の素に近いもので、そこに役者さんと登場人物の接点があるような気がする。

 また、2階席から見たので、舞台の床面がよく見えたのも良かった。舞台上に回らない回り舞台みたいな感じで円形の舞台が浮いているようになっている。
 その円形には同心円状に砂が枯山水の庭のように敷かれて箒目が立てられている。多分箒目が立っているように見える模様が描いてある、のだと思う。

 特に宇宙船のシーンでは、その床に様々な照明を当てることで、コンピュータの画面や解析の状況などを表していて、恐らくは八百屋になっていて1階席からもその様子は見えるようになっていたのだと思うけれど、2階から見下ろすことでその様子がより分かりやすかった。
 イキウメの舞台は立体的に作られていることが多い印象で、それに比べるとだいぶシンプルな舞台装置だったので、その照明による変化の付け方が見やすい席で良かったと思う。

 悠理は母親に自分の今の状況を「量子論的に」説明してくれるように頼む。
 そして、自分の意思で「隣の世界」や「違う世界」に行く方法はない、理論的にも否定されている、と聞いて呆然とする。
 でも(何故かここがすっぽり記憶から消えているけれど)、悠理の意識は再び飛び、1000年後の宇宙船を再訪することになる。どうやらここは前に来た世界の「続き」のようだ。

 続きではあるものの、全く同じ訳ではない。
 ダンが何故か悠理に興味を持ち、彼に味方し、「ここには戻ってこないようにします」と宣言して悠理に精神安定剤を渡す。悠理の意識がなくなるとどこかに飛んで行く、ということがすでに了解されているようだ。
 一体どうやって対応するんだと思っていたら、ダンは調査チームの面々(この3人は考えてみたら、キャンプに「新たに参加した3人」と同じ役者さんが演じている)に、「もうクローンは残り1体しかない。もう止めましょう」と提案する。

 そうして宇宙船の中で意識を失った悠理は、元の世界に戻ってきた。
 何故だか、少し前向きになっている。
 父親に「日本を守るためにがんばってくれ」と言い、母親に「絶対に上手く行くからがんばってくれ」と言う。両親のやることが、これまで訪れた世界を「作り出さない」ための一歩だと理解した、ということだと思う。
 そして、自分も何とかすると「言う」。自分を救えるのは自分だけだと「言う」。

 いや、言っただけなんだけど、多分、言うだけのことが大きな一歩なんだと思う。
 そうして一人で悠理が「立った」ところで幕である。

 まだまだ咀嚼できないでいるけれど、面白かった。

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コメント

 アンソニー様、コメントありがとうございます。

 村岡さんファンがここにもいらして嬉しいです。ファンクラブが結成できちゃいそうですね(笑)。

 浜田さんは、「散歩する侵略者」でも宇宙人を演じていましたし、SFっぽい設定の人間じゃない役がハマりますよね。
 何かを超越した感じがにじみ出て、醸し出されているように思います。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2019.12.10 23:09

一気にコメントすいませんw

村岡さんの声はほんとに素敵でしたね!
それと浜田さんのAI感、出てきただけで
急にSFぽくなる存在感が印象的でした。

投稿: アンソニー | 2019.12.09 10:49

 みずえ様、コメントありがとうございます。

 私、実は見るまで原作があって、それがオデュッセイアだということを全く意識しておりませんでした(笑)。

 ホメロスのオデュッセイアがどんなお話なのか、Wikipediaを眺めてもよく分からなかったのですが、多分、かなり翻案されていると思います。オデュッセイアを読んでいたとして、それが原作だと気がつかなかったくらいかも。
 (すみません、教養に欠ける私にはそう思えた、ということでございます。)

 村岡さんの声もいいですよね。劇団のときよりも外部出演のときのしゃべり方の方が私は好きです。

 「Q」は私も見に行きます! 楽しみ。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2019.11.06 21:49

姫林檎さま

私もイキウメのファンなので、観るか迷ったのですが、前川さんのオリジナルではないので、やめてしまったんです。
それにしても、山田裕貴くんやら奈緒ちゃんやら、旬の役者さんがいっぱい出てたんですね、それだけで観る価値ありますね。
面白かったのなら、何よりでした。
声が通るといえば、私は村岡さんの声が好きです。
滑舌もいいし、それこそ聞き取りやすいですよね、舞台向き。
前川さんは、よく彼女を使いますね。

次回のイキウメは観たいと思っております。

とりあえず、来週は野田さんの「Q」を観に行きます。

投稿: みずえ | 2019.11.06 14:20

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