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2019.11.17

「Q:A Night At The Kabuki」を見る

野田地図「Q:A Night At The Kabuki」
作・演出 野田秀樹
音楽 Queen
出演 松たか子/上川隆也/広瀬すず/志尊淳
    橋本さとし/小松和重/伊勢佳世/羽野晶紀
    野田秀樹/竹中直人 外
観劇日 2019年11月16日(土曜日)午後2時開演
劇場 東京芸術劇場プレイハウス
上演時間 3時間(15分の休憩あり)
料金 12000円 

 ロビーでは、パンフレットやトートバッグが販売されていた。
 また、舞台セットの模型があって、写真撮影コーナーになっていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 「「Q:A Night At The Kabuki」の公式Webサイトはこちら。

 毎度のことながら、よく分からなかった。
 多分、QUEENを1回も聴いたことがない(街で流れていて耳に入ったことはあるかも知れないけれど、「これはQUEENだ」と意識して聴いたことは1回もない)というのが致命的だったと思う。
 この芝居を見る前に「オペラ座の夜」という、この芝居のモチーフとなり、芝居の中でも使われている曲が収められたレコード(CD)を聴いて、ついでに歌詞の意味なんかも分かっていると、だいぶ印象が異なるのだろうと思う。

 メインの登場人物はロミオが二人とジュリエットが二人である。
 休憩前までは、広瀬すずと志尊淳が「死んでしまうまでの」ロミオとジュリエットを演じる。その二人に、松たか子と上川隆也が「別々に生き延びてしまった」ロミオとジュリエットとして「私たちが本編」と言い張り、自らの運命を変えようとちょっかいを出しまくる。
 ちょっかいを出しまくったところで「運命」を買えることはできず、ロミオとジュリエットの二人は「敵対する両家の犠牲となり、かつ両家を若いさせた」英雄として銅像まで作られながら、実はそれぞれが生き返って命長らえる。

 この「敵対する両家」が源氏と平家に置き換えられている。正直に書けば、見ているときは「置き換わっている」ではなく「すり替えられている」という印象だった。何故だろう。
 とにかく源氏と平家は壁を挟んで敵対しており、源氏は禁欲的に、平家は自由に、を是として暮らしている。
 源氏方のジュリエットは源頼朝の妹(でも、物語が始まった時点での源氏方の大将は木曽義仲の設定である)、平家方のロミオは平清盛の息子だ。

 橋本さとしが源氏方の大将を、竹中直人が平家方の大将を演じている。ロミオとジュリエットのそれぞれの母親(母親代わり?)を羽野晶紀が、ジュリエットの乳母を野田秀樹が演じる。
 小松和重は、ロミオのとりまきを一人で全役こなす勢いである。
 伊勢佳世は、多分、巴御前を一貫して演じていて、でもその巴御前が二重スパイを務めていたという設定なのがややこしい。かなり濃く能面のようなメイクをしていて、声がだいぶ枯れていたので、しばらくは伊勢佳世だとは気づかなかった。

 多分、巴御前の役はもの凄く大化けする要素を秘めていると思う。
 源平の開戦に向けた駆け引きにも関わっているし、木曽義仲がロミオに殺された後は復讐に凝り固まって鬼の形相でロミオを敵と狙い続ける。
 何というか、「あと一歩で大化け」という予感をずっと感じさせる役だった。
 彼女を中心にこの芝居を見ると、だいぶ印象が変わるのではないかと思う。

 それでもやはり、「生き延びてしまった」ロミオとジュリエットが気になる。
 若いロミオとジュリエットも清々しく若々しくなかなか凜としていた。
 前半の「ひたすら恋に走る」感じはお手の物、後半の舞台に沈んで生き延びてしまった二人を見守る感じとのギャップも良かった。
 広瀬すずの声がよく通り聞きやすかったのが嬉しい。

 しかし、私は生き延びてしまった二人を演じている上川隆也と松たか子贔屓なのである。
 松たか子の、特に、水差しからお水をコップに注いだり、窓を開けたりするマイムの所作ときたら、美しすぎて浮いていたくらいだ。
 上川隆也の安定感と生真面目に笑かそうとして、その生真面目さが笑いを呼ぶ感じは、何というか舞台の中心に据えられた「重石」である。これさえあれば揺らぐことはないという安心感がある。

 生き残ってしまったロミオは「名前を捨てて」一兵士として戦いに赴く。ジュリエットは尼寺に入り、従軍看護師として戦場に赴く。
 二人が出会ってから「死に別れ」るまでは5日間、野戦病院での再会は僅か400秒ちょっとである。
 死に別れるまでの5日間は、ときどき秒単位でのカウントダウンがされていたけれど、再会の400秒は後から「僅か4**秒だった」と告げられたと思う。
 見ているこちらが知っている情報と知らない情報の差かなと思う。

 このカウントダウンを始め、あちこちに様々な仕掛けが施されていたと思うけれど、今回は見事に何にも気づかずに見てしまったように思う。それは、「ロミオとジュリエット」後の二人が気になったからだ。
 「生き延びて幸福に暮らしました」ではない。
 自分の人生を変えようとしていることは分かる。でも、実は私には、二人が「どういう風に」変えようとしているのかがよく分からなかった。

 ロミオが木曽義仲を殺してしまったのが人生の分岐点だったと思っていることは分かる。
 その「殺人」を止めようとしたのも分かる。
 で、「殺人」を止めて、その後の二人がどういう風に生きて行こうと思っていたのかが分からない。あの殺人さえなければ幸福に暮らせたと思っていたならかなりおめでたいと思う。何しろ二人は「敵対する両家の娘と息子」なのだ。
 そこは最後までもやもやしっ放しだった。

 この舞台は、シベリヤ(風の名前のどこか)に捕虜として連れて行かれたロミオが、「名前を捨てて」戦場に出ていたばかりに御赦免船の名簿に記載されず、ジュリエットへの手紙を託した相手が、30年後にジュリエットに手紙を届けた、というところから始まる。
 この「置き去り」のエピソードは、俊寛を彷彿とさせるし、俊寛といえば中村勘三郎を思い出す。タイトルのkabukiはこんなところに顔を出しているのかなと思う。私が気づかなかっただけで、恐らくはもっとたくさん散りばめられていたことだろう。

 生き延びてしまった二人は運命を「変えられた」。でも、その変えた運命を狂わせたのは「戦争」だ、という一幕の最後(だったような気がする)の台詞は唐突に聞こえた。
 「そうかも知れないけれど、そういう話をしていましたっけ?」と思ったくらいだ。

 逆に、最初のシーンでジュリエットの手元に届いたロミオからの手紙は白紙だったけれど、ぐるりと回って最後にジュリエットの手元にロミオからの手紙が届くシーンに戻り、その中で「名前を捨てろなどと言わないでください」と文面が読み上げられたときには、この舞台の中心はここにあったのか! と思った。
 どう中心なのかは未だによく分からないけれど、多分、この舞台の中心は「名前」にあったのだと思う。

 結局、ロミオは捕虜として(あるいは流刑地で)死に、ジュリエットは尼寺で生き続ける。
 でも、ぐるっと回ったその先では、ロミオが書いた手紙は30年後のジュリエットに届き、ジュリエットは「ロミオは最後まで自分のことを考えてくれていた」と満足する。
 いや、ロミオが手紙を書いたのは30年前だから! その後の30年間もジュリエットのことを考えていたとは限らないから! というツッコミはこの際、してはいけない。

 ロミオとジュリエットは5日間の恋の後に死んでしまったからこそ、物語となり、舞台となり、後世に残った。
 でも、生き延びてしまったロミオとジュリエットが、「死んでしまった方が良かった」訳では絶対にないし、最後に心中するように自分たちの運命を変えようとしていた訳ではない。
 そう思えたから、深読みしなくっていいか、と思った。

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コメント

 アンソニー様、こちらもコメントありがとうございます。

 洋楽をほとんど聴かず(そもそも「洋楽」という言葉自体が死語?)、英語も全く分からないので、もちろん曲と芝居がリンクしていることに気づかず、すでにクイーンの曲を聴いたという記憶すらおぼろになっております・・・。

 しつこいようですが、やはり「ボヘミアン・ラプソディ」を観てから観劇すべきだったかも。
 映画自体の評判もとても良かったようですし。

 2ヵ月にわたって上演されてきた「Q」も明後日が千秋楽ですね。
 きっと随分と盛り上がるんでしょうね。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2019.12.09 23:31

こちらからもこんにちは。
私は10月に行ってきました。
そう思うとあの台詞量をこんなに
長くやる役者さん達すごいです。

あの音量でクイーンが聴けて心地よかったなという記憶が……話とリンクしていたんですね。普通に曲を楽しんで、音を浴びて来たという感想でした。

投稿: アンソニー | 2019.12.09 10:46

 みずえ様、コメントありがとうございます。

 ロミオとジュリエットでしたね〜。
 みずえさんからいただいたコメントを読んで、そういえば「夏の夜の夢」みたいだわと思ったことを思い出しました。
 単純に、男女が二人ずつ二組いたからですが(笑)。

 クィーンの曲と舞台の内容はリンクしていたのですね・・・。
 うーん。ボヘミアン・ラプソディを見てから劇場に行った方が良かったでしょうか。
 私が分かったのは「竹中直人さんがときどき歌のタイトルを叫んでいた」ことだけでした・・・。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2019.11.18 22:24

姫林檎さま

私も観ました。そして、観るまでロミジュリがベースになっていることは知らなかったので、ちょっとびっくりしました。
源平合戦との融合など、野田さんらしい解釈でしたね。
言葉遊びというか、言葉の使い方も彼っぽいし、後半の悲劇に向かって畳み掛けていく展開も、ああ、野田さんだなあと思いながら観ていました。
すずちゃんは、初舞台とは思えないほど堂々としていて、朝ドラで度胸がついたのかしらと微笑ましく観ておりましたよ。
でも私も上川さんと松さんのファンです。
上川さんの落ち着きや、松さんの軽やかな演技に魅せられておりました。
あと、橋本さとしさんも好きなんです、彼色っぽいですよね。
羽野さんも、さすが元新感線のコメディエンヌっぷり。
伊勢さんは、イキウメ時代とは全く違うタイプの役だったので、彼女が出ていると知らなかったら、わからなかったと思います。
クィーンの曲は、かなりストーリーにリンクしているそうですよ、後ろにいた二人連れの女性客がそんな話をしてました。
でも私も、それがわかるほどクィーンに精通しているわけでもなく、英語力もないので、そう言われてもよくわからず……もったいなかったです。
野田さんらしさと、役者陣の奮闘が印象に残った舞台でした。

投稿: みずえ | 2019.11.18 13:37

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