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「相対的浮世絵」
脚本 土田英生
演出 青木豪
出演 山本亮太/伊礼彼方/ 石田明/ 玉置玲央/ 山西惇
観劇日 2019年11月1日(土曜日)午後1時開演
劇場 本多劇場
上演時間 1時間50分
料金 8000円
ロビーではパンフレットが販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
家に帰ってから確認してみたところ、どうやら私はMONOの公演は見ていないけれど、G2が演出した「相対的浮世絵」は見ていたらしい。
10年近く前の公演だったし、私の記憶には全く残っていなかったところが、我ながら情けない。
自分で書いた感想を読んでも全く記憶が蘇ってこなかったくらいだ。もはや天晴れである。
同級生らしい、荒んだ(でも荒みきってはいなくて、ギリギリ「普通の人」を装えるくらいのすさみ具合)の男が二人、墓地の真ん中に設えられた東屋っぽいところで誰かを待っている。
誰かに呼び出されたらしい。
そこに、玉置玲央演じるトオヤマと、山本亮太演じるケンジが現れる。
彼らは、「もう死んでいる」けれど「お化けではない」と主張している。
トオヤマと、伊礼彼方演じるトモオ、石田明演じるセキは、同級生だったらしい。
トモオとケンジは兄弟だ。
トオヤマとケンジは、彼らがこの4人が通っていた高校の部室の火事で亡くなっており、トモオとセキは生き残ったけれど、「二人を見捨てた」ことに罪悪感を抱いている、ようだ。
そんなところに(20年も経っているとはいえ)二人が現れたら「すわ、復讐か」と思って当然だと思うけれど、トオヤマもケンジも何故か朗らかかつ友好的で、「トモオとセキの役に立ちたい」と繰り返している。
まぁ、生き残った二人は「役に立ってもらいたい」以上の状況で、トモオは会社のお金を使い込んでいるし、セキは高校生の教え子と不順異性交遊真っ最中である。
落ち着いて考えれば(落ち着かなくても)二人ともきっぱりと犯罪者である。
それなのに、何故かトモオとセキのやっていることは「何ていうこともない」と扱われているのが非常に謎である。
彼らの「犯罪」よりも、20年も前に死んだトオヤマとケンジがやってきたということの方に重きが置かれている。おかしいだろう! と思うけれど、MONOという空間のなせる業なのかしらとも思う。
MONOの公演を見ていないのに、芝居を見ていて何故か「この役はあの人が演じたんだろうな」ということが判る。
当たっているかどうか答え合わせはしていないから外れているかも知れないけれど、しかし「だろうな」と思う。
MONOは役者さんたちの役割がもの凄く明確で、その役割を守り切ったり外してみたりというところが醍醐味の一つになっていて、だからこそ成立する物語だったり人間関係だったりがあって、それを「劇団でない」役者さんたちが作り上げるのは相当に難しいのだろうなと思った。
同世代の4人のところに、山西惇演じるノムラさんがやってきた辺りから、予定調和が崩れてくる感じがある。
彼は、トオヤマとケンジの「見張り役」でもあって、彼らが「やり過ぎていないか」をとにかく気にしている。でも、ノムラさん自身もやっぱり死んでしまっている人で、妻子に未練があったりする。
そういうキャラではないのに、実は何というか彼ら4人の間に漂っていなくてはおかしい緊張感をどんどん表に出していくような、不安定な場を露わにするような、そういう引き金をうっかり引いてしまう役どころである。
ノムラさんが出てきた辺りから、「見殺しにした二人」と「見殺しにされた二人」という構図がバーンと表に出てくる。
表に出てくるというか、「なかったことにしよう」「気にしないようにしよう」と決めていたその決意があっさりと当然に覆されて行く。
トオヤマとケンジは、「恨んで」しまったら二度とこの世にやってくることができないし、逆にこの世に影響を与えるようなことをしても二度とこの世にやってくることができない。
その二つながらに「やっちまって」いる訳だ。穏やかに終わる筈もない。
それにしても、ずーっと彼らは会話をしている訳で、多分、ラストシーン近くの蝉の声以外にはほとんど音響も入っていなかったと思う。
何度でも書くけれど、声がいいって素晴らしいし、滑舌がいいって素晴らしい。
出演者5人の声が安定しているって何て落ち着くんでしょうと思う。そこにストレスがないと、本当にすんなりと色々なことが入ってくるように思う。
へんてこりんな方言もあっさりと受け入れられてしまう。
最後、「死んじゃった二人が現れてくれることよりも、自分の今の生活を守る」方を選んで、トモオは彼らがどこかから持ってきた600万円を返すことを拒もうとするし、高校の教え子に手を付けていることがバレるという本来起きていた筈のことが起こるようにすると言われてセキは全力で拒否する。
そうやって、いったんはお化けの二人をもう一度裏切ろうとした二人が改心し、去って行こうとしたお化け二人を追いかける。
ラストシーンは、「色々なことがばれてしまった二人」のシーンである。
トモオは600万円の着服がバレて会社を首になり、横領を手伝わせた経理の女の子にももちろん愛想を尽かされ、妻には若い恋人がいて離婚は時間の問題である。
セキは教え子に手を出していたことがバレて、高校教師の職を辞し、トモオが横領した600万円のうち520万円を借金で賄ったようだ。
どうもこの二人には徹頭徹尾「危機感」というか「やってはいけないことをやってしまった」感がないのが気になる。
むしろ前科が付かなかったことに感謝しろと言いたいところなのに、二人は「ここまでやったのに、トオヤマとケンジが去って行くことを決めた」ことの方を気にしている。
友情としては正しいが、人生としては多分正しくない。いや、友情として正しければ人生としても正しいのか?
そういう価値観みたいなものがぐらぐらとしてくるような感じがした。
不思議すぎる。でも、それが劇団というものが作り上げうる「磁場」のようなものかも知れないと思う。
やっぱりよく判らない。
でも、面白かった。
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