「新作歌舞伎 風の谷のナウシカ」を見る
「新作歌舞伎 風の谷のナウシカ」
原作 漫画 宮崎駿
脚本 丹羽圭子/戸部和久
演出 G2
出演 尾上菊之助/中村七之助/尾上松也/中村歌昇
坂東巳之助/尾上右近/中村種之助/中村米吉
中村吉之丞/市村橘太郎/嵐橘三郎/片岡亀蔵
河原崎権十郎/市村萬次郎/中村錦之助/中村又五郎
中村歌六 ほか
観劇日 2019年12月20日(金曜日)午前11時開演/午後4時30分開演
劇場 新橋演舞場
上演時間 3時間35分(35分・20分の休憩あり)
4時間10分(35分・20分・10分の休憩あり)
料金 各17000円
劇場には「一部、演出を変更して上演します」の張り紙があった。
グッズも販売されていて、「風の谷のナウシカ」のグッズはほとんど作られていないと聞いたことがあったような記憶があったので、ちょっと驚いた。
ネタバレありの感想は以下に。
風の谷のナウシカの「映画版」ではなく、「原作漫画版」の完全舞台化である。
私はマンガを持っていて、昔はそれこそ次の台詞が分かるくらいに読み込んでいたけれど、最近は読み返すこともしていなくて、うろ覚えのままで舞台を見に行った。
何となくその方がいいような気がしたからだ。
「映画 風の谷のナウシカ」は、原作漫画の本当に「プロローグ」に近いところを切り取っていて、映画のストーリーが終わった後、もちろん世界は大団円になどならず、ナウシカの旅は続いて行く。
その全7冊の漫画の全てを昼夜通し公演で「完全舞台化」したのだから、話題にならない筈がない。
チケットは即日完売だったらしい。
筋書きを読んだら、原作から「名場面」を抜き出して脚本を作ったと書いてあった。なるほどと思う。
うろ覚えな私からすると、かなり原作に忠実に舞台化しているという印象を受けた。
上演時間は、幕間を除くと、6時間弱である。
紅白の連獅子が出てきたり、日舞が入ったり、ラステルが打ち掛け姿だったり、歌舞伎の要素がかなり入っているから例えば衣装だけを取り上げても「原作そのまま」な訳がないのに、原作に忠実という印象になるのが不思議である。
同時に、これを舞台化するには歌舞伎しかなかったんだろうなぁと思った。
メーヴェが飛ぶシーンを宙乗りしたり、舞台上の装置を動かして(紅白の舞台みたいにと思った)飛ばせてみたり、もの凄く失礼なことを書くと一歩間違うと「陳腐」になる工夫が「外連」に寄るという気がする。
ナウシカの心情を日舞で表現するのも、これまた一歩間違うと「冗長」になるところを、必要欠くべからざる表現として昇華させている。
「歌舞伎」という下敷きがあるからこそと思う。
原作に忠実な印象だったけれど、そこにはやはり作り手の側の「解釈」は入っているように思う。
作り手の「理解」が舞台に現れるというか、1回舞台の作り手の中を通った物語だし当然に「伝えたい」ことがある筈なので、だから良くも悪くも分かりやすくなっている。
原作漫画は本当に難解で、私は全く咀嚼できていない。そこを誰かが1回整理したものを見ているので「なるほど」というところがあった。
例えば、この舞台では「風の谷のナウシカ」という漫画が「母と子」を繰り返しモチーフにしていることを伝えてくる。
「風の谷のナウシカ」のクライマックスシーン集を作ると、そこには「母と子」が何回も登場する。ナウシカ自身が、「母と子(ナウシカ)」の関係で「愛されなかった」という記憶を持ち、巨神兵に「オーマ(無垢)」と名付け母親代わりになり、そのことを代償行為だとヒドラに指摘されて動揺する。
クシャナは血で血を洗う王家の一員で、しかし母親は彼女を守るために毒の杯を呷って今は病んでいる。
そのクシャナが「変わって行く」感じがもうちょっとあからさまでも良かったかなぁとか、ユパは随分と若く造形されているなぁとか、ナウシカの行動原理が全て「王蟲が南に向かっている」だけでいいのかなぁとか、色々と思うところもありつつ、それは漫画を読めばいいじゃん、という気もする。
原作漫画を立体化した「ひとつの形」が間違いなくここにある。
映画化された部分は昼の部の序幕くらいで終わってしまう。
けれども、その後のシーンでも、映画で使われていた音楽が使われていて、またこの舞台のために新たに作られたという曲もあって、上手くバランスが取れていたんじゃないかしらと思う。概ね、ほっとして欲しいシーンで映画の音楽が使われていた印象だ。
音楽はオーケストラの演奏を流すのではなく、編曲して三味線や琴や太鼓などで演奏されていた、と思う。
「新しく作られた」といえば、風の谷のナウシカの世界を描いた幕も、この舞台のために特別に作ったそうだ。
漫画でいうと、風の谷の城の、ジルがいる場所の後ろに飾られたタペストリをそのまま幕にした感じだったのだと思う。その幕と、定式幕と、黒い幕とが使い分けられていた。
幕間にはタペストリの幕が掛かっていて、こちらを写真撮影している方が結構たくさんいらっしゃった。
ここを変えちゃうの? と思ったのはただ1箇所、ラストシーンである。
ナウシカが「生きねば」と高らかに言って幕が下りる。
バックが黄色というか朝日が昇る金色で、メッセージとしてとても前向きな終わり方だと思う。
世界が黄昏に向かっていても、自分たちが浄化された世界から拒否される存在であったとしても、それでも自分の人生には生きる価値がある。人々の暮らしには価値がある。だから意地汚くとも生きて行こう、というメッセージだったと思う。
これまたおぼろな記憶だけれど、原作漫画のナウシカは、そこまでの確信をラストシーンで持っていなかったように思う。
シュワの墓所が崩れて死に、でもそのときに吹き上がった液体が王蟲の体液と同じで、ということは・・・、とナウシカが「何か」に気づき、しかしその気づいたことは誰にも言わずに抱え込み、その上で「生きねば」と人々に伝えた、という印象がある。(違っていたら申し訳ない。これから読み直すので。)
何というか、かなり苦しい「生きねば」だったと思う。
ので、そこを変えちゃう? というのはちょっと釈然としなかった。
そもそも「生きねば」の「〜ねばならない」というのは、「(〜したくないけど)〜しなければならない」というニュアンスがあると思う。
そこを歌舞伎の舞台で正直にメッセージにすることはできなかったのかなぁ、そこはギリギリのラインで前向きな終わり方に行ったのかなぁと思った。
でも、やっぱり凄かった。
歌舞伎だったからこその「完全舞台化」だったと思う。
見られて良かったし、2019年の観劇の締めくくりがこの舞台で良かった。
| 固定リンク
「*感想」カテゴリの記事
- 「こんばんは、父さん」を見る(2024.12.08)
- 「太鼓たたいて笛ふいて」 を見る(2024.11.24)
- 「つきかげ」を見る(2024.11.10)
- 「片付けたい女たち」を見る(2024.10.20)
「*伝統芸能」カテゴリの記事
- 「風の谷のナウシカ」を見る(2022.07.10)
- 「風の谷のナウシカ」のチケットを購入する(2022.07.02)
- 「新作歌舞伎 風の谷のナウシカ」を見る(2019.12.21)
- 「新作歌舞伎 風の谷のナウシカ」のチケットを予約する(2019.10.15)
- 「NARUTO-ナルト-」を見る(2018.08.12)
コメント