「あれよとサニーは死んだのさ」を見る
月影番外地その6「あれよとサニーは死んだのさ」
作 ノゾエ征爾
演出 木野花
出演 高田聖子/池谷のぶえ/川上友里
大鶴佐助/竹井亮介/入江雅人
観劇日 2019年12月7日(土曜日)午後1時開演
劇場 ザ・スズナリ
上演時間 1時間45分
料金 5500円
久々の月影番外地だった、と思う。
ネタバレありの感想は以下に。
高田聖子主演、木野花演出という組み合わせは、月影番外地の「定番」という感じがする。
一方、ノゾエ征爾が書いたお芝居を私は観たことがない・・・、と思っていたら、「あの大鴉、さえも」というお芝居を観ていた。我ながら、相変わらずの記憶力である。
しかし、見ているときは「初めて見るわ」と思っていたのだから、やっぱり「初めて」でいいような気もする。
「はえぎわ」の舞台を拝見したこともないので、どんなお芝居なんだろうという風に思っていた。
見始めて、うーん、不条理? なの??? と思った。
オープニングは、ちょっと変わった感じの女性と、普通にテキパキしている感じの女性と、二人の女性が少し遠くにいる(らしい)亀をじーっと眺めている(らしい)シーンである。
実は女性二人がいる場所は大型スーパーかどこかの駐車場で、女性が二人、車を運転して来てくれた誰かを待っている。
その車は、実は、駐車したときに若い男の人の足を轢いてしまい、今もタイヤがその男の人の足の上に乗っかったままである。
多分この「実は」というのは正しくなくて、「実は」が繰り返され、全くもってどの「実は」が本当に「実は」なのか、あっという間に分からなくなってくる。
そういう世界にポンと放り込まれるような感じだ。
最初のうちは、この「実は」が頻繁に短い時間で繰り返される。
その「実は」のたびに暗転があって、近頃、こんなに暗転が多い芝居って久しぶりだよと思ったりした。最近のお芝居は暗転が1回もないということも珍しくない、ように思う。
そうなってくると、逆に「暗転を繰り返す」ということが何らかの意味を持つようになってくる。
暗転の持つ意味が変わって行くのかも知れないし、もう変わっているのかも知れない。
高田聖子演じる猿子は元小学校の教師だったらしく、元教え子と遭遇したのをきっかけに、猿子の教師時代が演じられ始め、それは池谷のぶえ演じるメルコ(マルコだったときもあった)が書いた小説なのか、彼女が「コンティニュー」と言うと続きが見られる何かなのか、どんどん渾沌としてくる。
少なくとも猿子が思い出したくない「過去」のようで、彼女はその「自分が若い頃を目の前で見せられている」状況を非常に嫌がり、混乱しているように見える。
一方、マルコ(メルコだったかも知れない)は、そうやって混乱していく猿子を見て喜んでいるようにも見える。
見ている猿子やマルコの側と、見られている若い頃の猿子たちの側と、その登場人物達がしゃべり始めたりもする。
「日常」だと思っているものは簡単に崩れるし壊れる。
「日常」という枠組みが歪んで行くのはあっという間である。
メルコ(マルコかも知れない)の悪意は、猿子の生活をあっという間に脅かす。
スーパーに買い物に来た女性二人という普通の設定で始まった筈が、あっという間に世界はゆがみ、猿子の思い出したくもない過去が語られるようになり、猿子の平穏さはあっという間に壊される。
その、あっという間に壊れる日常の象徴が「サニー」らしい。
別に怪しい登場人物の名前ではなく、サニーは日産が2004年まで販売していた乗用車である。敢えて言うなら「大衆車」と呼ばれる車で、「幸せな平凡な家族が乗る車」というイメージでそれほど外れてはいないと思う。
多分、最初に登場したときから車は「サニー」だったと思うけれど、「サニー」であることが語られたのは、猿子の父親が買った車がサニーだった、というところ辺りからだったと思う。
つまりは、物語がぐにゃっとなってから、ということになる。
猿子の過去が語られ、それを猿子に突きつけたメルコ(マルコだったかも知れない)の猿子に対する悪意というか底意のようなものでまとめられるのかと思ったところで、いきなり、そこにあった車がワゴン車になり、足をずっと車に轢かれていた男は老人ホームのスタッフで老人達をスーパーマーケットに連れて来たというような設定に変わり、そこで繰り広げられていた情景は全て妄想だった、ということになったようだ。
そして、猿子が運転するワゴン車が去って行って幕である。
ぐにゃっとなる感覚を存分に味わえるお芝居だった。
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