「鎌塚氏、舞い散る」を見る
M&O plays プロデュース「鎌塚氏、舞い散る」
作・演出:倉持裕
出演 三宅弘城/ともさかりえ/片桐 仁/小柳 友
広岡由里子/玉置孝匡/岡本あずさ/大空ゆうひ
観劇日 2019年11月30日(土曜日)午後2時開演
劇場 本多劇場
上演時間 2時間10分
料金 7000円
ロビーではパンフレットやTシャツ等が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
「鎌塚氏、舞い散る」と題された今回の上演では、鎌塚氏は「舞い散る」というより、端的に言って振られていた。
振られたというよりは、振らせるようなことをしてしまったというべきなのか。
いずれにしても、鎌塚氏のシリーズには珍しく、ラストシーンで鎌塚氏は主人の呼ぶ声に応えず、「もう少々お待ちください」と涙を流すという終わり方をしていた。
まさか、鎌塚氏のシリーズを見て「切ない」という感想が浮かぶとは思っていなかった。
三宅弘城演じる鎌塚氏が仕える伯爵家では、伯爵が亡くなり、大空ゆうひ演じる伯爵夫人が冬の別荘に来て、毎晩のようにパーティを開催している。
お屋敷よりも勝手の悪い別荘でのパーティ、岡本あずさ演じる働かない女中(舞台上では責められていたけれど、彼女が言っていることは労働者として当然の主張だと思う)に業を煮やし、ともさかりえ演じる上見ケシキを助っ人に呼ぶ。
このケシキが再会した直後に「婚約しました」と告白したのに、鎌塚氏はそれを聞き逃し、働かない女中の円子が実は鎌塚氏に惚れていたという辺りから、会話がどんどんおかしくなって行く。
この辺りの会話の「一見成立しているけど、実は激しくすれ違っている」感じは、ちょっとばかりラーメンズを思い出させた。片桐仁も出演しているし。
その片桐仁演じる堂田男爵と、広岡由里子演じる男爵夫人も登場し、もちろん色々と悪事や奸計を考えている。
小柳友演じる、堂田男爵夫妻に仕える執事の佐双がケシキの婚約者でもあったことから、話はどんどん錯綜していく。
玉置孝匡演じる、堂田男爵家をクビになった宇佐スミキチも、堂田男爵への復讐を狙って出没している。「堂田男爵の悪巧み」という点でも、ややこしいことになっている。
そもそも、伯爵夫人自体が政略結婚で、実はこの別荘から見えるところに別荘を構える公爵(この字で合っているかどうかは不明)と恋仲だった過去があり、独り身になった今は、彼が迎えに来てくれると信じている、らしい。
全くもって今回は、あっちでもこっちでも恋する人(しかも、両思いになっていない率が高いし、婚約している二人すらすれ違いまくっている)ばかりである。
いつでもどこでも仲良く悪巧みに特化している堂田男爵夫妻の何と素晴らしいことか。
ケシキとアカシは常にすれ違いつつ、でもお互いに結婚を意識していることまで丸分かりなのに、どうにも先に話が進まない。
改めて、ケシキが自分が婚約したことを伝えても、アカシはやっぱり「引いた」感じのままである。
そういえば、それなのに何故、この二人のキスシーンが2回もあったんだろう。割と自然に描かれたのに、その先が全くないキスシーンだった。やっぱり切ない。
崖から落ちそうなケシキ、今にも迫っている雪崩、雪の上に倒れる伯爵夫人という状況で、佐双は仕える堂田男爵夫妻を見捨ててケシキを助けに行き、堂田男爵夫妻をスミキチが助け、アカシは伯爵夫人を助けに行く。
それぞれ皆「助かった」のは良しとしても、伯爵夫人は元彼のところに行き付けずに鐘の音の数で自分が振られたことを知り、佐双とケシキは抱きしめ合い、アカシは「完璧なる執事」として振る舞う。
この「完璧なる執事」とか、ケシキの「優秀な女中」という称号は、二人のお辞儀の優雅さに象徴されている気がする。
カーテンコールのときのお辞儀は全く違っていて、劇中でのお辞儀は完全に「役としてのお辞儀」なのが凄いと思う。何というか、背中に定規が入っていそうな、恭しさ漂うお辞儀なのだ。
「完璧なる執事」は、結局のところ、鎌塚アカシにとって、ある意味で足かせでしかなかった、ということのようだ。
佐双は堂田男爵家をクビになり、スミキチが夫妻の命を助けたことが評価されて再び堂田男爵家に雇われることになり、ケシキも臨時雇いが終了して別荘を去る。
伯爵夫人の心遣いにも関わらず、結局、ケシキは「さようなら」と去り、アカシもそれに「さようなら」としか返さない。
そして、アカシは一人、主人が呼ぶ声を聞きながらそれに応えることをせずに涙を流す。
うーん、完結編ということかしらと思う。
堂田男爵が探していた「自分が車の中で秘書に暴言を吐いた録音テープ」も、その中を聞くと、暴言だし怒鳴っているし酷い言い方でありつつ秘書を褒めて気遣っているんだろうなぁという内容である。「これまで築き上げてきたキャラが崩壊する」という理由で、公開されることを恐れていたらしい。
劇中でアカシがケシキの示す書籍を読めずに顔を遠ざけようとするシーンがあって、ケシキに「老眼なの!」と叫ばれていたけれど、この二人の年齢設定はいくつくらいだったんだろう。
その設定された年齢を考えても、堂田男爵の「本性」が明かされたことからも、完結編っぽい雰囲気が漂うものの、ぜひ、そんなことは知らんぷりをして続編が上演されるといいなぁと思っている。
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コメント
みずえ様、コメントありがとうございます。
お返事が遅くなってしまってすみません。
すっかりお返事したつもりになっておりました・・・。
堂田男爵夫妻は「鎌塚氏」シリーズの全作品に登場しているような強烈な印象がありますが、前作には登場していなかったんですね。
すっかり「またまたお会いしましたね」という気分になっていました。
今回も歌っていましたね〜。
三宅さんが歌うのは初めてだったような気がしていましたが、私の「気がする」はあてにならないので・・・。どうでしたっけ?
鎌塚氏とケシキさんのデュエットになるかと思ったら、大空さんが歌い出したので、「そうか! 諦めた二人のデュエットなのね!」と納得しました。
鎌塚氏のシリーズが続くとお聞きして安堵しました。
次の展開が楽しみですね。
堂田男爵夫妻の完全レギュラーメンバー入りを希望します!
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2019.12.10 23:16
姫林檎さま
私は昨夜観ました。
このシリーズはvol.3から観ており、私にとっては三作目です。
役者もセットも音楽も全部大好きですが、特に片桐仁と広岡由里子夫婦がツボなので、今回お二人が出ていて嬉しかったです、前作は出てなかったので。
そして、何故か誰かが突然歌い出すのも好きです(笑)
ともさかりえとのキスシーンに関しては、ともさかりえが、三宅さんが前回主演した、クドカンの「ロミオとジュリエット」で、ジュリエット役の葵ちゃんと何度もキスしてたので、私もしたいと倉持さんに談判したと言ってましたが、そのせいでしょうか?
哀しいすれ違いの結末でしたが、まだこのシリーズは続くようなので、次回ではケシキとヨウセイは離婚しているかも?
それも含めて、今後も楽しみです。
投稿: みずえ | 2019.12.05 14:19