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「メアリ・スチュアート」
作 フリードリヒ・シラー
上演台本 スティーブン・スペンダー
翻訳 安西徹雄
演出 森新太郎
出演 長谷川京子/シルビア・グラブ/三浦涼介/吉田栄作
山本亨/青山達三/青山伊津美/黒田大輔/星智也
池下重大/冨永竜/玲央バルトナー/鈴木崇乃
金松彩夏/鷲尾真知子/山崎一/藤木孝
観劇日 2020年2月1日(土曜日)午後1時開演
劇場 世田谷パブリックシアター
上演時間 3時間15分(15分の休憩あり)
料金 8000円
ロビーでは、パンフレット等が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
舞台の配置を大きく変えていて、床面から下に階段を左右に2箇所で横向きに伸ばし、そこが役者さん達の出入りに使われている。
客席の方に花道っぽく舞台を伸ばし、その先にも地下に降りる階段を作っている。
かなり舞台を広く使い、床面も壁も黒く、セットはほとんど置かれていない場面が多い。
舞台セットが既に「役者を見てください」と宣言している。
メアリ・スチュアートとエリザベス1世の物語は、史実としても、史実を元にした舞台としても、かなり有名だと思う。
確認してみたら、私は役者二人で登場人物四人(女王二人と、メアリの乳母、エリザベスの侍女)を演じる舞台を2回見ているようだ。
今回の舞台は、他の登場人物も登場するいわば「群像劇」版のメアリ・スチュアートである。
どちらにしても、主役もタイトルも「エリザベス1世」ではなく「メアリ・スチュアート」である。
美貌のためかも知れないし、「19年間幽閉された末に44歳で処刑された」という悲劇性のためかも知れない。
この芝居を見て、シルビア・グラブ演じるエリザベス1世が、長谷川京子演じるメアリ・スチュアートを処刑した理由は、自身への反逆とか、イングランド王位の継承をメアリが求めたことではなく、「正統な血筋」を持つエリザベス1世の嫉妬心なんじゃないかと感じた。
エリザベス1世は、王位に就いてずっと「王位を失う」ことを恐れ続け、自分よりも「王位に相応しい」生まれであるメアリ・スチュアートに嫉妬し続け、メアリがヨーロッパ各国の王家に人脈を持ち、それらの国の助力を得てイングランドを我が物にしようとしていると怯え続ける。
一方で、メアリ・スチュアートが大人しく幽閉に甘んじていた訳ではないところが始末が悪い。
エリザベス1世の腹心であるバーリー卿が「あの女」と評し、「男たちを虜にして自分の野望を達成しようとする」と罵っていたけれど、彼女が魅力ある人物で、かつ「私がイングランド王位を継いで当然」と思っていたことも多分、事実だ。
そして、エリザベス1世は「我が儘で勝手で自分の評価だけを気にしている」あまり優秀とは言えない統治者として描かれている。
メアリ・スチュアートだって大概不安定な人物だけれど、どちらかというと「彼女を支持する人間がいて、彼女が王位を要求しても当然だよ」というスタンスで描かれているように見える。
そして、この二人の間で、ダメ男振りを発揮するのが吉田栄作演じるレスター伯という人物だ。四人しか登場人物のいないバージョンとの最大の違いは、周りの男どもの存在と、その勝手さが強調されているところである。
中でもレスター伯という人物がまたどうしようもない奴で、野心だけはあるけれど、それに見合った実力すらない、胆力もないという輩である。
メアリはレスター伯が自分を幽閉先から解放してくれると信じているし、エリザベス1世はレスター泊を寵愛してはばからない。
そして、レスター伯は女王二人に対して二股かけている。酷い。
そしてこんな奴を信じるメアリも寵愛するエリザベスも莫迦である。
山崎一演じるバーリー卿はエリザベス1世の近くにいて、イングランドの安定のためにメアリ・スチュアートを殺すべきだと何度も進言し、メアリを一時預かっていたことのある藤木孝演じるタルボットは、ことあるごとにメアリの助命を嘆願する。
今メアリを屋敷に預かっている、山本亨演じるポーレットは、メアリに冷たいと思ったら意外と「中立」「公正」を尊ぶ人物である。
三浦涼介演じるポーレットの甥のモーティマーは、海外でカトリックの教えに触れたことからカトリック教徒であるメアリを「真の女王」と思い、ついでに美貌にもやられている。
メアリと彼女の陣営は基本的に黒く、エリザベスと彼女の陣営は基本的に白く、衣装を整えている。
どっちつかずのレスター伯も白だし、メアリに味方するタルボットも白、ポーレットは中立を示そうとしてかベージュっぽいグレーっぽい色の衣装である。
エリザベス1世は、いつかの映画のように顔だけを真っ白に塗っていて、深紅の口紅でおちょぼ口を強調している。
一方のメアリはほぼスッピンに見える。
「対照」ということを意識している舞台だと思う。
「対照」というなら、メアリ・スチュアートという女性をもうちょっと極端に作っても良かったんじゃないかという気がする。
エリザベス1世が割と「愚か」というイメージで作ってあるので、メアリを「全てを計算ずくでイングランド乗っ取りを企んだ女」にも作れたし、「美貌と血筋故に本人の意思に反して祭り上げられ続けた女」にすることもできた。
この舞台では、そこは割と「想像に委ねます」という感じで、どちらかに振り切ることはしていないように見えた。
断頭台に向かうメアリ・スチュアートは、白いドレスにティアラを付け、それまでとはイメージをガラッと変えて、慈愛に満ちた表情を保ち続ける。
彼女が死んだことを悟り、エリザベス1世に立会いを命じられたレスター伯は倒れ込む。
メアリ・スチュアート処刑の知らせを聞いたエリザベス1世がレスター伯を呼び出すように命じると、執事が「レスター伯は失礼をお許しくださいと伝言してフランスに旅だった」と答える。
その伝言を聞いて、一人傲然とあるは愕然として佇むエリザベス1世にスポットを当て、そして幕である。
こうして今思い返しているとツッコミたくてうずうずする。
しかし、芝居を見ているときは、異様に集中できた。
2階席で舞台全体が見渡せたことや、視界を遮るものがなかったことが原因の一つだったかも知れない。
見て良かったと思う。
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