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2020.02.09

「燦々」を見る

てがみ座第16回公演 「燦々」
脚本・演出 長田育恵/扇田拓也
出演 石村みか/箱田暁史/岸野健太(以上、てがみ座)
    前田亜季/酒向芳/川口覚/速水映人
    福本伸一(ラッパ屋)/野々村のん(青年座)
    宇井晴雄/藤間爽子/中村シユン
観劇日 2020年2月8日(土曜日)午後2時開演
劇場 東京芸術劇場シアターウエスト
上演時間 2時間10分
料金 4700円 

 ロビーではパンフレット等が販売されていたと思う。

 ネタバレありの感想は以下に。

 てがみ座の公式Webサイト内、「燦々」のページはこちら。

 北斎の娘であるお栄を主人公にした物語というと、私はまず朝井まかての「眩」を思い出す。本も読んだし、NHKでドラマ化もされている。 同一人物を扱っていてかつ分かっている「史実」が少ないから当然かもと思いつつ、エピソードが重なっているなぁと思いながら見ていた。
 葛飾応為という画家にとって、渓斎英泉という兄弟子や、北斎がシーボルトから西洋画法での絵を注文されたことや、火事が大好きだったというエピソードは欠くべからざるピースということなんだと思う。

 舞台は手前に回り舞台を置き、奥に欄干のない橋が半分ほどかかっている。
 幕開けは、お栄の結婚初夜のシーンだ。夫である等明は「初夜だ」を繰り返すけれど、お栄はひたすら絵を描き、半鐘の音を聞くや飛び出して行く。
 彼女には「結婚した」というつもりはどうやら全くなく、「結婚した」のも相手が油屋で油が欲しかったからだ、みたいなことをほぼ言い放つ。
 結婚したばかりの夫にしたらたまったもんじゃなかろうと思うけれど、この夫だって「北斎が義父」という看板が欲しかっただけみたいだからおあいこだ。

 結局お栄はあっという間に(舞台の上ではほとんど結婚したその日に)離縁され、北斎の工房に戻り、ひたすら絵を描き続ける。
 「燦々」のタイトルは最後までよく分からなかったけれど、この舞台はお栄が、画師として独り立ちするまでの物語、だと思う。
 離縁された直後は「薄っぺら」と言われた彼女の絵が、とにかく描きたいものを描き、見たままを絵にするという西洋画法に触れ、それを自分の中で咀嚼していわば「心の目」で見たものをそのまま描くようになり、北斎に「(自分の)雅号を入れろ」と言われたのは、お栄曰く「自分の欲を描いた」絵だった。
 そこで幕である。

 お栄はずっと「天才」である北斎の絵に負け続け、北斎のバイタリティに負け続け、それでも「描きたい」と絵を描くことに執着する。
 私には、お栄がいつどこで「自分が女である」ことを受け入れたのか、ピンとは来なかったけれど、彼女の変化というかジャンプのきっかけには常に英泉が直接間接に関わっているように描かれていたと思う。
 それならもっと強調してあざといくらいに英泉という絵師を使っちゃってもいいように思うけれど、「品良く」兄弟子の北渓に「黒の色」について語らせたり、花魁との場面を登場させたりする。

 霧里という花魁が登場するのは、お栄が描いたとされている数少ない絵の中に「吉原格子図」や「三曲合奏図」があるからではないかと思う。
 自分の絵を描くことを許可しなかった花魁が「女絵師になら」と言い、お栄が途中まで描いた絵を見て一度は「こんな表情はしていない」と席を立つものの、同席した芸者にたしなめられ、お栄を姉女郎が療養しているというよりは閉じ込められている部屋に案内する。
 この芸者が実は英泉の事実上の妻だったりするのだけれど、その辺の強引さはさておき、お栄は真っ暗な中で二人の姿を描き始める。

 やはり私にはお栄が「女である自分を受け入れ」たことの実感が感じられなかった。
 鈍感かつ抜け作なので、もっと分かりやすくお願いします、という感じがする。特設サイトに「北斎の影から逃れ、自らの絵を掴むには、女である自分を受け入れ、見つめなくてはならないと。」という記載がなかったら、むしろ己の才能と描きたいものと実際に描けるものとの差にのたうち回る、何しろ自分が描きたいと思うような絵を描く人間が隣にいて、自分はその血を引いているのだから、という角度でしか見なかったかも知れないと思う。

 舞台は、当初「竿」を投げ渡してやりとりするダンスのような動きから入り、場面転換は役者さんたちが薄鼠というのか、地味に溶け込む色味の衣装を着て片付けたり橋を移動させたり、回り舞台を回したりする。
 割と雰囲気の似た役者さんを揃えたなという印象だ。
 お栄を演じる前田亜希の低めの声が効いている。北斎を演じた酒向芳の真面目かつドスの利いた顔で笑いを取りに行こうとして果たせないのも面白い。
 脇を固める男優陣の品の良さが、この舞台そのものの品の良さを生んでいたように思う。

 せっかくならもっとあざとく! というのと、品の良さはこのままで! というのと、見ながらこちらが揺れ動いた。
 直前まで迷っていたけれど、やはり代表作と言われるお芝居には言われるだけの理由があると改めて納得した。
 面白かった。

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コメント

てがみ座制作部御中

誤った情報を記載してしまい、大変申し訳ありませんでした。
急ぎ、該当の記載を削除いたしました。

出典は確認できませんでしたので、私の完全な勘違いかと思います。
重ねて、申し訳ありませんでした。

また、間違った内容を修正する機会を与えていただき、ご指摘いただいたことに感謝いたします。
ありがとうございました。

投稿: 姫林檎 | 2020.02.11 16:21

てがみ座制作部でございます。
ご観劇、そしてご感想をお書きいただき、本当にありがとうございます。

公演データをご記載いただいているのですが、本公演は、特定原作の舞台化というものではなく、劇団側では一切その表記はしておりません。

公演中でもあることから、ネット上に公式とは違うデータが拡散されていかないよう、情報元に確認し、訂正をお願いしたいと考えております。
もし情報元がありましたらお教えください。またお手数ですが、こちらのブログも訂正をお願いいたします。
どうぞよろしくお願いします。

投稿: てがみ座制作部 | 2020.02.11 12:23

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