「天保十二年のシェイクスピア」を見る
彩絢爛豪華 祝祭音楽劇「天保十二年のシェイクスピア」
作 井上ひさし
演出 藤田俊太郎
音楽 宮川彬良
出演 高橋一生/浦井健治/唯月ふうか/辻萬長
樹里咲穂/土井ケイト/阿部裕/玉置孝匡
章平/木内健人/熊谷彩春/梅沢昌代/木場勝己 他
観劇日 2020年2月11日(火曜日)午後0時30分開演
劇場 日生劇場
上演時間 3時間35分(20分の休憩あり)
料金 13500円
ロビーではパンフレットやTシャツなどのグッズ販売が行われていたけれど、チェックしそびれてしまった。
ネタバレありの感想は以下に。
2002年上演のいのうえひでのり演出版は舞台とDVDで、2005年上演の蜷川幸雄演出版はDVDでだけ、「天保十二年のシェイクスピア」を見たことがある。
どうやら「舞台で見た」というのは私にとって強烈な記憶らしく、ほんのりとでも覚えていたのは「いのうえ演出版」で、「前に見たのと違うなぁ」と思ったところは、蜷川演出版と重なるところが多かったようだ。
だから、多分、今回の上演も2005年に井上ひさしが自ら改訂したという戯曲を上演したのだと思う。
2005年の蜷川演出版でも木場勝己が同じ役を演じていたことに帰宅してから気づき、幕開けの口上で「昨年末に70歳になりまして」と言っていたのを思いだして、流石だ、という思いを新たにした。
どんな場面にもいて、その場に溶け込み、いい声で語って場を進めて行く。格好いいことこの上ない。
シェイクスピアの全作品を詰め込んだというこの「天保十二年のシェイクスピア」なので、それはもう語り部は絶対に必要な役どころである。
といっても、私が気がついたシェイクスピアはそれほど多くない。
幕開けのリア王(鰤の十兵衛の名前が「ブリ」「テン」から来ているなんて気がつかなかった)、佐渡の三世次の三代目リチャード、きじるしの王子がハムレットでかっさらい、清滝の婆がマクベスの魔女に重なり、お里の不貞を三世次が吹き込むところでオセロー、桶職人の若者と花魁の恋でロミオとジュリエット、清滝の婆が取り出す惚れ薬で夏の夜の夢、口上で「お客様の想像力に」と客席に語りかけるところは「お気に召すまま」かなぁ、以上、という感じだ。
大体、ヘンリー五世とか六世とか、歴史劇的な要素がどこにどう入っていたかなんて分かるものかとも思う。(いや、分かる人には分かると思う。)
シェイクスピア作品をこれでもかと詰め込みつつ、「清滝」という宿場の歴史劇と書いてしまうと大げさな感じがするので、正しい日本語かどうか分からないけれど、この作品は「宿場の一代記」になっていると思う。
一人の侠客が牛耳っていたところ、後継者選びに失敗して、子どもたちは勢力争いを繰り広げる。そこに策謀家が乗り込んできて乗っ取りを企み、口先一つで宿場をかき回し、ついには「代官」という立場にまで上り詰め、宿場からあらゆる物を搾り取ろうとする。
宿場の農民たちがそこに反旗を翻し、ついには「代官」となった男を駆逐する。後には、何も残らない。そういう「一代記」だ。
祝祭音楽劇と銘打っているだけのことがあって、かなり音楽と踊りがふんだんに入っている。
明るいメロディで、艶っぽいという形容のかなり上を行く猥雑な歌詞をくるんで届けてくる。ここが井上ひさしの真骨頂と思う。そして、健在だ。
「ことば ことば ことば」と三世次が己の武器を語る曲と、「おんな おんな おんな」と王子が潔く自分の女好きを公言する曲と、その2曲の感じはなんとなく記憶にあった。
分かりやすく、インパクトがある。
三世次が歌うと危うさというかどす黒さを隠している感じが伝わるし、王子が歌うとパッと場が華やかに明るくなる。
三世次の高橋一生も、王子の浦井健治も、それぞれに合った役だし歌なんだなぁと思う。策謀の限りを尽くす悪役と、けんかっ早い乱暴者と書くとお二人の日頃のイメージとは違う印象なのに、やけに舞台上で似合っていた。
それにしても、天保十二年のシェイクスピアって、ひたすら人が死んでいく物語だなぁと思う。
ラストシーンで、登場人物のほとんどが幽霊として並んでいるのを見て「うわっ、全員死んじゃったよ」と思ったくらいだ。
確実に死ななかったのは、清滝の婆くらいではなかろうか。しかも、清滝の婆は何回も切りつけられて生きていたから、元から生きていなかったのかも知れない。というか、そもそも魔女だから「生きている」とはいえない登場人物なのか。
そんな「暗い」物語であるにも関わらず、舞台上はあくまでも明るく楽しく猥雑である。
井上ひさしが仕組んだ渾身の言葉遊びや伏線が随所に散りばめられ、張り巡らされている。どうしてこんな大変なことを始めちゃったんだろう、そしてそれを完遂させているところが凄いよと思う。
そのすごさとかすさまじさを見せずに楽しませようと、役者さんたちがまた渾身の演技と歌と踊りを見せてくれているのだと思う。
エンタメだよ、やっぱりエンタメって凄いよ、徹するってのは力だよ、と思った。
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コメント
アンソニーさま、コメントありがとうございます。
おっしゃるとおり、割と最近は休憩時間が入る長めのお芝居が多いかも知れません。
気のせいでしょうか。
2時間前後で休憩なしというお芝居って、意外と少ないですよね。私の中ではこれが定番なのですが。
唐沢さんが出演されている「天保」ということは、2005年の蜷川幸雄演出のものですね。
こちらの方が、2002年版よりも今回の上演に近いような気がいたします。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2020.03.07 11:32
姫林檎様
そこ、共感していただいて嬉しいです!笑
ほんと申し訳ないですが、全体的に上演時間が長すぎてつらいです……もっと短縮できないもんかなぁと。
天保ーは映像で唐沢さんが出てるのを観たことがあります。家だとなんだか少し集中力を欠いてしまっていたので、もう一度見返したいとこですが残念ながら消してしまってがっかりです。
投稿: アンソニー | 2020.03.06 18:02
アンソニーさま、コメントありがとうございます。
全く以て大きな声では申せませんが、「最近居眠りばかり連発」のところに激しく同意いたしました。ほんと、申し訳ない限りなのですが。
「天保十二年のシェイクスピア」面白かったですよね。
もしご覧になっていらっしゃらなかったら、2002年版や2005年版のDVDもどうぞ、です。
これからも、時々は再演して欲しいなぁと思います。
投稿: 姫林檎 | 2020.02.29 20:52
姫林檎様、ご無沙汰してます!
お元気ですか?
私これめちゃめちゃはまりました笑
最近居眠りばかり連発していたのですが、
久々にしっかりと目をあけて通して
全部見ました。叶うことならもう一度
みたいくらいでした!
投稿: アンソニー | 2020.02.29 19:47