「わたしの耳」を見る
シス・カンパニー「わたしの耳 」
作 ピーター・シェーファー
上演台本・演出 マギー
出演 ウエンツ瑛士/趣里/岩崎う大(かもめんたる)
観劇日 2020年9月11日(金曜日)午後7時開演
劇場 新国立劇場小劇場
上演時間 1時間35分
料金 6500円
劇場入口で検温と手のアルコール消毒、開演までの時間はロビーの扉を開放、チラシの手渡しなし、カフェの営業なし、個人情報の登録、一つ置きの座席の配置、「ココアをご利用のお客様はサイレントモードにしてください」というアナウンスがちょっと目新しい感じで、ブロックごとの退場まで、万全の感染症対策体制が取られていた。
ネタバレありの感想は以下に。
久々の舞台は3人芝居である。
ウエンツ瑛士演じるボブは、私には最初窓のように見えたでっかいスピーカーを設置した部屋で暮らしている。
趣味はクラシックのコンサートに行き、この部屋で音楽を聴くことのようだ。
シャワーを浴びているところに、岩崎う大演じる会社の先輩であるテッドが訪ねてくる。ボブの初デートのために、料理づくりと「デートの指南」を依頼したもののようだ。
この二人のやりとりが、何とも言えずに苛つく。
ボブの「内気」を通り越しておどおどとした感じも腹が立つし、テッドの「キザ」を遙かに通り越した高飛車なところも嫌な感じだ。
もしかしてそれぞれが「典型的な内気な男」と「典型的なモテる男」を演じようとしているのかしらとも思うものの、何というかステレオタイプを目指そうとしているのかしら、という風に思って見ていた。
ボブがクラシックコンサートで隣の席になった若い女性に一目惚れし、自宅でのディナーに誘って彼女のOKをもらい、でも自信のない彼は職場で社交性を遺憾なく発揮しているテッドに「盛り上げ役」を頼んだということらしい。
あわよくば、先輩がキューピッドも務めてくれるといいなぁと思っていたに違いない。
ボブは、自分の好きなことなら延々興奮してしゃべり続けるけれど、女の子と1対1になったら黙りこくりそうなキャラに見える。
テッドに様々なダメ出しをされながらも用意を調え、「これ絶対に意味があるよね」という感じに枕元にある写真立てにテッドが今狙っている女の子の写真を貼ったところに、趣里演じるドリーンがやってくる。
彼女は、「きょとんとしたお嬢さん、だけど現代っ子」というイメージだ。
この戯曲が書かれたのは1960年代だそうだから、その当時の「現代っ子」のイメージは分からないものの、でも「現代っ子」というフレーズが浮かぶ感じの子である。
時代を考えると、タイピストとして働いて、勧められたお酒を飲み、勧められたたばこを吸う彼女は、その頃のお年寄りからは眉をひそめられるような女の子だったのじゃああるまいか。
そんな彼女とボブの間で「楽しい会話」が成立する筈もない。
しかも、どうやらボブはコンサートで隣席になっただけの彼女をかなり崇め奉っていて、彼女自身のことは見ようとも知ろうともしていないようだ。
ボブは、唯一「自分にもしゃべれる話題」として音楽のそれもクラシックやオペラについて語るけれど、ドリーンの方は実はもらったチケットでコンサートに行っただけでクラシックよりはディスコに親しみを持っているくらいの感じのようだ。
また、ボブが話し出すと周りの様子や、肝心のドリーンの様子さえ視界から外れてしまうらしい。たばこを勧めておいて、灰皿を案内しないのでは、デートのマナーとしては失格である。
当然のことながら、ドリーンの興味はどんどんテッドに傾いていき、テッドもまた悪い気分ではなく、ボブを置き去りにして二人はディナーを楽しむ。
挙げ句に、テッドは「コーヒーを淹れてくれ」とボブをキッチンに追い払い、ドリーンと次のデートの約束を交わし、連絡先を交換しようとする。
その様子を見ていたボブが、その後、テッドに対して怒りを見せるのは当然だ。どうしてテッドが気がつかないのか、理解に苦しむ。
結局、本当にボブがどうして怒っているのか分からないらしいテッドは気分を害して(でも、先輩かつドリーンの心を掴んだという余裕を醸し出しつつ)帰って行く。
自分の連絡先を渡しそびれたドリーンは、ボブとテッドが働いている会社がどこかをボブから聞き出そうとする。
ここまでやられると、ボブとしても気がつかない訳には行かないし、気がついてしまえば踏んだり蹴ったりで、一度ちょっとだけ上がった気持ちになった分、落ち込みも大きい。
ボブに懇願されて蝶々夫人のアリアの一つを聴くドリーンの様子は、本人の自己申告とは違って音楽をとても楽しんでいるように見える。
それは、ボブが惚れたドリーンの姿だ。
ボブは少しずつドリーンに近づいていき、ドリーンもキスを待つような仕草を見せるものの、いざボブに顔を寄せられると思いっきりひっぱたいてしまう。
ボブの「夢の終わり」だ。
帰ろうとするドリーンに、ボブは会社の(つまりはテッドの)連絡先を教える。
テッドとドリーンの会話を聞いていたことも、二人が行こうとしているお店の名前を言うことで伝える。
いや、だからその回りくどいねちっこい感じがダメなんだって、と言ってやりたい気持ちになる。
ドリーンは一瞬、足を止めたものの、そのまま帰って行く。
ボブは、ドリーンに聴かせたアリアをもう1回聴こうとし、そしてレコードを滅茶苦茶にしてしまう。
レコードは「壊れた」レコードそのもので、同じ箇所をブツブツ切れつつ何度も繰り返すようになってしまう。
そこで幕である。
さて、ボブとテッドとドリーンはこの後どうなるのだろう。
この三角関係はさらに泥沼へと続くんだろうか。それともボブがこのまま退場し、テッドとドリーンだけが舞台に残るんだろうか。それとも、3人全員がこの「3人」という場から去って行って戻ってくることはないんだろうか。
そこまで大きな話でなくとも、3人はそれぞれどんな「明日」を迎えるんだろう。
若いけど古い。
「古い」分、多分私分かっていないお約束がいくつもあったんだろうなぁと思う。そして「若者っぽさ」も私には分かっていない気がする。
何より、どうしてタイトルが「わたしの耳」なんだろう。「わたし」は誰だったんだろう。
色々と深読みさせようとする舞台だったと思う。
約1時間半、集中して見た。
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