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2020.09.30

「あなたの目」を見る

シス・カンパニー「あなたの目」
作 ピーター・シェーファー
上演台本・演出 寺十吾
出演 小林聡美/八嶋智人/野間口徹
観劇日 2020年9月30日(水曜日)午後2時30分開演
劇場 新国立劇場小劇場
上演時間 1時間35分
料金  6500円

 「わたしの耳」との2本連続3人芝居の2本目である。

 マスク着用、入口を含めあちこちにアルコール消毒液が設置され、靴の裏も消毒、座席は一人置きで、退席の際にはブロックごと、開口も大きくあけて換気も十分、氏名と電話番号を書いて個人情報を登録と、万全の感染症対策が施されていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 シス・カンパニーの公式Webサイト内、「わたしの耳」「あなたの目」のページはこちら。

 見ているこちらの年齢もあって、若者3人が集まった「わたしの耳」よりも、こちらの「あなたの目」の方に何となく近しいというか、落ち着くものを感じた。
 もっとも、夫婦は40代と18歳で結婚したらしいから、小林聡美が演じていた女性は多分20代の設定だろうと思う。
 そう考えると、小林聡美が若い。若すぎる。

 公認会計士で妻の素行調査を私立探偵に依頼した男を演じる野間口徹は、いつもとだいぶイメージが違う。
 白髪交じりの髪に整え、堅物っぽい頑固でエラそうな公認会計士である。
 そして、妻のことをとことん馬鹿にしている。愛しているんだか、マイフェアレディを気取っているんだか、どちらにしても「鼻持ちならない」という感じを与えるキャラクターだ。
 でも、野間口徹が演じているとこちらが思うからか、何となく弱気な感じもところどころに覗かせているところが味だと思う。

 こういう組み合わせだと、「人形の家」を思い出す。
 この夫婦が(特に妻が)「人形の家」にならないのは、タイトルでは「あなたの目」、劇中では「第三者の目」を自称する八嶋智人演じる私立探偵がそこにいるからだと思う。
 妻の素行調査を依頼されていたにもかかわらず、バスの中で隣の席に座り、分かりやすくつけ回し、たまには連れ回し、口も利かずにその妻と親しくなってしまうという私立探偵である。

 調子よくあることないことしゃべりまくるから(恐らく、しゃべっているのはあることあることだけれども、それを確認する術は依頼人にも、我々観客にもない)、胡散臭いことこの上ない人物である。
 彼がよく分からない。
 「第三者」であることが大切で、「どんな第三者か」ということは割とどうでも良かったのかも知れない。
 この「第三者の目」を分かりやすくいうと「傍目八目」ということかしらと思う。

 彼の目には、この夫婦は「ダメになるまであと一歩」のところに迫っていて、でも「奥さん」ががんばればダンナさんを改心させてまた一緒に生きてゆける夫婦に戻れるかもしれない、と映っている。
 調査対象であった筈の彼女に惚れているけれど、その彼女がまだダンナさんを愛しているとも思っていて、夫婦の関係修復に尽力する。

 この私立探偵の存在が今ひとつもふたつも分からない。もしかして人間じゃないのかも、とすら思う。とはいっても、登場のときに羽を生やしていたからといって天使に見えているわけでもない。
 彼が羽を生やしていたのは、「ベルリン 天使の詩」の天使のように、「見ているだけの存在」であることの暗示だったのかもと思う。
 見ているだけの筈が口は出す、手も出す、ついでに引っかき回している。

 最初に「調査報告」を公認会計士に向けて語り、そこへ被調査者である妻が訪ねてくるとしばし夫婦の会話となり、帰った筈の私立探偵が再登場して3人で話そうとするもどうにもならず、公認会計士は追い出され、今度は妻と私立探偵の二人の会話劇となる。
 その場の登場人物は結構めまぐるしく動いている。
 そのめまぐるしさを乗り越えて現状を把握できるのは、余計なことばっかりしゃべっているように聞こえる私立探偵の報告が的を射ていたから、なのかも知れない。

 それにしても3人しかいないから仕方がないけれど、3人ともよくしゃべる。
 それも勢いよく滑舌よく立て板に水のごとくしゃべりまくる。
 役者さん3人ともくっきりはっきりいい声でしゃべりまくるので気持ちいい。思わずそのリズムにだけ乗って、語られていることを聞き流してしまうくらいだ。

 3人揃ってこれだけしゃべりまくれるんだから、3人が3人とも頭の回転のよい人々だよ、と思う。それでも夫婦は自分のことと相手のことだけはよく分かっていない。
 私立探偵は、自分のことは分かっているみたいだけれど、自分ではない「あなた」の存在は言うほど分かっていないようにも見える。
 というか、この私立探偵の考えていることはよく分からない。行動原理といえばいいのか。感情だけで動いているようにも見えないし、理屈だけで動いているようにも見えない。
 でも、何故か一生懸命である。

 結局、妻も夫も私立探偵の言うことを聞く。
 私立探偵は、まず、妻に対して、夫と4週間口を利いてはいけない、と命じる。そして、自分とそうしていたように町を歩いて夫を連れて行きたい場所に連れて行き、ホラー映画を見まくり、チョコミントアイスを食べるよう勧める。

 彼女を説き伏せたところで、私立探偵は次に、夫の方を説得する。4週間、ひたすら妻の15m後ろをついて回るように言う。その間、彼女としゃべってはいけないが、彼女を連れて行きたい「とびきり素敵な場所」があったらそこに連れて行ってもいい。
 夫の方がよっぽど説得しがたいいわば「おおもの」だけれど、ついには、妻から聞いたばかりのネタで脅すフリをしてみせることで、夫にしぶしぶながら言うことを聞かせることに成功する。
 もっとも、それは、本当に脅したというよりも、「脅されたから仕方がない」という言い訳を夫に与えているようにも見える。

 私立探偵は、どうやら私立探偵を廃業し、公認会計士事務所の「パートナー」になることに決めたらしい。
 初仕事は、夫が彼女を追いかけ回す4週間の間の事務所の留守番である。
 夫を追い出し、かかってきた電話には「彼は4週間の休暇に入りました」と告げ、幕である。

 3人とも、よくしゃべる。
 相手に被せるようにしてしゃべりまくる。
 でも、タイトルは「あなたの目」である。
 この「あなた」は、登場人物達ではなく、観客に語りかけている「あなた」なのではないかと思う。

 「あなた」の役目は今ひとつ分からなかったし果たせなかったけれど、洒落た舞台を見た、と思う。

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