「十二人の怒れる男」を見る
COCOON PRODUCTION2020 DISCOVER WORLD THEATRE vol.9「十二人の怒れる男」
作 レジナルド・ローズ
翻訳 徐賀世子
演出 リンゼイ・ポズナー
出演 ベンガル/堀文明/山崎一/石丸幹二
少路勇介 /梶原善/永山絢斗/堤真一
青山達三/吉見一豊/三上市朗/溝端淳平
観劇日 2020年10月2日(金曜日)午後6時30分開演
劇場 シアターコクーン
上演時間 2時間10分
料金 10800円
事前及びその場の個人情報登録、アルコール消毒しての入場、チケットは自分でもぎる、ロビーでのカフェ営業中止、1席おきの配置、ブロックごとの退場等、感染症対策は万全である。
パンフレットのみ販売されていた。
また、アンケートはネットからということで、QRコードが張り出されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
劇場の真ん中に舞台を設置し、そこに陪審員が協議する部屋が設けられている。
片方の端はお手洗いで、もう片方の端はドアになっている。協議中、そのドアには外から施錠されるようだ。
法廷でのやりとりが終わり、裁判長の説諭を受けた後、この事件のために選ばれた12人の陪審員が入室してくる。
事件は16歳の少年が父親を刺殺したという容疑を受けている。
陪審員たちが決めるのは、少年が有罪か無罪かということ「だけ」である。彼が有罪であれば、同時に死刑が決まるという状況だ。
また、結論は必ず「全員一致」でなければならないというルールがあるらしい。
少年が「ぶっ殺してやる」と叫んだ直後に父親が倒れる音を聞き、少年が逃げて行く姿を見たという階下に住む老人の証言、少年が父親を刺しているところを高架鉄道越しに見たという夫人の証言があり、少年が持っていたナイフが凶器であると証言する複数の人がいる、そういう状況である。
弁護士にやる気は見られず、場の雰囲気は「有罪に決まっている」。
しかし、被告の少年は、父親が殺害された夜中の12時過ぎには映画を見ていて家にはいなかったと主張している。そして、3時頃に自宅に戻ったところを逮捕されている。
また、ナイフはどこかで落としてしまい持っていないとも主張している。
陪審員は「1番」の人が陪審員長になると決まっているようだ。
ベンガル演じる陪審員1番の男が議事を進行させようとする。
決を採ってみると、12人の陪審員のうち一人だけ「無罪」に手を挙げる人物がいる。陪審員8番だ。
彼は、「有罪かどうかは分からない」「一人の人間の生死を5分で決めるなどあり得ない。議論したい」と主張する。
一方、他の11人は有罪を確信している。
5分で終わって解放されると信じていた男達は、口々に文句を言い、8番の男を責める。
もちろん、何も言わない人物もいる。
少しずつ、ここがアメリカ合衆国であることや、この場に集まった人々の職業(広告会社社員、塗装業、自動車工場経営、銀行員、建築家、時計職人等々)が分かって行く。
それは、実際に陪審員たちがその場にいる人々の素性を知って行く過程でもある。
「有罪に決まっている」という男達に対し、陪審員8番の男は「分かりません」を連発し、分からないのだから議論をしましょう、分かることがないか議論をしましょうと粘り強くかつ静かに主張する。
その男に対し、隣に座っていた9番の年配の男が「私も無罪だと思う」と言ったことから、場が動き始める。
それでも多勢に無勢、どうしたって「有罪を主張する男達が、無罪を主張する二人を罵る」感じになったり、「責める」感じになったりする。
有罪を主張する男達は、「検察は万全の立証を行った」と思っているのと同時に、「こういう人間は人を殺すものだ」という思い込みも持っているように見える。
そこを「こういう疑問がある」「この証言には違和感がある」「人間は誰でも間違う」と、有罪を主張する人々を責めるのではなく、裁判での検察の立証の隙間を少しずつ明らかにしていこうとする8番の男は、どうやっても冷静ないい人に見える。
冷静ないい人はつまらん。
誠に申し訳ないことながら、何となく見ながらそう思っていた。
結末を知っていることもあって、有罪を主張している人々の主張には理がないと感じるし、思い込みじゃんとも思うし、こんな公的な場でそんなに己の偏見をあからさまに示すか? とも思う。
有罪を主張している人々は、どうしたって、有罪を主張している間は偏見に満ちていて、無罪に転じる瞬間にいい人になったり改心したりしたように見える。
何だかそういう「つくり」に違和感を感じた。
いい人がとことんいい人で、彼に反対する人はみんな悪人っていう構図はつまらん。
我ながら勝手すぎる感想である。
その勝手すぎる感想が浮かんだのは、やはりどこかで「12人の優しい日本人」を思い出していたからだと思う。
こちらが本歌、あちらは本歌取りをしているのだけれど、見た順番が逆だとこういうことになる。
舞台を日本に移したり、現代に移したり(だから陪審員に女性が含まれていたり)、翻案しているのと同時に、この舞台に感じた違和感を三谷幸喜が料理した結果が「12人の優しい日本人」だったのかしら、と思ったりもした。
そして、そういう波及を生むのは、この「十二人の怒れる男」という舞台の力が強くて大きいからだと思う。
そんな勝手な感想を浮かべつつも、やはり十二人の男達のやりとりはスリリングで、手に汗握ってしまう。
後ろ向きに座っている姿を見ることがほとんどの役者さんが半分近くいるのに、何故かそれも気にならない。向こうを向いてしゃべっている役者さんの背中から、その登場人物の顔や主張や雰囲気が十分に伝わってくる。
迫力であり、気合いであり、熱量だ。
十二人(そして、裁判所の役人役の方のお名前が分からない)の役者さん達をよく集めたなぁと思う。
それぞれの役者さんが、それぞれが演じるしかないように思える。
吉見一豊演じる偏見丸出しの主張をして引かれていく陪審員10番、山崎一演じる自分の息子と被告の少年を重ねて最後まで有罪を主張する陪審員3番のインパクトが強いのはもちろんだ。彼らが陪審員1番じゃなくて良かったよね、と素で思う。
堤真一演じる最初に無罪を主張した陪審員8番がいなければこの舞台は動かなかった訳で、その「動かす力」が静かだったところも印象深い。
でも、今、思い返すと、青山達三演じる陪審員9番が格好良かったよなぁと思う。陪審員9番という役も、その役の演じ方も、両方とも格好良かった。
流石、本歌である。
ガッと集中して見た。集中しすぎて、見終わったら酸欠っぽくなったくらいだった。
見て良かった。
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