「獣道一直線」を見る
ねずみの三銃士「獣道一直線」
作 宮藤官九郎
演出 河原雅彦
出演 生瀬勝久/池田成志/古田新太
山本美月/池谷のぶえ/宮藤官九郎
観劇日 2020年10月30日(金曜日)午後7時開演
劇場 パルコ劇場
上演時間 2時間35分(20分の休憩あり)
料金 10000円
入場時の手指のアルコール消毒や検温など、感染症対策を施しての上演である。
ちらほらと「一つ置きではない」着席の状況が窺えた。
ネタバレありの感想は以下に。
生瀬勝久、池田成志、古田新太の3人が揃う「ねずみの三銃士」の公演は6年ぶりだそうだ。
そんなに久しぶりだとは思わなかったし、そういえば随分と拝見していなかったなと思う。
最後のシーンで、「そうだ、そういえばこのシリーズはスプラッタだった」と思い出した。遅い。
モチーフは、Wikipediaいうところの「首都圏連続不審死事件」である。と思う。
登場する女性二人の名前も「かなえ」だし(片方のかなえさんは、色々と変名を使っているけれども)、間違いないと思う。
事件名は思い出せなかったけれど、「あの事件がモチーフだよな」と思い浮かべながら見ていた。しかし、あの事件も発生は2007年から2009年にかけてだったようだから、今から10年以上前のことである。
それでも、観客の中に年代的に「知らない」という人はいないかな、とは思う。
宮藤官九郎演じるドキュメンタリー作家が、池谷のぶえ(が主に)演じる苗田松子容疑者に突撃取材し、その「真実」を知ろうとし、妊娠中のドキュメンタリー作家の妻が「苗田松子」にハマり、ねずみの三銃士の面々が演じるところの苗田松子と同じ工場で働いている売れない俳優達が彼女の望む彼女の真実を作り出そうと、ドキュメンタリーを則ってドラマを作り始める、という筋書きだと思う。
この辺りは、売れない俳優達はそれぞれ病んでいて、苗田松子がいる練り物工場に来たのはその治療の一環だったかのようなシーンがあったり、俳優達はそれぞれ演じる役にうっかり入り込んでその境界が曖昧だったり、苗田松子が薬を用いると男達には山本美月演じる苗田松子の姿が見えたりと、虚実ない交ぜだ。
池谷のぶえ演じる苗田松子が予想通りというか、当然のごとくというか、強烈だ。
何故、男達は彼女に次々と騙されるのか。彼女に手玉に取られるのか。
その答えを、山本美月演じるかなえは「自己肯定感」だと結論づける。理由のない根拠のない自信、自分は今のままの自分でいいんだという強固な思い込み、その思い込みを他人に伝染させるパワー、そんなものに男達が引き寄せられ、進んで騙されるのだと説明する。
その説明は、自らを「保守的」だと評するドキュメンタリー作家である夫には届かない。多分、苗田松子本人にも届いていない。苗田松子がかなえを見る目は、ほとんど憐れみで構成されているように見える。
池谷のぶえが作り出す雰囲気なのか、それにどんどん引き寄せられていく山本美月からただよう不安定感なのか、3人の俳優達がどんどん演じる役に入り込んで行く様子なのか、とにかく見ているとどんどん不安なものが出てくる気がする。
世界はもしかしたら思っているようなものではないのかも知れない。
自分は狂気と正気の本当に境目の上に立っていて、1秒後には狂気に足を踏み入れているのかも知れない。
すでに狂気の世界に入っているのに自分で気づいていないだけなのかも知れない。
自分は人としてやってはいけないことを既にやっているのかも知れない。
自分がそこそこまともだと思っている価値観は、実は全く持ってマトモなどではないのかも知れない。
そんな心持ちがどんどん沸いてきて、地に足をつけていないような気持ちになってくる。
その不安な感じがどこから沸いてきたのか、何がきっかけなのかはよく分からないけれど、そういう、自分の正気を疑うような心持ちがして、芝居が終わるまでずっと続いたし、終わってもしばらくはもやもやと自分の周りを漂っていたような気がする。
そういうもやもやを共有することなく違和感を申し述べ続けていたドキュメンタリー作家が練り物の材料と一緒にミンチにされてしまうというラストが、そういう意味でも激しく強烈で、でも、ミンチにされる側にはいないらしい自分にちょっと安心したりもする。
何だかとにかく強烈な舞台だった。
毎回書いているような気がしつつ、今回もやっぱり書く。
生の舞台はいい。舞台は劇場で見たい。見て良かった。
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