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2020.11.07

「フリムンシスターズ」を見る

「フリムンシスターズ」
作・演出 松尾スズキ
出演 長澤まさみ/秋山菜津子/皆川猿時/栗原類
    村杉蝉之介/池津祥子/猫背椿/笠松はる
    篠原悠伸/山口航太/羽田夜市/笹岡征矢
    香月彩里/丹羽麻由美/河合優実/片岡正二郎
    オクイシュージ/阿部サダヲ
ミュージシャン 佐山こうた/千葉岳洋/佐藤芳明/田村賢太郎
        城家菜々/田子剛/阿部光一郎/河原真
        今井ブン/上原なな江
観劇日 2020年11月6日(金曜日)午後6時30分開演
劇場 パルコ劇場
上演時間 3時間25分(20分の休憩あり)
料金  12000円

 当初は一人置きで販売していたチケットを、制限緩和を受けて追加発売したそうで、客席がかなり埋まっているように見えた。
 満席とはなかなか行かずとも、そんな様子が嬉しい。

 もちろん、事前の連絡先登録や、入場時の検温(サーモグラフィ)、手指のアルコール消毒、場内の換気等、様々に感染症対策を実施しながらの上演である。

 ネタバレありの感想は以下に。

 bunkamuraの公式Webサイト内、「フリムンシスターズ」のページはこちら。

 「キレイ」依頼の松尾スズキによるミュージカルである。
 LGBTを含め、様々な「今」をギュっと詰め込んである感じがする。
 こちらは新型コロナウイルスや感染症を直接に感じさせる言葉を注意深く避けているように見える。
 それでも、「獣道一直線」を見たときと同様、一番強く感じたのは「不安」だった。

 ミュージカルは、信長を名乗るゲイの男性が自らがオーナーを務める劇場で語り、進めて行く。
 「現在」と、「分かりやすいようにほぼどれでも10年前」のできごとを交互に語る。
 しかし、時制の混乱はほとんどなかったと思う。それは、昔の話がほぼ10年前だったからということもあるだろうし、「**の10年前の話」という風に登場人物をクローズアップさせて見せていたからだと思う。
 そういえば、主人公のちひろの過去の話だけは12〜13年前のことだった。

 ミュージカルだし、歌も踊りも常に入っていた筈なのに、歌や踊りの印象よりも物語の印象の方が強い。
 そのくせ、物語を整理するのが難しい。
 沖縄から東京に出てきた高校生だったちひろは、その後、西新宿のコンビニの2階に住み、コンビニの店長と寝て(しかし、そこに艶っぽさはかけらもない)、無報酬でコンビニの店員を続けている。

 そこに、久々の舞台復帰を目指す女優と、その付き人のようになっている友人のヒデヨシがやってきて、その場に「たべっこどうぶつチョコビスケット(と連呼される)」があったばかりに女優は万引きしてしまう。
 現在の話が動き出すのはここからだ。
 しかし、ここにたどり着くまでで1幕分かかっている。
 コンビニの店長には元警官の弟がいたり、女優には同じくミュージカル女優を目指していた妹を車で轢いてしまった過去があったり、ヒデヨシは宝くじで当たった2億円を恋人ごと失っていたり、ちひろなユタの血を引いていたり、ちひろと一緒に働いていた韓国人の男性は実は日本語が分からないフリをしていただけだったり、ちひろを「コンビニ幽霊」と名付けて慕う首つり自殺ばかりしている若い男がいたり、舞台は広げられるだけ広げられている。

 ミュージカルだし、何というか見た目や第一印象は明るい。
 歌も踊りも明るいし、舞台上も明るい。
 長澤まさみの台詞が聞き取りやすく、一人で舞台の真ん中に立って独白しても全くすかすかな感じがしない。彼女一人で舞台を埋めている感じがある。歌っていても踊っていても楽しそうだ。
 阿部サダヲも秋山菜津子も盤石の存在感だ。

 彼ら3人を中心として、登場人物たちは割と酷い目に遭ったり言ったりしたりしている場面が多いのに、でもとにかく「前向き」とも少し違う明るさを登場人物たちに感じる。
 でも、全体として感じるのは不安感だ。

 自分のこととして感じる不安というよりは、その場のありように対する不安というのか、漠然とした不安を常に感じる。この不安な感じがどこから来ているのか、それはよく判らないけど、とにかく不安を感じる。
 主人公であるちひろが、常に「自分には芯がない」「空っぽだ」「記憶が失われている」と言っているし、登場人物の誰もが「訳あり」な過去を持っていてそれを隠そうとしたり利用しようとしたり諦めきれなかったりしている。
 だから不安なのか。

 その不安感をメタな台詞で和ませつつ、「どうなる?」「どうだったの?」という興味で最後まで引っ張られた。
 大団円風にエンディングを迎えたものの、実は放りっぱなしになっていることも多いような気がする。
 でも、納得させられるのはミュージカルの力か、松尾スズキの豪腕のなせる業か、「不安」というところはどうしようもなく共感してしまうこの頃だからなのか。
 やはり舞台は生き物だ、と思った。

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