「23階の笑い」を見る
シス・カンパニー公演 「23階の笑い」
作 ニール・サイモン
翻訳 徐賀世子
演出・上演台本 三谷幸喜
出演 瀬戸康史/松岡茉優/吉原光夫
小手伸也/鈴木浩介/梶原善
青木さやか/山崎一/浅野和之
観劇日 2020年12月19日(土曜日)午後1時30分開演
劇場 世田谷パブリックシアター
上演時間 1時間50分
料金 12000円
ほぼ満席に近かったのではないかと思う。満席に近い劇場は本当に久しぶりだ。
入場時の手指消毒、検温、座席の手すりにはパーテーション(多分、不織布製)が建てられ、終演後は規制退場(という言葉もいつの間にか一般化した)などの対策が講じられていた。
ロビーではパンフレット(1000円)が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
「テレビ業界の内側をニール・サイモンが描く」という情報だけを持って劇場に行った。
ニール・サイモンという作家自体、名前はよく聞くし、多分、上演作品もいくつか見ていると思うけれど、実際のところはどんな人でどんな戯曲を書いているのかほとんど知らない。そういえば、いつ頃の人なのかも知らない。
と思って今Wikipediaを見てみたら、亡くなったのは2018年だった。僅か2年前である。驚いた。
しかも、この「23階の笑い」が書かれたのは1993年のことである。さらに驚いた。
それはともかくとして、舞台は、マックス・プリンス・ショーという看板番組を持つコメディアン、マックス・プリンスのオフィスである。
彼はNBCテレビで90分生放送のコメディ番組を持っていて、オフィスには7人の放送作家がいる。秘書も一人いる。
物語派そこに「お試し採用」されている、瀬戸康史演じるルーカスの視点で描かれ、彼が狂言回しも務める。暗い舞台でスポットライトを浴び、我々客席に向かって説明するという舞台の運びを見ると、キャラメルボックスを思い出す。
多分、この舞台はそこを逆手に取ろうとしていて、時々、出演者同士が話しているのにお互いを見ていないことがある。
シチュエーションというか台詞の流れからすると、相手の背後の何かを指さしている筈なのに、しゃべっている役者さんの身体は完全に客席を向いていて、客席の方を指さしている。不思議だ。
何かのパロディだったのかも、と思う。
大きな事件が起きてそれを力を合わせて解決して行くというよりは、黄金時代が終わって行く様子を描いているという感じの舞台だと思う。
瀬戸康史演じる新入りのルーカス、浅野和之演じる老練なケニー、山崎一演じるロシア出身で若干英語が怪しいヴァル、吉原光夫演じる豪放磊落を狙っていそうなミルト、鈴木浩介演じるルーカスが「才能もあって性格もいい」と評するブライアン、松岡茉優演じる紅一点でこちらも男っぽさの演出に余念のないキャロル、梶原善演じる毎日どこかが悪くて病院をはしごしまくっているアイラという、一癖も二癖もある放送作家が集まっている。
その7人をまとめているんだかまとめられていないんだかよく分からないのが、小手伸也演じるマックス・プリンスで、青木さやか演じるヘレンが秘書として仕えている。
最初は「ボス」と呼ばれているこのマックス・プリンスは名前だけで姿は現さないのかしらと思っていたら、割と早めに登場した。
このボスもなかなか奇矯な人物のようで、精神安定剤(睡眠薬)をスコッチと一緒に流し込んでも眠れないと日々訴えている。
彼らのコントは、いわゆる風刺に満ちたいわば「観る人を選ぶ」コントのようで、「もっと大衆に受けるものを!」と求めるテレビ局や番組スポンサーと常に丁々発止のやりとりをしているようだ。
また、反共産主義の風潮が米国で広がっている時代のようで、そこでも政治的な要素を含む彼のコントには逆風が吹いている状況だったらしい。
だから、この舞台では、もちろん放送作家である彼らにとっては毎日が大事件だったり、人生が左右されたりしている訳だけれど、見ているこちらからすると大事件が起こるという感じではない。
何というか、全盛期を極めた人々が少しずつ弱って行く、終わりを迎えて行く、その様子が淡々と描かれているという印象だ。
コント番組の物語だし、個性がありすぎる人々の集まりなので、もちろん笑えるシーンも多い。クスっというよりは、あはは、という感じだ。
でも、そこに流れている空気は常に「斜陽」という感じだ。
一癖も二癖もありすぎる放送作家たちの集まりで、濃すぎて逆に一人一人の存在感が際立たなくなっていたようにも思う。
そういう意味では、放送作家たちとは一線を画したいわば「普通の人」のヘレンの方が目立つというか、「違う感じ」が際立っていたと思う。
そのヘレンも「作家になりたい」と言っていて、でも彼女が放送作家になれそうもないことはミルトとの会話で明らかで、逆に放送作家たち7人のすごさが際立つ。
それでも、時代には勝てない。陳腐な言い方だけれど、そういうことなんだと思う。
放送時間を削られ、スタッフを削られ、予算を削られ、ブライアンがハリウッドに引き抜かれてオフィスを去り、そして最後にマックス・プリンスはテレビ局との契約を解消することになる。
彼らのその後は、ルーカスが「ヘレンはロースクールに行った。その後のことは誰も知らない」「ブライアンは若くして死んでしまった」「出世した者も落ちこぼれた者もいる」と語っただけである。
そして、セピアカラーに染まる中、マックス・プリンスがお別れの言葉の代わりにサックスを演奏しようとし、その周りに仲間達が集まって談笑しているシーンで幕を下ろす。
笑えて、寂しいお芝居だった。
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コメント
みずえ様、コメントありがとうございます。
ニール・サイモン、本当に僅か2年前に亡くなっているという事実は、大げさにいうと衝撃でした。何だかもっとずっと前の作家のような気がしていたので。
気がしているといえば、私は小手伸也さんを舞台でよく拝見していると思っていたのですが、自分のブログで検索をかけてみたら、少なくともブログを書くようになってから拝見したことがないらしい、ということが分かりました。
そんな莫迦な! という感じです。
こちらは控えめに言ってショックでした・・・。
舞台、笑って笑って楽しめましたよね。
やっぱり、生の舞台っていいです。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2020.12.25 15:51
姫林檎さま
私も観ました。
ニール・サイモンは、三谷幸喜が大好きな劇作家でしたね。
でも、そんなに最近までご存命だったとは知りませんでした、びっくりしました。
私は小手伸也の舞台は初めてでしたが、舞台映えするというか、背が高くて声もいいのに驚きました。まあ、顔も大きかったけれど……。
皆さん(善さん以外)背が高かった印象です。
瀬戸くんも童顔だけどわりと背が高い人ですよね、こちらは小顔ですが。
私は翻訳物はそう得意ではないのですが、三谷カラーが出ていて面白く観れました。
でも、政治的な話はちょっと引いたかな。
ラストは切なかったです。
ブライアンは、結核か肺癌のようだというのは見え見えでしたね。
役者陣の力量が素晴らしかったというのが一番の印象です。
投稿: みずえ | 2020.12.22 13:35