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2021.01.20

「ザ・空気 ver.3」を見る

二兎社「ザ・空気 ver.3」
作・演出 永井愛
出演 佐藤B作/和田正人/韓英恵
    金子大地/神野三鈴
観劇日 2021年1月20日(水曜日)午後2時30開演
劇場 東京芸術劇場シアターイースト
上演時間 1時間45分
料金 6000円  

 入場時の手指消毒、チケットは各自でもぎり、客席の間には布の衝立設置、退場はブロックごと等々の感染対策が行われていた。

 ロビーではパンフレット等が販売されていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 二兎社の公式Webサイト内、「ザ・空気 ver.3」のページはこちら。

 「ザ・空気」は第1作、第2作と見ている。
 この第3作が一番、今の現実の状況にリンクした内容になっていたと思う。
 その中でずっと感じていたのは、腹立たしいというか腹に据えかねるという気持ちだ。
 きっと今の状況に対する様々な腹に据えかねる気持ちがこの戯曲を書かせたし、上演させたのだろうなと思う。

 「腹に据えかねる」という気分は、劇中でストレートすぎるほどストレートに表現されているにもかかわらず、何故だか「自分が思っていることを台詞に書いた」という感じがしない。
 それは、どことなく俯瞰している視線を感じるからかも知れないし、劇中で最も現状に憤っていた筈の人々が次々と負けて行く、救いがないと言えばいいのか、現実に即したと言えばいいのか、だとすると現実は救いがないということになるのか、そういうエンディングを迎えたからかも知れないと思う。

 舞台は、BSのテレビ局、ニュース番組制作の現場である。
 神野三鈴演じるチーフプロデューサー星野はこの日の生放送を最後にアーカイブ室に異動することになっており、それは「政権に批判的な番組を作り続けてきたことへの報復人事」だとささやかれている。
 この日のニュースでは、政権交代から4ヵ月が過ぎた現政権を振り返るコーナーが予定され、そこでは「政権寄り」と「政権に批判的」なコメンテーターがそれぞれゲスト出演することになっている。

 佐藤B作演じる「政権寄り」のコメンテーター横松が局にやってきて、検温で37.4度だったことから会議室のどこかに押し込められ、アシスタントディレクターが見張りのように付けられている。
 彼は政権との親密振りを隠すことなく、むしろ誇示しているようにすら見える。
 星野とはもちろん、犬猿の仲とは言わないまでもお互いを牽制し合っているようなところがある。

 星野は、コメンテータを招き入れた会議室で「桜田(桜木だったかも・・・・。己のダメな記憶力が疎ましい。)」という人物の思い出話を始める。彼は、横松の新聞社時代の後輩であり、臆することなく政権批判も行っていたニュース番組のアンカーマンだったが、テレビ局のこの部屋で亡くなったようだ。
 新聞社時代には同じ方向を向いていた筈の男二人が、いつか対立するような関係になっている。その横松に向かって、星野は「桜田は横松さんを慕っていた」云々と語る。後で分かることだけれど、嘘八百だったようだ。

 しかし、その話を聞いた横松の様子が一変する。
 会議室から逃げ出そうとし、打ち合わせが始まるとまるで桜田が乗り移ったかのような言動を始める。
 発熱がある人へのそこはかとない差別、横松によるサブキャスターの女性へのセクハラ、「問題があってまず首を切られるのは外部スタッフだ」という現状等々、メインに「政権とマスコミの癒着」を据えつつ(というように感じられた)、様々な問題あるいは状況でさりげなく矢継ぎ早に示されて行く。
 これが現実かよ、という気持ちと、これが現実なのねと納得してしまうような現実が自分の身の回りにもあるんだよな、という気持ちと、両方が湧いてくる。

 自殺した後輩の話を聞き、そして自身の健康状態もあって、横松は「学術会議の任命拒否問題」について首相が虚偽の答弁を繰り返してきたことを示す証拠があると言い出す。その証拠を、この日のニュース番組で公表しようと言い、星野もその提案を受け入れる。
 和田正人演じるチーフディレクターは反対するけれど、星野は「責任は私が取る」「あなたは知らなかったことにすればいい」と、横松とともに作戦を練り始める。

 しかし、アシスタントディレクターが横松に「それらしく作ったコピーの資料」をメールで送る際に、うっかり、番組スタッフ全員に同送してしまう。
 もちろん現場は大混乱だし、その中でチーフディレクター一人は真っ向勝負で公表しましょうと言い、乗り気だった若手二人は「嘘でした」と誤魔化そうとする。局の幹部からも次々と星野に電話連絡が入ってくる。
 それでもやろうという横松に対し、星野は最後の最後で日和り「うちの局に政権の首は飛ばせない」と、この日の公開を見送ろうと言う。
 「この日の公開を見送る」ということは、つまり、握りつぶすということだ。

 その星野に対し、「あなたが正義の味方でいられたのは、私のようにギリギリのところで反対して止める人間がいたからだ」「あなただって既に”落とし穴”に落ちている」と言い渡し、横松は「自分は癌がリンパに転移し、そのために発熱している」と告白した上で「自分は今日の出演は見送る」と言って帰って行く。
 その横松を星野が止めることはない。
 そして、星野は蒼白な顔で嗚咽を漏らす。そこで幕である。

 ラストに向かう流れの記憶が今ひとつ定かではなく、でも、この順番がかなり重要な気がする。恐らく、物事が起こる順番が違っていたら結末もかなり変わっていたのではないかという気がする。
 そして、そういうことは本当に普通に何気なくいつも起こる。

 自主規制だったり「忖度」だったりを「落とし穴」とこの芝居では表していたと思うけれど、それと同時に、そういう偶然なんだか必然なんだか分からない何かの流れに乗ってしまったことも「落とし穴」の一つのような気がするし、しかし、後者を「落とし穴」と言ってしまうのはいけない間違っていることのように思う。
 桜田が最後に横松に電話して「あなたのようにはならない」と伝えたことは、果たしてどちらだったんだろうと思う。
 伝わらないことに絶望することもやはり「落とし穴」で、これは「伝わる」なんてことは幻想だ、でも伝え続ける必要がある、と思えるかどうかにかかっているようにも思える。

 何だかぐるぐると考えてしまう。
 「絶望する」のではなく「腹に据えかねる」で良かったとも思う。
 そういうお芝居だった。

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