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2021.02.13

「イキウメの金輪町コレクション 乙」を見る

イキウメ「イキウメの金輪町コレクション 乙」
 「輪廻TM」
 「ゴッド・セーブ・ザ・クイーン」
 「『許さない十字路(「片鱗」より)」
 「賽の河原で踊りまくる「亡霊」 乙バージョン」
作・演出 前川知大
出演 浜田信也/安井順平/盛隆二/森下創
    大窪人衛/松岡依都美/瀧内公美
観劇日 2021年2月12日(金曜日)午後6時開演
劇場 東京芸術劇場シアターウエスト
上演時間 1時間45分
料金 6000円  

 突然思い立って、当日引換券を購入し、観に行った。
 劇場内は椅子が間隔を開けて並べられていた。元々ある客席を一つ置きにするのではなく、個々の椅子を置いて椅子自体の並べ方で空間を取っている形は初めて見たと思う。

 ロビーに飾られていた金輪町のジオラマがなかなか可愛らしかった。

 本当に久々の舞台で、劇場にいられるだけで嬉しかったし、やっぱり私はイキウメのお芝居が好きだなぁと思った。

 ネタバレありの感想は以下に。

 イキウメの公式Webサイト内、「イキウメの金輪町コレクション」のページはこちら。

 イキウメの公式サイトに掲載された「概要」には「LIVE」と銘打たれていて、舞台公演ではないということかな? リーディングっぽいのかな? と思っていたら、そういうことではなかった。
 多分、動画配信を予定しているという意味だったのではないかと思う。

 それはともかく、甲乙丙と3バージョン用意された短編集の舞台である。
 3バージョンあるし、短編集だから舞台転換に時間をかける訳には行かないので、舞台セットがいつもの公演のときよりシンプルかなとは思う。
 私が見た乙バージョンは全て芝居、丙バージョンには短編集の一つとして落語が含まれているというのがいつもとの違いかも知れない。

 「輪廻TM」では、いきなり、盛隆二と大窪人衛演じる作務衣を着た二人の男が、安井順平演じるトランスジェンダーの佐久間一郎を迎えるシーンから始まる。
 一切説明なしである。
 佐久間氏も「ここには初めて来た」から彼というか彼女が疑問に思ったことを聞いてくれ、作務衣の男達の答えを聞いて、我々も「あー、そーゆーシチュエーションなのね」と理解する感じだ。
 上手い。

 そうやって知り得たところでは、彼女はタイムマシンの被験者として応募してきたらしい。
 タイムマシンというのは正確ではなくて、「自分の前世や来世に当たる生き物の視点を自分も共有することができる」マシンである。ややこしい。
 彼女は「自分の来世が分かったら、現世を寿命まで生き抜く覚悟が決まる」からやってきたのだと言う。

 彼女は、数十年後の自分の来世と視点を共有して納得し、作製者たる男の一人は自分の数百年前の前世が人間ではなく哺乳類だったことに落胆し、もう一人の作製者は弥勒菩薩が仏になるという56億年後の「来世」を見に行く。
 先に乗った二人は無事に戻って来られたけれども、最後に乗った男は果たして、というところで幕である。
 56億年後は「無」なのではないかという予測は当たっていたのか、という余韻を残して暗転である。

 次の「ゴッド・セーブ・ザ・クイーン」もまた、唐突に始まる。
 松岡依都美演じる神崎恵という女は、どうやら自殺をするためにビルの屋上にいるらしい。
 そこへ、浜田信也と森下創演じる死に神っぽい感じの男たち二人がやってくる。彼らが「この世ならざる者」っぽいことは伝わりつつ、じゃあ何者なのかということは説明されても今ひとつよく分からない。
 自殺を間抜けな感じで中断させられた女がややヒステリックに難詰することで、これまたこちらにも事情が判明して行くという仕組みである。

 彼女は会社のお金を使い込み、さらに使い込みの相棒(?)であった男を自室で殺してしまったばかり、らしい。
 男二人は、「自殺者が出るとそこにその人の思いが残って自殺志願者を引き寄せるので、なるべく自殺者を出さないようにする」ことを目的として活動しているらしい。
 突飛といえば突飛な設定である。
 突飛すぎて、あっさり納得してしまう。

 男の一人は、彼女の「現世で寿命を全うした場合」の来世と「今自殺した場合」の来世を確認し、もう一人の男が止めるにもかかわらず何故か盛り上がり、「彼女の魂を、安井順平演じる彼女が殺してしまった佐久間一郎という男に移し替え、彼女の体には男の一人が乗り移り、彼女には今後佐久間一郎という同僚の男として生きて寿命を全うさせる」という超アクロバティックな解決法を実施し、去って行く。
 彼女が寿命を全うした場合の来世は「女性天皇」だ。
 第一話と第二話がこうしてつながり、こちらにはすっきり感が漂う。

 第3話の「許さない十字路」で、しかしそのすっきり感は再び混乱に陥れられる。
 またしても登場する佐久間一郎を一転、盛隆二が演じている。彼は隣人である大河原家に「一緒にお鍋を食べましょう」と招かれてきたもののずっと「許さないからな」と言い続ける。
 身に覚えがなくても、そんなことをずっと言われ続けたらやましい気分にもなってしまおうというものだ。

 彼にずっと「許さないからな」と言われ続けた大河原家の夫は、「佐久間が好きだった近所の蘭ちゃんと不倫していました、ごめんなさい」と言い出し、佐久間には「そのことではない」と言われ、彼の告白を聞いた妻からは「蘭ちゃんとのことって何?」と冷たい目で言われた挙げ句「許さないから」と去って行く。
 その次の朝、大河原夫人は通りがかりの蘭ちゃんに一言「許さないから」と言う。
 コワイ。そして、この第3話で初めて理不尽な終わり方をする。すっきりではなくもやもやが残る。

 出勤途中ぽかった蘭ちゃんを演じていた瀧内公美は、次の「賽の河原で踊りまくる「「亡霊」」乙バージョンで奪衣婆を演じている。
 一瞬、「蘭ちゃんの出勤先は賽の河原だったのか?」と思うけれど、恐らくそうではない。
 これまで「佐久間一郎」という人物で繋がっていた3話とは一転、多分、賽の河原のこの短編は、「金輪町」コレクションの一つという以外のつながりはないのだと思う。

 賽の河原は賽の河原である。
 「親に先立つ」という親不孝をした男達が4人、奪衣婆に見られつつ、鬼の監督を受けて、石の代わりに段ボール箱を積み上げることを命じられる。
 私は、賽の河原が親に先立つ親不孝をした人間が親不孝の報いを受ける場だということ自体、芝居を見終わった後でWikiで検索して知った。話としては聞いたことがあったと思うし、その「無為な労働」が苦行だという話も聞き覚えがあったけれど、二つがくっついていなかった。なので、多分、かなりぼやっとして芝居を見てしまっていたと思う。申し訳ない。

 やはり「無心」な人から卒業させてもらえるようだ。
 その「無心」「無欲」な境地に達した「鬼」も最後には卒業させてもらい、最後まで残った男が「ドベになったら鬼になるに決まっているだろう!」と奪衣婆に怒鳴られて幕である。
 コワイ。

 色々な不思議と恐怖が集まっている金輪町なのだった。

 やっぱりお芝居っていいなぁと思う。私には必要だ。観に行って良かった。

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