「アユタヤ」を見る
MONO「アユタヤ」
作・演出 土田英生
出演 水沼健/奥村泰彦/尾方宣久
金替康博/土田英生/石丸奈菜美
高橋明日香/立川 茜/渡辺啓太
観劇日 2021年3月5日(金曜日) 午後7時開演
劇場 あうるすぽっと
料金 4200円
上演時間 2時間20分(10分間の休憩あり)
ロビーでは、(カーテンコールでの宣伝によると)MONOの30周年記念誌等が販売されていた、そうである。
ネタバレありの感想は以下に。
舞台は、山田長政がいた頃のタイ(という国名なのか)のアユタヤである。
配られたパンフレットによると、1630年頃の史実を元にしているそうだ。
そのアユタヤで、日本町からちょっと外れたところで、日本町で暮らす人々からもちょっと離れた立ち位置をキープしている兄妹の家が舞台だ。
日本町では、頭領だった山田長政がタイの中枢に招聘されていなくなってから、新しい掟が作られるなどどんどん息苦しくなってきており、その状況に納得の行かない妹ツルは、いわば「世直し」を志している。
兄はそんな妹に「好きなようにしろ」と言いつつ心配しており、日本町の中枢に近い友人に相談したりしている。
そこへ、ツルが子どもの頃に「助けてもらった」とおぼしき男がやってきて、新しい頭領に乱暴狼藉を働いて追われていると言う。当然、ツルはその男を助けて・・・、というお話だ。
タイにまで渡って、日本にいた頃の「士農工商」を死守しようというのも愚かしいし、しかし死守しようとしている人々は「それが当然」と思っている。むしろ「守るべき文化」と思っているのかも知れない。
ツルの兄の一之介は、日本町の「輸出のルール」から外れて、独自のつながりで長崎の商人と直接貿易を行ったり、職人達から直接「商品」を買い付けたり、そういったことを尖っている訳でもなく自然に行っている。
多分、一之介のあり方というのは一種の理想なのだと思う。
彼には差別意識のようなものは全くなさそうに見える。
タイで生まれ育った梅蔵やタイ人の父を持つクラは同朋である筈の日本からやってきた日本人たちに「差別されている」と感じている。実際、元武士の妻であるヒサは完全に上から目線で物を言っているし、平気で命じたりしている。
一之介は、彼らのことを単純に「友人の一人」「信頼できる商売相手」と考え、接している。
タイ人であるホアン・バー・タンに対しても同じだ。「時間は守らないけど信頼できる商売相手」と考えていて、彼が操るちょっと怪しげな日本語も何故か通じていて、「心だ」と胸の辺りを拳で叩く。
タイの社会の中で孤立しつつある日本町は、その中でもどんどん狭量になっていっている中、彼は飄々とし、淡々としているように見える。
自然で押しつけがましくない。
それを本人は「自分の周りのことは分かる。それ以上のことは分からない。だから(ツルのように正義に向けて)真っ直ぐは進めない」と妹に説明している。
理想だよ、こういう裏表のない人物がいること自体が、土田英生の言う「夢物語」であり「甘い物語」なのかも知れない。
しかし、実際に見ているときは、「えー、甘いですか???」と思っていた。
高札に「世直し」を訴える張り紙を貼ろうとしたツルは日本町の牢に繋がれるし、「火付け」は横行しているようだし、日本町とタイ政府の間では根拠のない不信感がどんどん募っている。タイ人を追い使う日本町の頭領に腹を立てて茶碗を投げつけた男はずっと「お尋ね者」扱いだ。
日本では鎖国がいよいよ本格的になってタイに御朱印船が来なくなりつつあり、商売の算段が付かなくなって、一之介と彼の友人たちはみな「新天地」であるカンボジアを目指すことになる。
大団円じゃないじゃん! それでも「甘い物語」と言うのか! これが「甘い物語」であるのならどれだけ土田英生の感じている世界は甘くないんだろう。そう思っていた。
でも、きっとやっぱり甘い物語だったのだと思う。
一之介の周りの人々は、ツルも木村庄右衛門によって牢から助け出され、梅蔵が日本町の元武士達に襲われたけれど命は助かって元気になっている、「迷惑をかけるから」とカンボジア行きを辞退しようとして木村庄右衛門も職人である源太らの洞察と説得で一緒に行くことになる、実はひとかどの人物らしいホアンもやはり一緒にカンボジアに行くようだ。
唯一、ヒサの夫である三国喜左衛門は置いてけぼりを食らうけれども、まぁ、それはご愛敬というかエピソードのうちということで済みそうである。
この辺りは、劇団の強みであり、長く同じメンバーでやってきているMONOの強みという気がする。
完全に当て書きで、それぞれの個性やこれまで演じてきた役柄と、今回演じている役がオーバーラップしてくるからこその設定であり説得力なのだと思う。
若手の劇団員はまだ試行錯誤というかキャラが固まっている訳ではない(キャラを固めることがいいという訳でもないけれど)一方で、ベテラン勢は、もうそこにいて彼が演じていればそれが即ちリアリティ、といった境地になっていると思う。
カンボジアに行けばそこにユートピアが待っている訳ではない。タイにもユートピアはなかった。
それでも、誰一人欠けることなく、信頼する人たちと一緒に新天地に向かえることは「先に見える光」だ。
屈託を抱えている人もいれば、「全て笑ってすっきり」という訳でもないけれど、そのモヤモヤはみな口に出せていて、口に出した結果としてより状況が悪くなったりもしていない。詳らかにすることが相互理解に繋がる、というスタンスだ。
少なくとも一之介が信頼した人々の中に「悪人」は一人もいなかった。「正直者が馬鹿を見る」ということにはなっていない。
なるほど「甘い」物語なのかも知れない。
少なくとも、いくらでも辛くできたのにしなかったということなんだろうと思う。
辛い物語も心穏やかに見ることができる状況になりますように。
でも今は甘い夢をありがとうございます、と思った。
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