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KERACROSS 第三弾「カメレオンズ・リップ」
作 ケラリーノ・サンドロヴィッチ
演出 河原雅彦
出演 松下洸平/生駒里奈/ファーストサマーウイカ/坪倉由幸
野口かおる/森準人/シルビア・グラブ/岡本健一
観劇日 2021年4月2日(金曜日) 午後6時開演
劇場 シアター1010
料金 10000円
上演時間 3時間5分(20分の休憩あり)
ロビーではパンフレット(2000円)が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
登場人物たちの名前からして舞台は外国、時代は不明だけど蓄音機と電話は存在しているけれど携帯電話は存在していなさそう、舞台奥の森の中風キャットウォークを見せているときは屋外、壁になっているときは室内という感じで壁のあるなしで内と外を切り替えている。
物語の冒頭は、生駒里奈演じるドナと、松下洸平演じる弟のルーファスとの回想シーンから始まる。
舞台の狂言回しはルーファスだ。
彼の姉ドナは、彼曰く「呼吸するように自然に嘘をつく」女性で、「どこへも行ったりしないわ」と言ったきり、行方不明になっているらしい。
今では弟のルーファスが、姉から教えを受けた「嘘の極意」を駆使しつつ人を騙して暮らしているようだけれど、どうにも上手く行っていないらしく、自宅は借金の形に取られ、今暮らしている山奥にあるらしい別荘も借金の形に取られそう、というところまで追い詰められている。
姉の「命日」とされているこの日、ルーファスと生駒里奈が二役で演じるエレンディらが暮らす別荘に、岡本健一演じるドナの夫ナイフと、ファーストサマーウイカ演じるドナの夫の現在の妻であるガラの二人が、森隼人演じる町の眼科医に案内されてやってくるところから始まる。
ドナ夫婦はお互い騙し騙されて暮らしていたようだし、ルーファスはもちろんドナの「嘘」を引き継いだのは自分だと信じている。若干、弱っちいというか育ちの良さというかお坊ちゃま風の雰囲気が抜けきらず、「こいつ、詐欺師には向いていないんじゃないか」という風情を漂わせている。
ルーファスとエレンディラは、エレンディラが盗んだバッグに入っていた手帳と写真を元にどこかの化粧品会社の女社長を強請ろうとしており、ナイフ夫婦はこの別荘をルーファスから取り上げようと画策していて、実はルーファスとエレンディラが計画している強請りを演出したのはナイフ夫婦とエレンディラ、らしい。
シルヴィア・グラブ演じるナイフの先輩の売れない女優が「化粧品会社の女社長」の振りをして別荘に押しかけてきたところも彼らの仕込みである。
しかし、坪倉由幸演じる怪しげな”大佐”は彼らの仕込みではなさそうだし、ドナの命日に花を手向けに来たという野口かおる演じるシャンプーも彼らの仕込みとは関係なくやってきたようだ。
ついでに帰った筈の眼科医もうろうろしている。
眼科医の「目的」は最後までよく分からなかったけれど、他の面々はそれぞれ口には出さない目的を抱え、その目的を悟られまいと様々な嘘の煙幕を張り巡らせてここにいる。
何を争っているかはよく分からないのに「誰が勝つのか」という興味でついつい見てしまう。
そういえば、書き忘れていたけれど、エレンディラは「ドナに生き写し」であるらしい。だからルーファスは電車で掏摸を働いた彼女を庇ってこの家に連れてきた、らしい。
何というか、とにかく気持ちのいい舞台である。
「気持ちいい」と感じる理由は、滑舌だと思う。出演の役者さんたち全員、エキセントリックなことを言ったりやったり言われたりやられたりしているのに、その台詞が全てクリアで聞き取りやすい。
それぞれ口調は違うのに似たような人が集まっているような印象になっていまうところが少し損かも知れないけれど、台詞を聞くのにストレスがないって何て素晴らしいんだろうと思う。
裏返ったような声ですらクリアで、2階席の最後列にいるこちらまでガンガン届く。
出演の役者さんはたった8人である。生駒里奈が二役を演じていたから登場人物は9人で、誰かが一人で舞台にいるシーンまで含め、常に舞台上が満たされているというのも凄いと思う。
役者さん一人の存在感で舞台が埋まっている、満たされている。スカスカした感じが全くない。
そして、河原雅彦の演出は、努めて王道を狙った、という印象を受けた。ケラリーノ・サンドロヴィッチが作・演出をした作品を、別の演出家に演出してもらって再演しようというシリーズに登場する以上、王道で受けて立とうじゃないか、という気概みたいなものを感じた。まぁ、何が王道かと言われるとよく分からないので、単なる印象である。
深津絵里と堤真一が姉弟を演じたという初演を見ていたら、また、違う感想を持ったかも知れない。
一幕の終わりくらいには、「エレンディラはドナなのでは?」疑惑がほぼ確定情報として舞台上で明かされる。
ガラが脳腫瘍を患っていることが判明してみるみるうちに病状が悪化したり、そのことをナイフに告げた眼科医がナイフに殴る蹴るの暴行を受けているのを見た大佐がナイフを猟銃で撃ったり、女社長を演じるヴィヴィが逆にルーファス達を強請ろうとしたり、ドナの墓参りに来た筈のシャンプーは何故か満身創痍で、それでもドナ(であると思い込んでいるエレンディラ)を殺そうとナイフを振り回すし、騙しているのも騙しているし、命のやりとりも何故か普通に始まっている。
なのに、雰囲気は「勝ち負け」である。
何故か「最後まで”騙す側”にいられたら勝ち!」「勝つのは誰だ!」という感じで見てしまった。
でも、最後は勝ち負けでは終わらない。
次々と人が死に、去って行く人もおり、そんな中、実は警察官だった”大佐”がエレンディラを追っている理由をルーファスに語り始め、ルーファスはここへ来てやっと「エレンディラは姉のドナである」と了解したようだ。
二人は、子供の頃の思い出そのままに雨の中を走り回り、そして抱き合う。
姉弟が別荘に戻ったところで幕である。
すっきりはしない。
単純な話が好きな私としては「結論を揺るがなく示してよ!」と要求したくなる。「結局どういうことなの?」と聞きたい。「すっきりさせてよ〜」と思っている。
でも、多分、すっきりしちゃったらケラさんの芝居ではないし、すっきりさせないのが王道である。
そこも含めて、面白かった。
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コメント
みずえ様、ご無沙汰しております&コメントありがとうございます。
ケラさん演出の「カメレオンズ・リップ」とは雰囲気が違ったんですね。やはり! という感じです。
もっとも、見ているときは「ケラ演出だったら、もっと映像が使われていただろうな」くらいしか思わなかったのですけれども(笑)。
野口かおるさんの声については、私も同じように思いました!
2階席で舞台が遠く、そんなにはっきりお顔が分かった訳ではないので、余計に声に騙されかけましたです。
やっぱり舞台はいいです。
「月とシネマ」残念でしたね。その無念さはとてもよく分かります・・・。
私は逆に「新型コロナでどうなるか分からないし」、「きっとみんなそんなに舞台は見ないだろうから直前でもチケットが押さえられるに違いない」とか思っていて、いざ、「今週は行けそう」と探すと軒並み売り切れている、という憂き目に遭っています。
気軽に舞台が見られた日常が恋しいです。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2021.04.17 11:38
姫林檎さま
私は昨夜観ました。
ケラさんの作品とはいえ、演出が河原さんなので、だいぶ雰囲気が違いましたし、ケラさんがよく起用される役者さんはあまり出ていませんでしたね。
ただ、私は野口かおるさんの声が、犬山イヌコさんの声に聞こえて、一瞬彼女が出ているのかと錯覚してしまいました。似てませんでしたか?
もしかしたら初演では彼女が演ったのかも……。
みんな騙し騙されで、ワクワクドキドキの3時間でした。
我が家の坪倉さんは、最近よく舞台やドラマに出ていますね。
役者っぽくなってきたと思います。
「スカーレット」で一躍人気となった主演の松下さんは、元々舞台中心に活動されていただけあって、声も通るし活舌も良く、見ごたえある演技。
シルビアさんは、出てくると何だかミュージカルっぽくなる気がします。
ただ、みんな死に過ぎですよね……。
ところで、私今月19日に、「月とシネマ」のチケットを取っておりました。
なのになんと、貫地谷しほりさんの感染で中止に……泣きましたよ。
投稿: みずえ | 2021.04.16 11:57