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2021.06.03

「外の道」を見る

イキウメ「外の道」
作・演出 前田知大
出演 浜田信也/安井順平/盛隆二/森下創/大窪人衛
    池谷のぶえ/薬丸翔/豊田エリー/清水緑
観劇日 2021年6月2日(水曜日) 午後1時開演
劇場 シアタートラム
料金 6000円
上演時間 1時間55分

 ちょうど2ヵ月振りの観劇になった。

 ネタバレありの感想は以下に。

 イキウメの公式Webサイト内「外の道」のページはこちら。

 舞台上には間隔を開けた感じでテーブルと椅子が並んでいる。
 そこに、舞台に向かって右手奥にあるドアを開け、役者さん達が一人ずつ入ってくる。まだ客電は点いたままだ。
 このドアが斜めに傾いでいて、ドアが斜めに傾いでいるだけで何と不安定かつ不穏な空気が醸し出されるのだろうと思う。ところが、舞台が進むに連れ、この「斜めに傾いだ」ドアの存在を忘れてしまっていたのだから不思議だ。

 最後に寺泊を演じる安井順平が入ってきて椅子に座ったところで、客電が落ちたと思う。
 そして、この芝居が始まってから終わるまで、役者さんは誰一人舞台からはけることはなかったと思う。全員、出づっぱりだ。
 浜田信也演じる山鳥弟と、豊田エリー演じる寺泊妻がハグするシーンから物語が動き始める。
 しかし、物語の中心は、池谷のぶえ演じる山鳥姉と、安井順平演じる寺泊夫の二人だ。この二人は小中学校の同級生らしい。

 故郷から離れた小さな街で、偶然、この二人は再会したらしい。
 そのシチュエーションに盛り上がって再会を演出したものの、昔話はすぐに尽きてしまう。すぐに尽きてしまったくらいの昔話の量が「小中学校を通して交わした会話より多い」くらいなのだから当然だ。
 そこで、何となく寺泊夫が「悩み」を語り始め、山鳥姉が「聞きましょう」とカウンセラーのように応じたところから、二人の「今」が語られ始める。

 舞台はずっと、「二人の会話」という体裁だ。
 それぞれが語る「つい最近の過去の話」を、本人が語ったり、それぞれの話に登場する人物が出てきて会話してみたり、あるいは彼らの代わりに語ったり、色々な語り口を駆使して語られて行く。
 もの凄く久しぶりに会った二人だから「阿吽の呼吸」などというものはなく、従って「相手に分かってもらおうとして」二人は、少なくとも自分が言いたいことは丁寧に説明してくれる。

 それでも、二人が直面している「現実」が余りにも現実離れしていて、最初は分かっているつもりでも、そのうち「何のこっちゃ」と言いたくなったり、「そんな裏話が隠れていたなんて!」と思ったりしたりする。
 寺泊夫は、手品を見てその「種」を教えてもらったことをきっかけに、「物質の隙間」が見えるようになり、奥さんが異様に美人に見えるようになり、「宅配の仕事で誤配は素晴らしい」と言い始めたりするようになっている。

 一方の山鳥姉は、内容物「無」と書かれた宅配便を受け取って以降、自宅に「無」が居座り育ち続け、自宅にいると彼女には無しか見えなくなり、「無」の中を想像力で歩くようになり、生んだ覚えも引き取った覚えもない18歳の少年が「あなたの息子です」と突然自宅に現れて、自宅に帰れなくなってしまっている。
 そして、寺泊夫は、自分の妻と山鳥弟が不倫をしていると思い込んでいる。

 静かな狂気を感じさせる池谷のぶえと、沈着冷静に見せて実は思い込みの激しい男を演じる安井順平、そして、イキウメの芝居に頻繁に登場する森下創演じる「時枝」という男が、何ともあり得ないシチュエーションを構成している。
 あり得ないといえば、「無」に侵食される山鳥姉の家という設定を見せるために、本当に舞台が真っ暗になったのには驚いた。
 多分、豆電球ほどの明かりもなかったと思う。舞台の背景が白く浮かんでいるような気がするくらいの暗闇の舞台だ。
 そこに、池谷のぶえと安井順平といういい声の二人の会話が響いていた、のだったか。

 この真っ暗闇の中で声だけ聞こえるというシーンは、ラストシーン近くにもあった。
 こちらは間違いなく、池谷のぶえと安井順平の会話だけがあった。
 声と滑舌がいいって素晴らしい。それだけで説得力がある。

 二人は、それぞれの「異常事態」を己の感覚で突き詰めた結果、家にも帰れず居場所もない状態になっており、そして二人して「無」に突入することを決めている。
 「死ぬぞ」という心の声なのか、第三者の声なのか、客観的な状況を示す声なのか、二人以外の役者さんが「コロス」になってささやく声が舞台に満ちる中、ポンッと暗闇が訪れる。

 この街に時折響く山鳴りのような音は、この「無」から響いていることをこの二人は知っている。他に、時枝や、脳腫瘍で記憶が17歳まで戻っている山鳥母は知っている、のかも知れない。
 そう言われると、山鳴りの音は山鳴りの音というよりも巨大な生物のうなり声のようにも聞こえ始める。

 そして、役者さんたちが全員、舞台上で立ち尽くし、幕となる。
 実際は幕は下りず、池谷のぶえが動いてカーテンコールのために並ぶことで舞台が終わったことが示される。
 これ、動き出すタイミングって難しいんだろうなぁと思った。
 長すぎず短すぎない余韻を残して、他の全員がストップモーションでいる中で動くのは勇気が要ることのような気がした。

 分からない。二人は笑っていたけれども、少なくとも幸福な物語ではない。
 でも、見終わって何故かカタルシスを感じた。

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コメント

 みずえ様、コメントありがとうございます。

 みずえさんもご覧になっていたのですね。
 良かったですよね! 久々に舞台を堪能しましたし、イキウメの世界を楽しみました。

 時枝ってあちこちに顔を出しているんですよね。で、大抵、あり得ないことの起点は彼が担っているような気がします。
 今回、彼が舞台上で「時枝」と呼ばれたことは多分なくて、配役表で知ったのですけれども。
 いつか、時枝しか出てこないお芝居とか見てみたいです(笑)。

 こんなにまばらにしか更新していないところにお越しいただけて嬉しいです。
 ありがとうございます。
 細々と観劇もしたいですし、こちらに感想も書いて行こうと思っておりますので、またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2021.06.05 10:23

姫林檎さま

私も観ました。2日の夜の部です。
久しぶりのイキウメで、しかも緊急事態宣言次第ではまた中止になるかもとヒヤヒヤしてましたので、上演できて本当に良かったです。
満席でしたよ。

私は常々安井さんの持つ、不自然な現象も自然に思わせる演技力に感服してましたので、今回もその力が存分に発揮されたと感じました。
池谷のぶえさんも大好きな役者さんなのですが、彼女は確かに滑舌と、声もいいですね。
柔らかくて耳に馴染むんです。
そして、そう、「時枝」!
よく出てきますよね、正体が気になります。

いつもありえないことが起きているのに、こういうことってあるのかなあと思わせるイキウメの説得力。
今後も楽しみです。


投稿: みずえ | 2021.06.04 11:28

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